↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/20

四話 『全ての道は無に通ず』

第四話でおま!



昔、本で読んだ事がある。その内容に感銘を受けたのを覚えているが、いつだったかは思い出せない。


『ある偉人は言いました。

全ての人間は無に帰る。必ず骨となり、灰となり、土に帰り、無に帰る。

悪人も善人も関係なく、無に帰る。決められた運命であり、それが世界の真理なのである。

どこを通ろうが、どこで転び落ちようが、無に通じ、無に帰る。

それが人間なのだ。

心を無にする状態を私は、「無の境地」と名付けたり。



ここに大江戸慎左ゑ門、人生の記録、全てを記す。――全ての道は無に通ず――より』



「自己紹介お終い!」

暇すぎた自己紹介が終わった。


「休み時間終わったら女子が着替えるからな! 男子は外に出るように!」

鉄拳制裁を自ら受けて立つ程、好んで痛みを知るような人間ではないつもりだ。

男子諸君、逃げるぞ! 私に着いて来い!



猛ダッシュで男子生徒全員が教室の外へと走り出した。

それはもうこの世の終わりかと思ってしまう程度に廊下へと向かう男子生徒の姿はこの上なく滑稽だったに違いない。

これぞ、男子特有の変な団結力。



「おい、お前ら。まだ早いぞ」

団結力を遺憾なく発揮したが、意味は無かったようだ。

「諸君、戻るぞ!」

「あらま、貴方いつの間に統率しちゃっているんですか」

そう言って一緒に逃げ出した吉川がいつの間にか私の隣に立っていた。

「ん、嗚呼、自然にやっていたよ」

「カリスマアピールですか、それ」

「黙れ小僧」

「それは無理です。僕は黙ると個性を失ってしまうのです」

「そんな個性失ってしまえばいい!」

「僕になら何を言っても良い訳ではないのですよ?」

「貴様に傷つく心があるものか!」

「ありゃりゃ、バレてましたか」


吉川という男、訳の分からん奴だ。

もしかすると、その方が正常なのかもしれない。

断言しよう、理解出来ない方が正常だ!


恒例のお遊びをしていたら終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

生徒全員が席に着く。

着き終わったと同時に扉が開き、教師が現れる。

そして、教卓まで歩み、口を開き、教師が喋る。


「よーし、これから身体測定だ!

女子が着替えるから今すぐ男子は出て行けこの野郎!

先生が女子生徒の安全を守るからお前らは安心して出て行きなさい、ね!」


「任せました!

――って、おい!」


男子生徒による総ツッコミ。

「男に二言はないな? 喰らえ、鉄拳制裁!」

顎にクリーンヒットッ!


白鳥と私による鉄拳制裁である。

偶然か必然か、同じ行動に出た者同士で目が合った。前にも言ったが恋ではない。

「気が合うな、白鳥」

「嗚呼、もしもパラレルワールドが存在するのなら案外俺たちベストパートナーかもしれないぞ、鶴神」

「断言しよう、それは有り得ない」

「嗚呼、俺もそう思う」

「よし、あの時の決着を今ここでつけようじゃないか」

「よろしい、ならば受けて立とう」

「――戦争の始まりだ!」



懸念していた教師の介入はなくなったので、邪魔者は何処にも居ない。

鉄拳制裁が強すぎたらしく、今頃保健室のベッドで快眠中だろう。


取り敢えず形から入るには廃れた街の広場をイメージして欲しい。

そこで出逢った因縁の二人……っ!

最愛の伴侶を殺された恨み……っ!

悪役による巧妙に仕組まれた罠……っ!

払拭する為に戦わなければならない二人……っ!

殴りあうことを強いられ、どちらかが死ぬ運命……っ!


とかそんな裏にある背景を読み取ってくれれば、涙無しにはこの決着を見られないだろうな!

