人魚姫の結婚
結婚式の日取りが決まり、リシェラはわくわくした。その次の瞬間からは、準備の忙しさの波に飲まれて当日まできてしまった。
「立派な花嫁姿じゃ。わしは誇らしく思う」
「お父様、ありがとうございます。」
リシェラが父王の前に跪くと、ダイヤモンドでできた素晴らしいティアラを授けられた。結婚式のドレスは、白いシルクのバンドゥに、小指の爪ほどもあるダイヤモンドがびっしりと施されたものにした。
人魚の中では、真珠は涙を連想されるとして結婚に好んで使わないのだ。ティアラとドレスだけでもまばゆいのに、この日のリシェラは磨き抜かれた宝石よりも艶やかで輝いていた。
侍女と招待した乳母は泣いていた。世界一綺麗な花嫁だと思った。
マリオンは騎士の正装に着替えて、第一王子であるトリオンと話していた。兄から「結婚したら妻を讃えること、伝えるべきことは伝えて、言わなくてもいいことは隠し通すこと」と教わった。
恋多き王子マリオンである。リシェラの体裁や気持ちが傷つくのはトリオンも避けたいところだった。
トリオンは極海の姫君を妻としている。冷たい氷のような女性だと言ってたが、この暖かく豊かな海にいるうちに随分とこちらの風土に馴染んできたようだった。それも、当初のトリオンの支えあってこそなので、「結婚したら妻を讃えること、伝えるべきことは伝えて、言わなくてもいいことは隠し通すこと」は大事なのである。
極海や近隣の海から、お祝いの使節団が到来していた。使節団は鯨の腹に入り、くつろぎながら移動してくる。子供だと頭から潮と一緒に出られるので、リシェラが子供の頃は鯨移動が大好きだった。
どこの国の使節団も男性は多いが女性が少ない。イケメン万博状態である。他国に来たらひとときの恋を楽しむのが人魚流である。だが稀に結婚することもあるので、リシェラの国の女性たちは張り切っている。
参列者が位置についた。
大きな三日月型のハープの前に、讃美歌を歌う人魚たちがいる。
音が起こった。
人を惑わすといわれるほどの美しい歌声が、喜びを歌っている。ハープからは、何音あるのか分からないほどの複雑な音の波が生まれている。
すると一対の人魚が現れた。マリオンとリシェラである。まるで神によってこの日が祝福されると決まっていたかのように、2人は光り輝いている。
国王の前で真摯な愛を誓った。
参列者のユリアーノ王子は目を見張った。文句のつけようがない美丈夫であるマリオンと、神話の世界から飛び込んできたかのようなリシェラの姿に感動したのである。
これは・・・もっと早くにくるべきだったかも。
これほどの美女が隠されていたとなると、本物の深層の姫君であろう。自分がお相手願いたかったし、番になりたかった。リシェラの理想が形になったかのようなかんばせと、フリルのようなたっぷりとした尾びれを見て思った。
夕方のダンスパーティーに備えて、自室に戻ってきたリシェラである。
部屋に入る前に護衛についていたロダンから、祝福の言葉をもらった。泣いているロダンの頬を触り、ありがとうと伝えた。小判鮫のように可愛い弟分である。
「あとはダンスパーティーね・・・。衣装選びを任せてしまったけど、どうなっているかしら?」
「はい、リシェラ様。こちらの薄桃色と紫紺の2つにしぼってございます。」
どちらも同じような形だが、微妙にちがう。
薄桃色はシエラの好きなカラーだ。細かく襞が施されたデザインは身体のラインをすっきりと見せてくれそうだ。銀糸の刺繍は美しい珊瑚たちが刺されていた。
紫色は王族の色である。全体的にゆったりとしたシルエットだが、着たら身体とのメリハリが効くだろう。金糸の刺繍がたっぷりと縁を彩っている。
どちらにしようかな・・・皆んなの意見を聞きたいけど、今日の衣装は自分で決めたいし・・・。
「こちらにするわ」
「「「はい。リシェラ様」」」
リシェラ様がお1人で選ばれた。きっとこのドレスを送ってくださった方もお喜びに違いないと侍女たちは思った。
ダンスパーティー会場の前で、マリオンと合流した。
「リシェラ、そのドレス、とても似合っている。さきほどのウエディングドレスも。こんな綺麗な人を妻にできるなんて私は果報者だ」
「お兄様、私もお兄様のような頼り甲斐のある方の妻になれて幸せですわ」
「さぁ、会場に入ろう。誰かに話しかけられても、君は自分の意思で思ったことを話していいからね」
会場はすでに盛り上がっていた。そこへ主役たちが登場し、ダンス曲が奏でられる。
人魚たちの美しい尾びれが新たな波をつくっていく。フリルの尾びれ、レースのように透き通った尾びれ、細長い絹糸のような尾びれ、様々な美の形が渦巻きになっていく。
クラゲが波に巻かれてクルクルと踊った。
第一章はこれにて終了です。
第二章は2人の新婚生活と、隣国の王子、可愛い人魚と盛りだくさん予定です!




