第2話 百聞は一見にしかず
ネスに連れられ市場の奥にある大きな天幕へとたどり着いた。
「ここが奴隷市場だよ。中はちょっと暗いから足元に注意しろよ。」
「あぁ。わかった。」
ネスに促されてマルセロは天幕の中へと入っていった。
「おや。ネス様ではないですか。どうしました?忘れ物でも?」
ニヤニヤとした奴隷商人と思われる男が近寄ってきた。
「ズージさんすいません。友達が奴隷市場を見てみたいと言って連れてきてしまいました。」
「ほぅ。そうですかそうですか。どうぞご覧下さい。奴隷市場はいつでも販売していますので。ご希望がございましたら言ってくださいね。」
「だ。そうだ。まぁ見てみるがいいよ。俺も一緒に着いて行ってやるからさ。」
マルセロは無言で肯きネスのあとに続いて歩いた。
中をみると大きめな牢屋に10人ぐらいの半獣人が肩を寄せ合い固まっていた。
するとズージが
「立て!奴隷共!お客様だ!きちんと並ぶのだ!」
と怒声をあげた。すると固まっていたものが一人ひとり立ち上がり整列した。
見たところ年齢は5~20歳ぐらい。男性も女性もいる。
ネスの言うとおり顔は獣顔の獣人族ではなく人族と同じだが獣耳と尻尾がある。
そんな牢屋が天幕の中に10個。中にいる人数が10人前後の為この天幕の中には100人近くの奴隷がいるのだ。
澱んだ空気を醸し出している。皆、目に光がない。
そんな天幕の中をネスはゆっくりじっくりみて回るようにマルセロに促すが
「ごめん。ネス。出よう。」
そういってマルセロは天幕を出て行った。
「うぉい!マルセロ!待てよ!ズージさん申し訳ないがまた!」
ネスもマルセロを追って天幕を出て行った。
「マルセロ待てよ!おい!マルセロ」
マルセロは無言で進んで行く。そんなマルセロの肩をネスは掴んだ。
「待てって!マルセロ!半獣人が気持ち悪いのはわかるが勝手に行くなよ!ズージさんに悪いだろうが!」
というネスをマルセロは睨んだ。
「ん?なんだよ。何が気に食わないんだ?」
「半獣人が気持ち悪い?気持ち悪いのはあの建物だ!半獣人のどこが気持ち悪いんだ!」
「お前何言ってるんだ?人族でも獣人族でもない半獣人だぞ。気持ち悪いに決まっているだろ。あいつらは奴隷以外で生きていてはいけない存在だぞ。」
「なんで半獣人だと奴隷以外で生きていけないんだ。なんであんなに悲しそうな目をしないといけないんだ。意味がわからない。みんなが笑顔になれるように頑張って魔王倒してきたんだよ。何の為にやってきたんだよ。あんなに悲しい目をした人達が居ていいはずがないじゃないか!」
「ちょっと待て。半獣人は人ではない。奴隷だぞ。これは常識だ。」
「常識?何が常識だ!ただの差別じゃないか!人族と獣人族の子が半獣人だろ!親は何をしているんだ!差別なんて許されるわけないじゃないか!」
「なぁマルセロ。お前がどうしてそこまで怒るのかがわからないが半獣人ってのはな、奴隷の為に生まれるんだよ。親もお金の為に半獣人を作るんだ。だから生まれた時から半獣人は人族でも獣人族でもない奴隷なんだよ。」
「え?お金の為に半獣人を作る・・・。生まれた時から奴隷?」
「そういう事だ。だからお前が怒る理由が俺には全くわからんな。半獣人は奴隷。これは当たり前のことだからな。」
「もういいや。わかった。気分悪いから帰るわ。」
「帰るって。お前どこに帰るんだ?昔の宿か?」
「どこだっていいだろ。ほっといてくれ。一人になりたいんだよ。」
そういってマルセロはネスの元から走り去った。
「何だあいつ。」
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マルセロは屋敷に戻りソファへ倒れこんだ。
「これが帝国の常識。なんであんな悲しい目をしているんだよ。何の為に魔王倒してきたんだよ。魔王を倒したらみんなが幸せになるって王様もルーズベルト様も言っていたじゃないか。」
