第二話 『回想篇~もう一人の鶴神善幸~』
第二話で。
極秘の機密事項なのだが、諸君には説明をしておこう。むしろ、しなければこいつ時系列飛びすぎだろ、おいッッ!!ってなりかねん。
――記憶の世界とは?
記憶の世界とは即ち、胡坐を掻いて座り、過去の記憶に入り込む事である。
耐久時間は十分間。これを越えてしまうと頭が二時間から三時間働かなくなってしまう。
つまりどういうことかと詳しく説明すると、どの時代に入り込むかを決めて、その時代の視点から世界を見る事が可能なのだ。
我ながら驚きの力である。小さい頃によく夢を見ていた錯覚に陥ったが、夢ではなく昔の自分を見ているだけだったのだ。
簡単に端折ってしまうと、今は中学三年生の鶴神善幸を視点にして世界に入り込んでいるのだ。
その時代に入り、その時代の自分からその時代を見据えることが可能なのであ~る!
どうだ、これが隠れた力だ! 褒め称えたまえ!
説明はこれにて終了。
時間がないので急ぎ足で駆け巡る!
紳士道を極めるに当たって、消したい過去がある。消さなければならない過去があると言ったほうが正しいか。
遡ること、一年。
北海道から東京に引越し、馴染むはずもなく最初の中学に在籍した。
当時は右も左も上も下も全て分からなかった。
冷徹な人間しかいないのだろう、と勝手に思い込んでいた私は自己紹介も適当に流し、他人と会話をするつもりなど一切なかった。
暇な時間は本を持参し、それを読むことで解決していたのだ。
厄介なのは一ヵ月後である。
五月になり、クラス全体でよく分からないグループが出来上がっていた。
しかし、そんな中私はというと、溶け込む以前の問題で、どうしようもなかったのを覚えている。
そして、面倒な事態に巻き込まれてしまう。
どこにでもいるちょっぴりおませなヤンキーまがいの連中に目を付けられたのだ。
自分が常に無表情なのは自覚している。だからといって今更笑顔を振り撒こうなど思うはずがない。
自覚はしているが改善の余地がないこの状態を何故か不満に思われ、狙われてしまったのである。
ところがどっこい、私は紳士だ。そんな連中を相手にするはずがないと思っていた時期が私にもありました。
暗い雰囲気を醸し出していたのか何か、それが気に入らなかったのだろう。
今、思い出しているが、どう考えてもやりすぎてしまったのは否めない。
何をやりすぎたかって?
それを話すところだ。黙っていたまえ。これが中学生活、全ての終わりである。
「おい」
休み時間を読書に割いている人間に対して話しかけるとは余程の物好きと伺える。
話しかけられた以上、応えるしかなかろう。
「人が読書をしているのに話しかけてくるとはどれほど面白いことがあるのかね? なければ時間の無駄だ」
冷徹な人間しかいないのだと思い込んでいた私は話しかける事などなかった上に久しぶりに話しかけられたので、やらかしてしまった。
「なんだと……テメェ!」
案の定、怒りを買ってしまった。面倒なのは勘弁願いたいのだがどうやら手遅れのようだ。
ここは謝っておくのが賢明であろう。
「おっと、度が過ぎたようだ。申し訳ない。面倒なのは嫌いなので、勘弁願いたいのだが……」
相手は誰が何回見てもすぐに爆発しそうなフラストレーションの塊のような、面倒くさいものの集合体であった。
「テメェが気に喰わねーんだ! いつも無表情で何なんだテメェ!」
シティボーイは他人に干渉するのが好きなのか? そうだとすると変人しかいないではないか!
