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空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


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食堂壊滅事件

食堂の床から。


 ――黒い骨が突き出した。


「…………。」


 ロウが固まる。


「…………。」


 ゴードも。


 ラッツォも。


 マユリカも。


 床から伸びたそれを見つめていた。


 黒い。


 骨。


 人間の腕ほどの太さ。


 それが。


 ギシ……。


 床板を押し上げながら。


 ゆっくりと伸びていく。


「……ロウ。」


「なに?」


「これ。」


 ゴードが指をさす。


「お前?」


「…………。」


 ロウは少し考えた。


「たぶん。」


「たぶん!?」


 バキィッ!!


「うわっ!?」


 床板が弾け飛んだ。


 一本。


 二本。


 三本。


 黒い骨が次々と床から突き出す。


「ちょ、待って!」


 ロウが慌てて立ち上がった。


 視界には。


 まだ文字が浮かんでいる。


 ────────────────


 【第一骸】


 【再現率 3%】


 ────────────────


「再現率……?」


「ロウ!」


 マユリカが叫ぶ。


「増えてる!」


「え?」


 見る。


 黒い骨は。


 止まっていなかった。


 バキッ!


 バキバキバキッ!


 床を突き破り。


 壁際へ。


 柱へ。


 天井へ。


「なんだこれはぁぁぁ!?」


 厨房から店主が飛び出してきた。


「俺の店ぇぇぇぇぇ!?」


「す、すみません!」


 ロウが反射的に頭を下げる。


「謝ってる場合か!」


 ゴードが叫ぶ。


「止めろ! 早く止めろ!」


「止め方が分からない!」


「お前のスキルだろ!?」


「昨日手に入れたばっかりなんだよ!」


「じゃあなんで使った!?」


「使ってない!」


「使ってんじゃねぇか!」


「勝手に発動したんだって!」


「そんなスキルあるかぁぁぁ!」


 その間にも。


 ────────────────


 【再現率 7%】


 ────────────────


 数字が上がる。


 ズズズズズ……。


 店全体が。


 僅かに揺れ始めた。


「…………。」


 ラッツォの顔が引きつる。


「ロウ。」


「なに?」


「これは本当にまずいぞ。」


「うん。」


「おそらく床だけでは済まない。」


「……うん。」


「分かっているなら止めろ。」


「だから止め方が!」


 バゴォン!!


「きゃあっ!」


 壁の一部が吹き飛んだ。


 黒い骨が。


 店の外へ突き出す。


「…………。」


 通りを歩いていた人々が。


 一斉に立ち止まった。


「なんだ?」


「骨?」


「店から骨が生えてるぞ!」


「魔獣か!?」


「逃げろ!」


 悲鳴が上がる。


「ロウ!」


 マユリカが叫んだ。


「外まで出ちゃってる!」


「見えてる!」


「どうするの!?」


「考えてる!」


「早く考えて!」


「うん!」


「返事だけはいいな!」


 ゴードが頭を抱える。


 ロウは。


 必死に視界の文字を見る。


 ────────────────


 【固有スキル『骸』】


 【第一骸を再現中】


 ────────────────


「第一骸……。」


 ロウが呟く。


「第一骸って、何なんだ?」


「こっちが聞きてぇよ!」


 ゴードが叫んだ。


 だが。


 ロウは。


 その言葉を見つめながら。


 嫌な予感を覚えた。


 昨日。


 骸の主。


 巨大な黒い骨。


 王都を覆うほどの巨体。


「…………。」


 ロウの顔から。


 血の気が引く。


「おい。」


 ゴードが気づく。


「なんだその顔。」


「…………。」


「ロウ?」


「もしかして。」


「なに?」


「これ。」


 一拍。


「昨日倒した骸の主を再現しようとしてるのかも。」


「…………。」


「…………。」


「…………。」


 三人が停止する。


「は?」


 ゴードの声だけが響いた。


「いや。」


 ロウは慌てて付け足す。


「まだ分からないけど。」


「昨日のアレを!?」


「たぶん。」


「この店で!?」


「たぶん。」


「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ────────────────


 【再現率 12%】


 ────────────────


 ズドン!!


 床が沈んだ。


「うわっ!?」


 椅子が倒れ。


 テーブルが滑る。


「全員外へ出ろ!」


 ラッツォが叫ぶ。


「店主も!」


「俺の店が!」


「命の方が大事だ!」


「でも俺の店ぇぇぇ!」


 店主を引きずるように。


 ゴードとラッツォが出口へ向かう。


「マユリカ!」


「分かってる!」


 マユリカも続く。


 だが。


 ロウだけは。


 その場に残った。


「ロウ!?」


「先に出て!」


「何言ってんだ!」


「僕が動いたら、これもついてくるかもしれない!」


「…………。」


 ゴードが止まる。


「……それは困る。」


「でしょ?」


「いや、だからってお前を置いていけるか!」


「大丈夫!」


「何が大丈夫なんだよ!」


「なんとかする!」


「その言葉が一番信用できねぇ!」


 バキバキバキバキッ!!