盛大にほらを吹いた所で、両者、準備完了。

十分に距離を取り、安心な位置に立っている。

全身の骨を鳴らす白鳥勇次郎。

続いて鳴らそうと意気込んで全く鳴らず、哀しみに暮れる鶴神善幸。

紳士への道はまだまだ果てしなく遠いという神の啓示だと思えばなんとかなる!


先手必勝!

「世界(ザ・ワールド)!」

この技は選ばれし者だけが使えると言われた、5秒間時を止めることが可能な技である!

「――な~んてな! 嘘。そんなモノ使えんわい!」

「どこから生まれるんだその余裕はよォ~~~~~~」


これを機にキャラを作り直しますっ!

なんて見え透いた嘘は止めましょう。ゆるい日常編を彩る為の臨機応変なキャラ変更に過ぎないのだ。

というのも嘘であ~るッ!


おふざけはこの辺にして、戦闘態勢に入りましょうね、入りましょう。

左足を引き、右足を前に出す。

右手と左手を前に構える。

最後に顎を引いて、体勢の完成。

軽く二、三回程飛び跳ねて、廊下に体を馴染ませる。

万全の状態で殴り合いを始める為に、軽くストレッチをする。

足を伸ばし、手を伸ばし、背筋を伸ばし、首を鳴らし、手首を鳴らし、骨を鳴らす。

鳴らせるだけ骨を鳴らし、一連の動作が終わる。



白鳥勇次郎、貫禄の両手を広げる動作だけで終了。

さあ、整ったぞ。

集中しよう、少しの油断が命を失う原因になりかねんからな。

大袈裟と思っただろう……全くもって大袈裟ではない。

廊下を二、三回蹴り上げて――行くぞ!


「諸君、今の内にトイレにでも逃げておいた方が身の為だぞ! 忠告したからな!」

「邪魔をするのなら誰だろうと潰すまでだ……」



「逃げろーまだ死にたくねー!」

他の男子生徒全員、迅速に逃げ去ったようだ。

「これで邪魔者はいなくなったぞ、白鳥よ!」

「思う存分殴り合おうじゃねぇか、鶴神ッッッ!!!」


戦いの火蓋が今、切って落とされた。

「オラオラオラオラオラオラオラァー!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァー!!!」


どこぞの漫画のようなどこぞのスタンドを使っているかのような、熾烈な殴り合いが繰り広げられる。

拳と拳がぶつかり合う!


右ストレートが白鳥の鳩尾にヒットするもノーダメージな様子。

左回し蹴りを背中に喰らうが、大ダメージとまでは達しなかった。

お互いに全力ではないのだから、このままでは長丁場になるだろう。

それを見据え、一旦後ろに下がる。



長くなると色々と諸事情で面倒臭いので、決めさせて貰おうか。

左足を引き、右足を前に出し、左腕を引き、右腕を前に出す。

そして、右拳に全神経を注ぐ。

持ち得る全ての力を右拳に!

助走をつけて、相手の所に向かう!


懐に回りこみ、左拳で殴ると思わせ、右拳で決める。こういう算段だ。

白鳥の目の前まで走り、目の前で立つ。

左拳を振りかざす。

当然、避ける。

左回し蹴りを放つ。

右腕で防御される。

ここだ!

隙ありッ!

放て、魂ッッッ!!