「貴様に迷惑を掛けたつもりはないぞ。何故存在を否定されなければならん」
空気と一体化しているこの私が興味のないクラスメイト諸君に何をした。
「そんなモン俺には関係ねぇ! 気にいらねぇったら気にいらねぇんだよ!」
訳が分からないぞ、どうなっていやがる。
「貴様は『俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの!』とか高らかに宣言しちゃうハチャメチャで理解しかねるお山の大将か何かか?」
穏やかで有名な私でもこの理解不能さには堪忍袋の緒もはち切れてしまうぞ。
この状況、天に身を任せてもさじを投げられるに違いない。ああ、一体どうすればよいのだろう。
諦めかけたその時に事件が起きたのである。
「うるせぇ、御託並べるんじゃねェッ! このクソチビがァッッッ!」
理性を保つ螺子が外れた音が聞こえた。
「表へ出ろ」
「あ!?」
「もう一度言ってやる。表へ出ろ……早く表へ出ろ!」
それ以降の記憶が全くと言っていいほど無に等しい。
かろうじて覚えていたのがこの台詞である。
気が付いた頃には、クラスメイトに羽交い絞めにされていて、そしてその輩は無惨な姿に成り果てていた。
人を一人再起不能にしてしまった私はこの一件以降、畏れられる存在になり、馴染む馴染まないどころの話ではなくなってしまった。
幸い、全治一ヶ月で済んだそうだが、どうも畏れられすぎて私の居場所はなくなってしまうという結果に陥った。
噂は噂を呼び、いつの間にかとんでもない噂が完成してしまい『人間潰しの殺戮兵器』とまで呼ばれるまでに。
校内を歩いても全てのすれ違う相手に牽制され、逃げられてしまったりなどでまさに魔王降臨状態。
名実ともに第六天魔王よろしく畏れらてしまった私にご都合主義の如くタイミングよく、引越しが決まったのである。
前々から会社が遠く、いつかは引っ越して徐々に近づいていこうと考えていたらしく、魔王になってしまった事実を話三割で告げた結果、ご都合主義よろしく転校が決定!
第六天魔王こと鶴神善幸は、東京に住んで初めて通った中学に別れを告げ、新しい中学に矛先を向けたのであった。
そんな六月。
ご都合主義よろしく転校したまではいいが、漫画というフィクションのようには上手くいかないのがノンフィクションであることを忘れていた。
無表情を極めた第六天魔王、鶴神善幸ことこの私は喧嘩を売られる星の下に生まれてきた節がある。
今、思い返して一年前を語っているが、さらに思い返せば小学生の頃からよく喧嘩を仕掛けられていた気がしなくもない。その当時は当然、力がなくて何も起こらなかったのだが。
北海道は空気が穏やかで早々おませさんはいなかった気がするのだが、東京にはおませさんでちょっぴり荒れている輩が多いな!
「おい! そこの世界と相容れない自分が格好いいとか勘違いしている無表情のお前!」
――またか。
「初対面の相手にどうしてそこまで侮辱出来るんだ貴様は!」
毎度毎度このやり取りをしなければならないのかと思うと涙も枯れてしまうな。
この展開は読めている。どうせ、また繰り返すだろう。潜在的意識を止められるほど便利な人間ではないからな。
なので、先に忠告しておくとしよう。言ったからな私は。無責任とかぬかすんじゃないよ?
「貴様、それ以上はやめておいた方が身の為だぞ。忠告したからな私は。どうなっても知らないからな!」
どうやら相手は理解出来ていない様子。誰が考えてもそうだろう。100人に100人が急にお前知らないぞ命は保証しないからな! と言われたところで頭にクエスチョンマークが浮かばない訳がない。
つまりはそういうことである。
「うるせぇ! 俺はお前みたいなやつが気に喰わないんだよ!」
何故こういう連中に圧倒的不支持なのだろうか。悲しくはならないが虚しくなってしまう。
世界と相容れない私カッコイイ! なんて1mmも思ったことないのに酷い事を言うなこの男は。人を見かけで判断しすぎではないか!
「見かけ通りひどいことを言いやがるなこの野郎! ガラスのハートをどこまで傷つければ済むんだ!」
貴様らが思っている以上に私はガラスのハートだと言うのに何なんだ……泣くぞ!
「うるせぇ、チビ野郎!」
「――あ」
「ん?」
「――ぶち殺す」
「え、マジで!?」
「――さようなら」
結末まで辿っているが、ここから意識がない。
そろそろ集中力の限界が近いので一気に飛ばすとしよう。
言わなくても分かるだろう?
つまり、また繰り返してしまったのだ。
確かこの時は全治2ヶ月だったような気がする。重ねるごとに強くなっているのは否めない。
父に相談したはずだが、またかと溜息を吐いていたのを思い出す。
しかし、まだ記憶の旅は終わりを告げない。
全神経を脳に集中させ、邪魔になるものを遮断している故、疲れてしまう。
読者諸君もそろそろ飽きてきた頃だろうし、終わらせよう。
ここからが本編であってクライマックス。最悪ここから目を通してもらっても構わない!