 壁一面へ。


 黒い骨が広がる。


「ゴード!」


 ラッツォが怒鳴る。


「一度外へ出ろ!」


「くそっ!」


 ゴードたちが店を飛び出す。


 残されたロウは。


 一人。


 黒い骨へ視線を向けた。


「……止まれ。」


 何も起きない。


「解除。」


 何も起きない。


「第一骸、解除。」


 何も起きない。


「骸、停止。」


 何も起きない。


「…………。」


 ────────────────


 【再現率 18%】


 ────────────────


「全然止まらない。」


 ロウは困った。


 本当に。


 困った。


 これまで。


 魔物なら殴ればよかった。


 毒なら耐えればよかった。


 強敵なら戦えばよかった。


 だが。


 自分のスキルが勝手に店を壊している。


「……どうしよう。」


 ロウは。


 ふと考える。


 発動条件。


 さっき表示された。


 ────────────────


 【発動条件を満たしました】


 ────────────────


 では。


 何が条件だったのか。


 骸の主の話をした。


 名前を口にした。


 そして。


 手に入れたスキルを思い出した。


「…………。」


 まさか。


「再現する対象を意識したから?」


 その瞬間。


 文字が変わった。


 ────────────────


 【対象認識を確認】


 【再現率上昇】


 ────────────────


「え?」


 ────────────────


 【再現率 31%】


 ────────────────


「ちょっと待って!?」


 ズドォォォン!!


 店の屋根を。


 巨大な黒骨が突き破った。


「うわぁぁぁぁぁぁ!?」


 外から悲鳴。


「ロウゥゥゥゥ!」


 ゴードの声が聞こえる。


「今なんかデカくなったぞぉぉぉ!」


「分かってる!」


「何したんだ!」


「考えた!」


「考えるなぁぁぁぁぁ!」


「無茶言わないでよ!」


 ロウは頭を抱えた。


「意識すると再現率が上がるなら……。」


 逆。


 意識しなければいい。


「骸の主のことを考えない。」


 ロウは目を閉じる。


「考えない。」


「骨も。」


「昨日の戦いも。」


「巨大な姿も。」


「…………。」


 ────────────────


 【対象イメージ鮮明化】


 【再現率上昇】


 ────────────────


「逆だった!」


 ────────────────


 【再現率 46%】


 ────────────────


 バゴォォォォォン!!!!


 屋根が吹き飛んだ。


「俺の店ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 店主の絶叫が。


 王都に響いた。


「ロウ!」


「もう出てこい!」


「店は無理だ!」


「まだ半分残ってる!」


「半分しか残ってねぇんだよ!」


 ゴードが叫ぶ。


 ロウは。


 崩れていく食堂を見回した。


「…………。」


 さすがに。


 まずい。


 かなり。


 まずい。


「なら……。」


 ロウは。


 最後の手段に出た。


「外に出す。」


 自分のスキルなら。


 自分についてくる可能性がある。


 だったら。


 人のいない場所まで走る。


「よし。」


 ロウが。


 一歩。


 踏み出した。


 その瞬間だった。


 ────────────────


 【術者移動を確認】


 【第一骸・追従再現へ移行】


 ────────────────


「…………。」


 ロウが止まる。


「追従?」


 ギギギギギギ……。


 食堂全体を覆っていた黒い骨が。


 一斉に。


 ロウの方へ傾いた。


「…………。」


 外にいたゴードが。


 それを見た。


「ロウ。」


「…………。」


「動くな。」


「うん。」


「絶対動くなよ。」


「うん。」


「一歩もだ。」


「分かった。」


 ロウは静かに頷く。


 そして。


 足元を見る。


 崩れた床。


 傾いた柱。


 黒い骨。


「…………。」


 ミシ。


「え?」


 ロウの足元が抜けた。


「ロウ!?」


「うわっ!」


 身体が傾く。


 反射的に。


 一歩。


 踏み出した。


 ────────────────


 【追従開始】


 ────────────────


「あ。」


 次の瞬間。


 ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


 黒い骨が。


 ロウを追うように。


 一斉に食堂を突き破った。


 柱。


 壁。


 屋根。


 厨房。


 看板。


 すべてが。


 まとめて吹き飛ぶ。


 数秒後。


「…………。」


 そこに。


 食堂はなかった。


「…………。」


 ロウ。


 ゴード。


 ラッツォ。


 マユリカ。


 店主。


 そして。


 通りへ集まった大勢の人々が。


 何も言わず。


 その光景を見ていた。


 瓦礫の中心。


 黒い骨だけが。


 堂々と突き立っている。


「…………。」


 店主が。


 膝から崩れ落ちた。


「俺の……。」


 一拍。


「俺の店がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「申し訳ありません!!!!」


 ロウは。


 人生で一番深く。


 頭を下げた。

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