「喰らえ、鶴神流奥義――鶴神ナックル!」

鶴神ナックルとは全神経を右腕に集中させて、最大出力で殴る事を言う。

ただのパンチと言われればそこで終了なので、言わないで頂けると助かる。



「何!?」

「やるじゃねぇの……」

「んな、掴まれた……ッ!?」

「やっほー鶴神ちゃ~ん」

「離したまえ……くそっ! 逃げられん」

「どうしようかな~?」

「受けて立つから早く殴れ!」

「それじゃあ、遠慮なく」


掴まれて身動きの取れないまま、右腕が振りかざされようとしている。

全神経を防御に振り切る。これが最大にして今、考えられる最高の抵抗だ。


「あの時のように止められる相手はもういない……喰らえ、零距離オープニングブロー!」

零距離必殺技は、腹筋にクリティカルヒットした。

全神経を防御に振り切っていなかったら、何本か骨が折れていただろうな。

痩せ我慢の域に達するレベルだが、尊大な自尊心を尊重する。


「少しはやるようだな」

「結構効いただろ、そんな顔しているぞ」

「効いている訳がなかろうに!」

「痩せ我慢はよせ」

「だから、効いている訳なかろうに!」

「なら、半年間の成果を見せるとしよう」

「嗚呼、私も貴様に敬意を表して全力を出そうじゃないか、喜びたまえ」

「期待してるぜ……」



目を瞑る。

意識を無に帰す。

両手を広げ、指をとんちの一休さんが考える時みたいな感じにする。

息を吐く。

頭の中を空っぽに。


「全ての道は無に通じ、無に帰る。

避けては通れない道である。それが無の境地」

「二分で片を付けてやろう」

「――秘技・阿修羅」

「瞬きするなよ、白鳥勇次郎」


足音を立てずに前に立つ。

遅い。

既に間合いに入っている。

右ストレート。

左ストレート。

右フック。

左回し蹴り。

右回し蹴り。

全てヒットしたが追い込む程ではないようだ。


「少しはやるじゃねぇの……調子こかせてもらうぜッッッ!!」

白鳥の体から煙が出始め、髪は逆立ち、そして最後に学生服の上を脱いだ。

背中を向けた途端に何かが現れた。

まるで顔である。


「成程、背中に鬼を宿しているという訳か」

「流石の洞察眼と言ったところかな? 手加減は出来なくなったから覚悟しろよ……」

「今の私は、負けはしない」

「そうかい」


白鳥勇次郎が両手を広げて立っている。

その巨躯はまさに、鬼そのもの。


「耐えろよ、鶴神」

そう言った瞬間、見えなくなってしまった。

捉えきれない。

気が付いた頃には時既に遅し。

目の前に鬼が立っていた。

右腕を振りかざそうとしている!


「ぐっ!?」

何メートル飛ばされただろうか・・・…。

「さらにぐっ!?」

このままでは無の境地が終わってしまう。


二段階目を踏む!



