『目覚め』
ドォォォォォン――!!
森全体が震えた。
一歩。
また一歩。
重く響く足音が、確実に近付いてくる。
ロウは思わず息を呑んだ。
「な、何なんですか……。」
ナルドは答えない。
漆黒の大剣を静かに抜くだけだった。
少女も先ほどまでの笑顔を消し、森の奥をじっと見つめている。
「ロウ。」
「は、はい。」
「喋るな。」
「え?」
「息もできるだけ殺せ。」
「は、はい……。」
言われるがまま口を押さえる。
胸の鼓動だけが嫌になるほど大きく響いていた。
ズシン。
ズシン。
森の木々が左右へ押し倒される。
そして。
巨大な影が姿を現した。
「……え。」
魔物じゃない。
高さは三十メートルを超える。
全身が黒い岩でできた、人型の巨人。
身体中には青白く光る古代文字が刻まれ、その目だけが静かに光を放っていた。
ロウは震える声で呟く。
「なに……あれ。」
少女が小さく肩を落とす。
「がびーん……。」
「まさか、本当に起きちゃったん。」
ナルドは一歩前へ出る。
「……面倒だ。」
巨人はゆっくりと首を動かした。
その視線がナルドを通り過ぎる。
少女も通り過ぎる。
そして。
ロウで止まった。
「え?」
ロウは思わず一歩後ろへ下がる。
巨人は何も喋らない。
ただ見つめる。
じっと。
何かを確かめるように。
静寂。
風の音すら消えたようだった。
すると突然。
巨人の全身に刻まれた古代文字が、一斉に輝き始める。
ギィィィィィ……
低く響く音。
空気が震える。
「ナルドさん……。」
「動くな。」
短い返事。
少女も真剣な表情でロウを見つめる。
「お願い。」
「今だけは、絶対動かないでねん。」
「う、うん。」
ロウは息を止める。
その瞬間だった。
ロウの腰にぶら下げていた袋が、ひとりでに揺れ始めた。
「え?」
カタカタ……
カタカタ……
「な、何?」
袋の中から、これまで拾い集めてきた異核がゆっくりと浮かび上がる。
一つ。
二つ。
三つ。
十。
二十。
次々と宙へ舞い上がっていく。
「うそ……。」
ロウ自身も知らなかった。
こんな数の異核を持っていたことを。
少女の目が大きく見開かれる。
「そんな……。」
「こんな数……。」
ナルドも何も言わない。
ただ静かに、その光景を見つめていた。
浮かび上がった異核は、ロウの周囲をゆっくりと回り始める。
まるで何かに導かれるように。
そして。
巨人が初めて口を開いた。
ゴゴゴゴゴ……
岩が擦れるような重い声。
「…………。」
だが、その言葉は誰にも聞き取れなかった。
古代の言語。
ロウには意味が分からない。
少女も険しい表情のまま呟く。
「……聞いたこと、ないん。」
巨人はなおもロウを見つめ続ける。
その光る瞳が、一段と強く輝いた。
次の瞬間。
ロウの足元へ向かって、巨大な右腕がゆっくりと伸び始めた。
「……え。」
逃げられない。
動けない。
巨大な手が、ロウを覆い隠すように迫ってくる――。