マルセロはそのままソファで寝てしまった。
翌日。マルセロは一人奴隷商人の天幕の前に居た。
「すいません。入ってもよいでしょうか。」
天幕の外から声を掛けた。
「はいはい。いらっしゃいませ。どうぞ。」
中から昨日のズージが出てきた。
「おや。昨日の方ですね。どうぞごゆっくりご覧ください。」
そういうとマルセロは中へ歩を進めた。
「ここには120人の奴隷がおります。金額は1人金貨1枚~10枚といったところですね。種類も様々です。猫族・犬族・鳥族などが居りまして人気は狐族の半獣人ですな。家事などは犬族の半獣人がオススメです。護衛であれば虎族や猫族の半獣人でしょうか。それぞれが元の獣人族よりは劣りますが人族よりは優秀だと思ってください。
ご希望はございますか?」
「いや特に希望とかはないかな。話をしても大丈夫でしょうか。」
「ええ。結構ですよ。」
一つの牢屋の前に立ち声中の半獣人達に声を掛けた。
「こんにちは。」
返事がない。ただこちらを悲しい目で睨んでいる。
「何か?」
一人の虎族と思われる半獣人が答えてきた。
「君達はこの環境に満足しているの?」
「満足?生まれた瞬間から奴隷の自分が何に不満を持つというのでしょうか?」
「あぁ。そうかごめん質問を変えよう。
もしここから出て自由になれるとしたら何がしたい?」
「さぁ。ずっと奴隷ですから。何が出来るかなんかわかりませんね。
ただ、好きなことができるのであれば笑って暮らしてみたいですね。
人族や獣人族と同じようにね。世間では勇者が魔王を倒したって聞いていますが我々にとってはどうでも良い話ですよ。どこにいたって結局は奴隷なだけだから。」
なげやりな虎族の半獣人の目からは希望などを見つけることはできなかった。
「で。誰を買っていくんですか。性奴隷なら俺は論外ですしね。」
「いや。まだ見てまわるよ。何も結論は出てないから。」
「そうですか。」
そういって半獣人は奥へ下がっていった。
「ふむ。お客様は奴隷に何か思うところでもございましょうか?」
ズージはこちらを窺うように尋ねてきた。
「昨日初めて奴隷を見たので色々と尋ねてみたくなっただけです。どんなことを考えているのかも知りたかったので。」
「そうですか。ところで、どんな奴隷をお望みですか?」
「あっっと・・・家事!家事ができる人が欲しいんです!」
「ふむ。家事ですか。そうしますと犬族の半獣人などがよろしいでしょう。主人の命令には忠実ですから。」
「そ・そうですか。では犬族の方からお願いします。」
「かしこまりました。雌でよろしいですね。雄ですと番犬程度にしかなりませんので。」
「わ・わかりました。それでお願いします。」
そうしてズージに連れられたマルセロは犬族半獣人の牢の前に着いた。
「お客様のご要望に合う奴隷を連れてまいりますので少々お待ちください。」
とズージは言うと牢の中へ入り一人の少女を連れてきた。
「この雌は牡丹といいます。17歳でございます。
家事は万能。半獣人ですが見目は良いほうではないでしょうか。
戦闘に関しては連れて行くだけ足手まといですな。
価格は金貨8枚となります。如何でしょうか。」
ズージは一気にまくしたて商談を進めてきた。
牡丹は小柄だが愛嬌のある顔立ちをしており他の奴隷たちよりも目に光があった。
マルセロは
「わかりました。この子を頂きます。」
と金貨8枚をズージに渡した。
「ありがとうございます。ではこれより牡丹は勇者マルセロ様の奴隷となります。」
ズージはそういうとニヤリと笑った。
「な!」
「あれ?気づいてないと思われていましたか?勇者様は有名人ですからね。いやぁ~これで当店も『勇者御用達』の看板が出せますよ。」
ニヤニヤしながら出口へとマルセロを誘導した。
「またのお越しをお待ち申し上げております。」
仰々しくお辞儀をするズージをマルセロは睨みながらフードを被った牡丹と連れて屋敷へと帰った。




