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DDH-24

「まぁ、こちらを」

 アンドリューの言葉に合わせて、執事長が手元を操作する。

 連中の背中の壁紙が消え、どこかの造船所ドックが映し出された。

 ライトグレイの船に、何人もの作業員がとりついている。

「ほう。DDH22か。これもリンドバーグの造船所で作ってたのか?」


 DDH22というのは、全長およそ250m、幅40mもある大型クルーザーだ。

「幅」と言ったのは、ライフル弾を縦に真っ二つに割ったような形状をしていて、正面から見ると半月型をしているから。

 クルーザータイプの船は、どうやっても船体よりも大きなカーゴスペースは持てないが、この形状なら、平面部分を活用すれば、その制限を超えられる。

 貴重品や人間は船内に収容し、比較的安価な貨物を外に出すことで、1回の搬送量を飛躍的に増やすことが可能だ。

 もっとも、メリットがあればデメリットもある。

 船内スペースが真円型と比べて単純に半分になるのだから、高い単価を得られる貴重品などの運搬量も半分になる。

 貨物運搬をコストだけで比較すれば、かえって割高につきかねない。

 さらに、アルミニウム粉末の爆発燃焼による推進は、高加速と高速度、さらに自由な航路や姿勢の制御が得られるが、スラスターを使うトレインとは桁違いのコストがかかる。

 つまり、単純に「惑星間輸送船」と考えるなら、中途半端のそしりは免れない。


 が。それも運用だ。

 平面甲板にレールガンを並べれば凄まじい火力を持つ砲艦となるし、ミサイルボッドを敷き詰めれば、その火力は戦艦に匹敵する。

 あるいはボートを並べて強襲揚陸艦にもできる。

 つまり、「民間輸送船」ではなく「軍艦」とするなら、まさに万能艦のベースだ。

 戦況と必要に応じて、小改造であらゆる状況に投入できる。

 それもあって、一見すると脆弱に見える平甲板でさえカージマーの正面装甲よりも分厚い。

 ほかの船殻については、言うまでもないだろう。

 そうなると、主な納入先も見えてくる。軍だ。


 俺の感想に、アンドリューは「DDH24や」と応えた。

 それを執事長が引き継ぐ。

「DDH22をベースに燃焼効を率向上させて、燃費と速度を改善しております。

 ランニングコストだけで言うならば、DDH22よりも3割は良くなっております」

「で? 自慢か?」

「カトリーナお嬢様をお連れくださったお礼として、こちらを受け取っていただけませんでしょうか?」

「あははははは。バカか、アンタら!

 俺にガキを売れってか? なめるなよ!」

 怒鳴り声を上げて立ち上がる俺を、ガキがきらきらした目で見る。

 が、テーブルを挟んだ向こう側は、無表情を装っている。

「あくまでも『お連れいただいたお礼』です。

 一緒にまた旅に出られるのでしたら、特にお止め致しません」

「はぁ?」


「回りくどい言い方じゃなくて、ストレートに話をするんじゃなかったのか?」

 アンドリューが、低く小さく声を出した。

「カトリーナが生きようなら、それ以上の喜びはあらひん。

 あとは、『委任状』さえもらえるんなら、クワジマさんが好きにしたらええて。

 妹に世界を見せてやってもらえひんやろか?

 この船は今までの報酬いうか感謝の気持ちゆーことで。

 委任状には別途、さらに大きう上乗せしましょうという話やけど?」


 話が噛み合っていないが……?

 いや! 俺とガキを男女の関係とみて、「別れさせるような野暮は言わないから、委任状、つまり1票を渡せ」か。

 男女の愛憎が絡めば、時に利害を無視することもあり得る。

 その不確定要素をはぶいて、アメの上にアメを山盛りしやがったんだ。

 逆に……深読みが過ぎるかもしれないが、「宇宙を見せる」を「宇宙に放り出す」と言い換えるなら、しっかり鞭もある。


 ガキを見る。

 ガキはコクンと頷くと、ニヤリと笑った。

「おっちゃん、自分で言うてたやん?

