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空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


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『三百年の腐れ縁』

 ────────────────


 【成長スキル発動】


 【格上との決闘に敗北】


 ────────────────


 【Lv341】


 ↓


 【Lv428】


 ────────────────


「……は?」


 ロウは何度も瞬きをした。


「え?」


「また……上がった?」


「負けたのに?」


 理解が追いつかない。


 すると。


 目の前の少女まで、不思議そうに表示を見つめていた。


「……ん?」


「そんなに上がるん?」


「え?」


 ロウは少女を見る。


 少女も驚いたように目を丸くしていた。


「八十七も?」


「負けて?」


「そんな上がり方、初めて見たよん。」


「そ、そうなんですか!?」


「うん。」


 少女はロウをじーっと見つめる。


「君のスキルって何だったのん?」


「えっと……。」


 ロウは少しだけ俯いた。


「【成長】です。」


「…………。」


 少女が固まる。


「成長?」


「はい。」


「一つしかなくて……。」


「みんなにドブスキルだって言われました。」


「だから、空の大陸へ送られて……。」


 少女は数秒間、ロウを見つめ続けた。


 そして。


「あー。」


「わー。」


「なるほどねーん!」


 パンッ!!


 勢いよく両手を叩いた。


「あはははは!」


「そりゃそうなるよん!」


「え?」


「なるほどなるほど!」


「全部つながったよーん!」


「え?」


「え?」


 ロウだけが完全に置いていかれる。


「ど、どういうことですか?」


「んー。」


 少女は笑いながら首を横へ振る。


「まだ内緒ぉ〜。」


「えぇぇぇ!?」


「その反応かわいいよーん。」


「か、かわ……。」


 ロウの顔が真っ赤になる。


「あはは!」


「やっぱり面白い子だねん。」


 そこでロウは、ようやく改めて少女の姿を見た。


 年齢は、自分より二つか三つ上に見える。


 肩より少し長い銀白色の髪は、毛先だけ淡い水色に透けていて、風に揺れるたびに光を散らしていた。


 大きな瞳は薄い金色。


 笑うと柔らかいのに、奥にはどこか底の見えない静けさがある。


 顔立ちは人形のように整っているが、気取った感じはまったくない。


 服装は、黒と白を基調にした軽装。


 胸元や腕には、魔獣の甲殻を加工したような薄い防具が重ねられている。


 腰には短い湾曲刀が二本。


 背中には、弓にも槍にも見える不思議な細長い武器を背負っていた。


 かわいい。


 でも、ただかわいいだけじゃない。


 ロウは直感で思った。


 この人は、ものすごく強い。


「どうしたのん?」


「あ、いえ……。」


「その、助けてくれてありがとうございました。」


 ロウは慌てて頭を下げた。


 少女は少し照れたように笑う。


「半分だけだよん。」


「半分?」


「半分は私が拾った。」


「もう半分は、君が勝手に生きてたんだよん。」


「……全然分かりません。」


「あはは! だよねん。」


 少女は楽しそうに笑った。


「そういえば……。」


「あなた。」


「山頂にいましたよね?」


「見えてたのん?」


 少女は少し驚いたように目を細める。


「はい。」


「遠かったですけど。」


「へぇ~。」


「普通は見えないんだけどねん。」


「そうなんですか?」


「そうだよん。」


 立ち上がろうとしたロウは、ふらりと身体を揺らした。


「あっ……。」


 少女が自然に肩を貸す。


「まだ無理ぃ〜。」


「ありがとうございます……。」


「歩けるかなぁ?」


「た、多分です。」


「多分は歩けない人の言葉だよーん。」


「ですよね……。」


「あはは!」


 二人はゆっくりと洞穴へ向かって歩き始めた。


 しばらく歩くと。


 洞穴の前で腕を組むナルドが見えた。


「遅ぇ。」


「死にかけてたん笑」


「生きてる。」


「そうだよーん!」


 短いやり取り。


 まるで長年の付き合いを感じさせる空気だった。


 ロウは二人を交互に見る。


「あれ?」


「知り合いなんですか?」


 ナルドは鼻を鳴らした。


「腐れ縁だ。」


 少女は笑って頷く。


「三百年くらいだねん。」


「…………。」


 ロウの思考が止まる。


「さ……。」


「三百年?」


「え?」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 少女は吹き出した。


「あははは!」


「やっぱりそこ驚くのねん!」


「そこですよ!!」


「三百年って何ですか!?」


「どう見ても十三歳くらいじゃないですか!」


「十三歳?」


 少女は首を傾げる。


「地上なら、それくらいかなぁ。」


「地上なら?」


「あ。」


 少女が口を押さえた。


「がびーん。」


 ナルドは深いため息をつく。


「余計なこと言うな。」


「ごめぇーん!」


 ロウは混乱したまま二人を見る。


「地上ならって何ですか!?」


「三百年って!?」


「どういう意味なんですか!?」


 ナルドはロウを一瞥した。


「まだ早ぇ。」


「えぇぇ!?」


「今のお前が知れば、余計混乱する。」


「もう十分混乱してます!」


「そうか。」


「そうですよ!」


 少女は笑いながらナルドの肩を軽く叩く。


「相変わらず説明しないねん。」


「必要ねぇ。」


「必要あると思うけどねん。」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 ロウだけが取り残されている。


「僕だけ何も分からないんですけど!」


 少女はロウへ優しく微笑んだ。


「大丈夫だよん。」


「いつか全部分かるから。」


「本当ですか?」


「うん。」


「楽しみにしててねん。」


 その笑顔を見て、ロウも少しだけ安心する。


 だが、その瞬間だった。


 ナルドの表情から笑みが消える。


「……来たか。」


「え?」


 少女も笑顔を消し、森の奥を見つめた。


「早いねん。」


「予定より二日も早いん。」


 ロウだけが状況を理解できない。


「何が来るんですか?」


 ナルドは静かに漆黒の大剣を握る。


 少女も一歩前へ出た。


「ロウ。」


「はい。」


「今回は。」


 ナルドの低い声が森へ響く。


「絶対に前へ出るな。」


 ドォォォォォン――!!


 森全体が震えた。


 一歩。


 また一歩。


 洞穴の奥から、これまでとは比べ物にならない重い足音が近付いてくる。


 少女は、その音を聞きながら小さく息を呑んだ。


「……まさか。」


「もう目を覚ましたのん……?」

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