が! 私の苦労を知っていただけるのならば全てに目を通していただきたい!
大袈裟かもしれないが、最大の目玉なのでお見逃しなく! 見逃したら何の為に記憶の世界に潜り、何の為に旅をしているか分からないのでな!
――二度目の事件から一ヶ月後の七月。
夏休みに色々と色々な事が起きたのであった。
この世の誰一人、勝てる者はいないだろう我が姉上である鶴神嶺花にこっ酷く叱られた為に精神を鍛え上げた私は理性を自由に操る事に成功していた。
誰よりも強く誰よりも気高く誰よりも美しい。そんな姉である。安心したまえ、私情など挟んでおらぬ。
引越しが元々好きではない姉上は、余程嫌だったらしく訓練という名の罵詈雑言を意図も容易く行ったのだ。
そのおかげで理性のオン・オフを可能に出来たのだから感謝してもしきれない。だから、しない。
鶴神家が代々、体術を教わるのは鶴神家の女性が恐ろしく強いからであったのをこの夏に理解したのである。
灼熱地獄のような夏に心が極寒だったのは、全世界何処を探しても鶴神善幸しかいないだろう。
――辛い思いを乗り越えた先に勝利があると知った中学三年生の夏。
反動で夏休み最後の三連休を全て寝込むのコマンドに費やしたのは内緒である。
『一ヶ月で習得した切り替え機能のおかげで三度目の中学では特に何も起こらなかったのである』
などと、このまま何も起こらずに平々凡々な暇つぶし生活を終えるのだろうと信じていた私はとてつもない阿呆だった。
三年で転校してどこぞの野球部に所属したとしても、期間が短く関係を築ける気もしないので所属しなかったから暇すぎる学校生活を送っている!
なんとまあ、お偉いさんの決めた制度は厄介だなァ~。
腑抜けるのも仕方あるまい。
それが夏休み明けというものだろう?
許せ、姉上!
無表情を極めたこの私でも汗が零れ落ちそうなレベルで、暑い。
これ、学校に着く前に倒れてしまうんじゃないですか?
水を…………水を……く……れ。
お遊びが過ぎました事をここに謝罪致します。
記憶の世界に入ってまで遊んでいる場合じゃなかった。
ここから駆け抜けるぞ。着いてきてくれたまえ、諸君!
教室、三度目の自己紹介。転校生紹介終了。一同、偽りの拍手。
自分の席に着く。隣の生徒に軽く会釈&偽りの笑顔。
偽りしか存在しない他人になど誰一人興味のないこの教室内。難易度が革靴でチョモランマに登頂するぐらいハイレベルな、顔と名前を覚える作業はしなくてよさそうだな。
西東京界隈で少し有名になってしまった無表情少年に自ら話しかけよう、という輩は現れない。だからこそ、こちらも気楽に本を読んでいられる。
これぞ、至福の時。
「本が傷むじゃないか」
「やるじゃねェの……」
「お前から匂いがする。強いやつの匂いだ……」
東京はどうなっている! 本を読んでいるだけで殴りかかってきたぞ、おいおい!
訓練されてない一般生徒だったら今頃病院送りだぞ、どうなってるんだこの界隈は!
「何者だ、貴様」
「ただの強さを求める喧嘩野郎だ」
喧嘩野郎とは物騒な人間もいたものだ。関わりたくないが、既に関わってしまっている様子。
引くに引けない状況である。今すぐに逃げ出したいというのに。争いは何も生まないというのを何故、理解出来ないのか。
ただひたすらに平和を好む。
嘘はそこまでにして――さて、理性のONOFFを試してみましょうかね。
乗りかかった泥舟に乗るしかなかろう!
漫画で言うところの新技披露みたいでテンションが上がっているのを隠し切れそうにない。
使うなら今に違いない。タイミングを逃すほど阿呆ではないつもりだ!
スリー、ツゥー、ワン、GO!