 何も即答せずに、とりあえず持ち帰って検討しろって。

 今回はアカンの?」

 そうか。舞台装置と報酬の巨大さに圧倒されていたが、基本は同じだ。

「……だな。少し考えさせてもらおう」

「こちらの提示できるものは致しましたが……足りないとおっしゃるのでしたら、可能な限り努力します」

 執事長の発言に、ガキがケラケラと声をあげて笑った。

「ホンマや。即答が欲しいときほど、相手は焦ってるって」

「だろ? 相手のペースに合わせる必要はない。

 木星の公転みたいにスピードが変わらないものならともかく、相手は船でさえないんだ。

 こちらのペースを守ること。船乗りの基本だな」

 ああ。俺の方が自分のペースを見失っていた。

 ガキが……ガキだからこそというべきか、俺の言いつけだけをしっかり守っていたんだ。

 ……助けられたか。


「そういうことだ。話が大きすぎて、即答するには手に余る。

 少し考えさせて欲しい。

 まぁ、俺ももう純真無垢な青少年じゃないし、アンタらと反目するようなバカな目は出さないから、油断してもらっていいぜ。

 ただ、少し整理して考える時間は欲しい。

 明後日の朝までには、たぶん期待に添える返事ができると思う」

 そういうと、ガキを見た。

 ガキは発泡酒のグラスに口をつけようとして、思わず離した。

「くっさー! なんか鼻? 目がしばしばする」

 アルコールはまだ早かったか。

「そうだな。とりあえず今は、ノンアルコールのジュースを出してくれ」

 言い終わって、俺は鶏の足を直接手に持ち、かぶりついた。

「あー! それアリなんや!」

 ガキがすぐ真似る。

 アンドリューと執事長は顔を見合わせ、どちらからともなく、首を横に振った。

 ドローくらいには持ち込めたようだな。


 食事が終わると、個室に案内された。

 俺とガキはそれぞれ廊下を挟んだ別の部屋に案内されたが、「同室だ!」と言うと、あっさり受け入れられた。

 やはり勘違いされている。


 通された部屋は、幅も奥行きも20mもの広さがあり、天井の高さも3m以上ある。

 天蓋つきのダブルベッドが2つと、隅にはトイレとバスルームもあった。

 ソファとテーブルで区切っているが、巨大な「一部屋」だ。

 角にはバーカウンターまでありやがる。


 俺はソファに腰を下ろすと、ガキの話を聞いてみたが、相手はガキをガキと思い込んだのか、具体的な話を碌にしていなかったらしく、それで「サインしろ」だの何だの言ってきたので、かなりムカついたらしい。

 慌ててドレスやらメイクをして、機嫌を取ろうとしたのか。

 逆効果だ。

 これくらいの年齢の時は、ガキ扱いされることを何よりも嫌う。

 とはいえ、女は女で、見た目の激変に自分で驚き、多少はマシになったらしいが……そこまでだ。


 こちらも、ガキが181票のうちの1票の選挙権と、ついでに被選挙権があるらしいことを教えた。

 当事者のガキにとっては初耳だったらしく、さらに表情が険しくなった。

 ……だけだ。


 情報交換も終わったところで、俺は部屋の隅に置かれていたノートパソコンに気がつき、ブックメイカーのサイトにアクセスした。

 たしか地球ではそろそろ、何百年も前からある大きな競馬のレースがあるはず。

 太陽系ではもっとも権威のあるレースの1つだ。

 オッズを見て……さすがにベットはしなかった。

 他人のパソコンで、銀行口座やカード情報に直接繋がっているIDを入れるのはバカだけだ。

「おっちゃんもオッサンなんやな。競馬するんや」

 ガキのぼやきを流しつつ、サイトをスクロールする。


 ブックメイカーは、何でも賭けの対象にする。

 競馬の勝敗はもちろん、コロニーの選挙から、芸能人が生む子供の性別まで。

「勝てそうなバクチあるん?」

 俺は笑って応えた。

「バクチはな。実際に儲かるかどうかじゃなくて、想像するだけでも面白いんだ」

 きょとんとするガキに、噛んで含めるように言った。

「このコロニー。火星の小さなコロニーの選挙だが、何十年も与党をやっていたのが負けそうだ」

「あー。配当が与党のが高いのが……それ?」

 さすがに地頭がいい。

「じゃ、木星の『選挙』予想も見てみるか」

「!」

 ガキが息をのむ。

 通じたか。


 俺たちが今一番気になる「選挙」と言えば、リンドバーグ家の次期当主選だ。

 当事者達は極秘のつもりだろうが、ブックメイカーはそこらの国家の諜報部よりも情報収集力がある。

 それに張る「客」も、それなりの地位と情報を持っている連中だ。

 オッズを見れば優劣も逆読みできる。


 まず、一番オッズが低いのは、正妻の長男で兄妹全体では2番目になるヤツ。

 次が、兄妹全部の長男だが側室の息子だ。

 アンドリューは3番目か。

 が、1番手でもオッズは3倍に近く、2番手との差はそうない。

 それから少し離れているが、アンドリューも5倍もはついていない。

 ちなみにガキは、名前すらないが。


 俺も船に乗るまでは、何度か選挙に行って投票した。

 そのあとは、もっぱらブックメイカーで賭けているだけだが、数字から多少は状況が読める。


 まず、1番手だが、過半数には届いていない。

 絶対多数と相対多数では、影響力が全く違う。

 2番手はさらに票が少ないが、浮動票や他候補の動き次第では目がある。

 3番目のアンドリューは、事実上目がないと読んでいい。

 が……アンドリューが2番手候補と組めば逆転もあり得るし、1番手と組めば絶対多数となる。

 となると、誰にどれほど高く売るかだ。

 181の票のうち半数近くは、勝ち馬に乗ろうという日和見だろう。

 単純化して100票が動いていると考えれば、3番手のアンドリューが持っているのは10票か、あって20票だろう。

 となると、ガキの1票はアンドリューにとって1/181ではなく1/10の重さを持つ。

 リンドバーグ家の当主選出のキーマン、あるいは右腕ともなれば、コロニーのオーナーよりも絶対的な権力者となり得る。

 それこそ、DDH22……24だったかなんて、端数とも呼べないような端金だ。

関西弁風味の会話がありますが、TVのバラエティで芸人がしゃべっているのと、若干違う気がするかもしれません。

はい。いわゆる「吉本弁」ではなく、かなり強めに「神戸弁」を意識しています。

つーても。ガチで神戸弁やっちゃうと通じなくなるので、そのへんは塩梅をきかせつつ。


ただ……相手方はともかく、なんでここにきてヒロインの神戸弁が強くなったのかは、書いている私にも謎です。

あえて理由をつけるなら、「故郷」にかえって油断している……とかも頭をよぎりましたが、主人公達はむしろ警戒を強めているので、それもないよなーって。

マジ、謎です(苦笑)

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