終章◆デスティニィ号にようこそ!
呼び鐘を片手に力なくぶら下げて、レイヴはトボトボと甲板に出てきた。
「…」
…甲板の一角に丸1日ずっと日陰となるポイントがある。
そこへ目をやり、ため息をつく。
「……」
――…ここはキオウの昼寝スポット。
キオウはいつも朝からここで昼寝をしていて、仲間達の馬鹿馬鹿しい騒ぎにのっそりと起き上がって「異常なまでにうるせぇんだよお前らはッ」と一喝して…。
あの頃の騒ぎが、もうすでに懐かしい…。
レイヴは甲板の中央でじーっとしているまーくんに気がついた。
「………」
…そこはいつもキオウが空間転移の魔法陣を広げる場所。
キオウはいつもここから出掛けていき、そしていつも――…ここへと帰ってくる…。
まーくんは…、その純粋無垢な心で自分の主の帰りを待っているのだろうか…。
「……まーくん…」
いたたまれない気持ちになり、レイヴはまーくんを優しく抱き上げた。
…しばらくその場に立ち尽くす。
甲板へと出た本来の目的――…仲間達に昼飯を鐘と大声で知らせる気力など、なかった…。
――ピカカッ…!
「にゃっ!?」
「ぬわッ!?」
ゴ…ッ!
どさ……っ
「うわ~ん、失敗したぁ~っ。痛いよぉ――…お? 頭打ったのに、あんまり痛くないぞぉ?
…あれ? なんでレイヴが僕の下に――…あ、そうか。レイヴの上に落っこちたから、あんまり痛くなかったんだね。そうかそうかー、なっとーく。
ねぇレイヴ、怪我しなかったー?」
「………」
――気持ちよく頭を打ちましたとも。
でも…、なんできーちゃんが俺の腹の上にちまっと座っているんだ…?
それに、極上シルクのローブは? どうして見慣れたいつものローブなの?
これって、つまり――…?
「あれ? レイヴ、大丈夫? 頭打った?」
――馬鹿。なんでそんなに普通でいられるんだよ…。
「…? 泣いてるの? それとも笑ってるの? レイヴ?」
――帰ってくるなら、もっと早く帰ってこいよっ。
「あっ、まーくん! 元気だったぁ? 毛ぇ伸びたね〜。あとでカットしようね。
わっ、なんでそんなに一生懸命スリスリしてくるの? 相変わらず『の〜ん』って顔だからよくわかんないけど、僕が帰ってきてそんなに嬉しい?
…あっ、目の下にクマあるよっ? 眠れていないの? よしよ〜し、いい子いい子〜っ」
――ええいっ、笑ってやる…!
「きーちゃん、タイミングいいなぁ…!」
「ほえ?」
「ちょうど昼飯が出来たんだよ!」
「ほんと!?」
目尻の涙を拭い、レイヴは力いっぱいに鐘を鳴らす。
ガランガランガランガラン…ッ!
「みんな〜ッ、メシだよーッ!」
「…はーい。レイヴさん、どうしてそんなに元気――…。
! きーちゃんだッ! きーちゃんが帰ってきたッ! きーちゃ――…きゃあああッ!!」
「キーシ危ないッ」
「…あ〜、死ぬかと思った。ありがと、ラティ。アンタが飛べて本当によかった♪」
「綱梯子を持つ手を振れば落ちるなんて猿でもわかる。なぁきーちゃん?」
「――…ったく、何を騒いで…。
キオウ!? なんでいるんだよ!?」
「だってジーク、これ僕の船だよ〜?」
「おま…っ、国と契約交わしたじゃねーかッ!」
「契約書なら、さっき破りました〜。てへへ」
「…はぁ!? 破ったぁッ!?」
「うん。大臣達の目の前で『ビリビリ〜♪』って。そんで『ばいば〜い♪』って」
「お、お前なぁ…」
「とにかくメシだ。キオウ、手を洗って、まーくんを置いてこい」
「はぁい、カイー」
「ちょい待ち! きーちゃん、カレーは山盛りでいいのかなー?」
「あ、インパスだー。弟さんが『兄は昔ソーセージと指を間違えて、スパッと切り落としかけたんですよ。あははは』って爽やかに笑ってたけど、指大丈夫なのー?」
「げッ、おとーとッ!? なんで!?」
「宮廷料理人になってたよ〜? 新鮮たまごたっぷりのプディングが美味しかったなぁ〜…♪」
「きーちゃんをうっとりさせるとは…、さすがは我が弟ッ! 俺も返り咲けばよかったかなぁ?」
「よく言うよ。その気はないくせに」
「違ぇねぇや」
「おなかペコペコ〜、インパスのカレー食べたい〜っ」
「その前に! 手を洗ってこい」
「はーい」
「天気もいいし、外のテーブルで食べよっか! 手伝わなかった人は、1ヵ月皿洗いの刑!」
「あたしの場合はやらなくて済むわ。ね、ラティ?」
「………。なんでボクの肩を叩くのかな?」
「手ぇ洗ったよ。まーくんも部屋に置い――。
うわぁぁぁんっ! ジークが殴ったーっ!」
「殴ってない殴ってない! 振り返ったら、たまたまお前の頭が――」
「何しやがるんだよこのヤローーーッ!」
「ぬわッ、デカキオウ! またまたなんちゅーモンを出しやがるんだよぉ~~…ッ!」
キオウ、大復活。
今日も元気に巨大ハリネズミをジークにけしかけているキオウに、レイヴとカイは顔を見合わせ――…やれやれと笑った。
「う~ん…、これだなぁ」
「そうだな」
「キオウがああじゃないと、デスティニィ号じゃないよなぁ」
「そうだな」
「やっぱり、キオウあってのデスティニィ号だなぁ! ほんとーに…ッ!」
【賢者サマのおふね◇キオウ編】
おしまい
賢者サマ第1弾、終了です。
長々と駄文にお付き合いして下さいまして、ありがとうございました!
お気に入り登録をして下さった奇特な方々…、ありがとうございます!
ワタクシ、密かに小躍りして喜んでおります。
第1弾が終了となりましたので、お次は第2弾がスタート致します。
第2弾はジークがメインのお話。
第1弾よりもシリアスがちょい多めな内容となります。
…とはいえ、船の連中は相変わらずマイペースに馬鹿やってます。
キオウはキオウで、先輩の賢者サマに遊ばれています。
またチマチマとアップして参りますので、よろしければ是非どうぞ!