「貴様、名を名乗れ!」
「名乗るほどじゃねぇ……強いて名乗るのならば、白鳥とでも呼ぶがいい」
「俺は鶴神だ。覚えておけ!」
「ああ、骨のあるヤツだったら覚えておいてやるよ」
「オラァ、売られた喧嘩は買うぜ、白鳥ッ!」
「そういうの嫌いじゃないぜ」
「ブッ・殺・す!」
「上等だ、先手はお前にくれてやろう」
「余裕かましてると痛い目見るぜ、おい!」
「それほど雑魚じゃない」
「それじゃ、お言葉に甘えてッ」
先手必勝、殴らせてもらうぜ。
光の速さで殴る!
……な! 外した!?
こいつただ大きいだけじゃなくて、身が軽いのか!
燃えてきたぜ、俺!
「骨のあるやつにやっと巡り合えたぜ~~~~~~~ッッッ!」
「失望させるなよ?」
「お前こそつまらんところで倒れるんじゃねェぞ!」
俺が夢見ていたのは拳と拳のぶつかり合いだったんだ。
過去二回壊したやつらは一方的すぎて面白みがなかったからな。
白熱した殴り合いは長丁場になりそうな雰囲気しかしねェ。
教室の外で殴りあう俺ら。
どうせ、俺らにしか見えていない。たぶん、動体視力がものすごく発達している奴等なら見える。
右ストレート、左フック、回し蹴り、右ストレートが数秒で行われる。
「な、全然効いてねぇ!」
「テメェ、どんな体してやがるんだ!?」
「俺の拳と蹴りが効かないやつなんて姉貴以外で初めて見たぞ……」
「地上最強の生物の名を見縊りすぎだろう。こちとら、柔も剛も極めてンんだよッッッ!」
「……歯ァ、食いしばれェッッ!」
なんて重たい拳だ。予想以上に速かった故に避けるのが遅れたか。
だが、十発なら耐えられる。あと九発喰らわなければいいだけ。
「フン、痛くも痒くもねぇな……これが本気とか言わないよなァ?」
「その割りに辛そうな顔してるじゃねぇか。これが本気? 俺は喧嘩師であってお笑い芸人とは言ってないぞ」
そうかいそうかい、俺も本気を出さないといけないようだな。
姉貴にしか本気を出したことはないんだがなァ……。
そもそも耐えられる人間が存在しない訳だが。
こいつ相手なら全力でも何ら問題ないだろう! やっちまうぜ!
壊れても俺は知らん!
「白鳥、本気出させて貰うぜ」
「歯を喰いしばれよ」
「避けはしない。その全力、受けて立とう」
余裕扱いていられるのも今の内だぜ。
これが鶴神善幸、全力の右ストレートだァ!
「喰らえ、鶴神ナックル!」
鶴神ナックルは白鳥の腹部を目掛け突き刺さった。
「…………やるな、鶴神。他人に傷つけられたのは久々だ」
「カーッ! まだまだやり足りねえなァ。そんなやわじゃないだろお前! もっと楽しませてくれよォ……」
「調子こかせてもらうぜッッ!!」
髪が逆立ち、体から煙が!?
これがあいつの本気なのか!
燃えてくるぜ。猛烈に燃えてくるぜ!
今、猛烈に感動している!
けど、白鳥の体燃えるんじゃないか? 発火するんじゃないか!?
うおおおおおおおお!!!!! 髪逆立って煙収まったぞすげぇ!!
「おい白鳥、それどうやってるんだよ! ねえ、どうなってンの!?」
「これが、俺・の・本・気・だ・!」
なんだよカッコよすぎだろ……既に負け確定しかけてるじゃん。
「このバトル終わったら俺にも教えろよな! な!」
「まだはしゃぐところじゃないぞ。教えてやるから落ち着け」
「絶対だぞ! 絶対な! 教えなかったら俺はお前を――殺す」
テンション上がった俺に勝ち確定。
「テンションの上がった俺は、お前の愛も拳も365日24時間いつ何時も受け付けている!
さあ、さあ、さあ、さあ、さあ!
俺に、この俺に、全てを受け止めてやる俺に、無償のアガペーをぶつけて見ろよッッッ!!!!!!」
「準備完了。受け止めろよ……白鳥オープニングブロ」
「喧嘩両成敗!」
「うぐっ!」
姉貴、いいところで……。
以降、意識が飛んでしまい、目が醒めたのは二時間後の午後二時であった。
二人仲良く倒れこんだそうな。
「あら、もう回想終了ですか?」
疲れ果てた私の元に届いた声がこれである。
気に喰わなかったので、一発殴ったのは言うまでもない。