「危うい、危うい。甲子園優勝するまでこの体壊す訳にはいかんのだよ、白鳥君!」

「俺は壊したい。お前は壊されたくない。ならば、俺に勝てェェッッ!!」

「――終わらせてやろう」



「瞬きする間すら与えない」

「最終奥義!」

音も立てずに、懐に入り込む。

一点集中。

「阿修羅十六連撃ッッッ!!!」

「壱ッ!」

「弐ッ!」

「参ッ!」

「四ッ!」

「伍ッ!」

「六ッ!」

「七ッ!」

「八ッ!」

「九ッ!」

「壱拾ッ!」

「壱拾壱ッ!」

「壱拾弐ッ!」

「壱拾参ッ!」

「壱拾四ッ!」

「壱拾五ッ!」

「――喰らえ、これで最後だ! 壱拾六ッッッ!!!」


壱拾六の拳が一点に集う。

最後にありったけの力を振り絞った。

壱手、右ストレート。

弐手、左ストレート。

参手、右フック。

四手、左フック。

五手、右ストレート。

六手、左ストレート。

七手、右高速ジャブ。

八手、左高速ジャブ。

九手、右正拳。

壱拾手、左正拳。

壱拾壱手、右波動。これは手を開いての正拳である。

壱拾弐手、左波動。これは右の逆である。

壱拾参手、右アッパー。

壱拾四手、左アッパー。

壱拾五手、両手波動。これは両手での波動である。

最後の壱拾六手目は一点集中の左足を引いて、左腕も引いて、右足を前に出し、右腕だけの正拳突きである。


瞬きする間もなく、説明をし終えた。

白鳥は遠くへ吹き飛んだ。そう遠くへは吹き飛んでいないが、確かに少しは吹き飛んだ。

今の状態を例えるのなら、これが一番しっくり来るだろう――満身創痍。

立っているのもやっとなぐらいである。


それは相手も同じらしく、誰がどう見ても満身創痍のようで、廊下の壁に凭れ掛かっていた。

両雄、気骨だけで意識を保っている状態。

漢の勝負に情けは無用……止めを、刺しに行かなければ……。

疲れ果てた足で満身創痍の元へと歩む。

当然、無の境地はオフになってしまっている。

この後、無傷で起き上がって来たら私に勝ち目はない。それは断言出来る。


疲労困憊、満身創痍。

歩くだけでもやっとなのに遠くに吹き飛ばした阿呆はどこか。

責任者を問いただす必要がある。それは私だ。


取るに足らないゲームで言えば、1の1ぐらいの難易度だが、HPがほぼ0に近い今の状態ではイージィもベリィハァードに変わってしまう。

エンカウント、白鳥勇次郎。

敵を発見したのに自ら近づかねばならないという難儀なゲームである。

ラスボスを改心させ、仲間に引き入れることが今回のクリア条件だというのを今更感丸出しだが、教えておこう。


そろそろ考えるの行動すら無理に等しくなってきている。

今いる場所から数メートル先の廊下の壁に凭れ掛かっている漢を迎えに行く為に歩かねば。



辿り着いた。

漢の勝負で芽生えた友情を高校野球に活かすべく、最初の一言が肝心である。


「一度しか言わないからよ~~~く聞くがよい。白鳥勇次郎、私と共に甲子園を目指してみないか?」

「ああ、最初からそのつもりだが」

「愚かなる私は今、貴様が何を申したのか理解出来なかった。故にもう一度言ってくれないか」

「何度でも言うから何度でも聞け。しかし、お互いに疲れ果てているだろう? だから、三回までにしてくれ」

「早く言いたまえ」

「俺は野球部に入る予定だ、最初から、な。もしかして、俺が野球部員なのを知らないのか?」

「他人の個人情報まで知らん」

「久しぶりに白黒ハッキリさせる為に今まで闘っていたんだよな?」

「それは貴様をおびき寄せる為の餌だ」

「俺が強いモノを求めて彷徨っていたのは半年前までだ、それも知らなかったのか?」

「嗚呼、誰かさんのように他人の個人情報を網羅しておらぬのでな」

「カ~~~~~ッッ!! 無駄に負けたのか、俺は」

「半分そういうことになる」

「呆れたぜ。鶴神、お前案外抜けてるんだな」

「突然の急展開に理解するのに少し時間が必要だ、くれるな?」

「幸いなことに、まだ準備が終わらないみたいだからいくらでも悩め」


頭の中を整理しよう。

たった今起こったことだ。

簡単、至極簡単。

かくれんぼで小さな茂みに隠れているお父さんを探すぐらいに簡単だ。


箇条書きで記していくとしよう。

壱、白鳥勇次郎と再会

弐、半年前の決着をつける

参、野球部に誘う口実

四、見事勝利

伍、本来のミッション、野球部に誘うを決行

六、白鳥、野球部に入るつもりであった


理解した。

つまり、勘違いの螺旋に入り込んでしまったという訳か。

ならば、導き出された答はこれしかなかろう!



「白鳥、一つ言いか?」

「いいぞ、何でも来い」

「了解した」

私は手を差し伸べる。

「なんだ? 友情の証に熱い握手でもしたいのか?」

白鳥は疑いながらも手を伸ばす。

まんまと手を伸ばすとは、白鳥勇次郎、愚かなり。



「何の為の闘いだったんだよ、これッッッ!!!」

差し伸べられた手を払い、即座に腰に手を回し、ジャーマンスープレックスを決め込んだ。

これぞ、人間の底力。



「――決着。さて、用を足しにでも行くか」

巨体が地面に倒れこんだのを確認し、不敵に笑う様は明らかに悪役だったに違いない。

白鳥勇次郎、散る。




鶴神善幸、白鳥勇次郎による十分間の死闘――この事件が受け継がれるのはまた別の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。