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空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


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『ナルドを知る者』

朝日が洞穴の入口から差し込んでくる。


「うぅ……。」


 ロウはゆっくりと目を開けた。


「……あれ。」


「生きてる。」


 昨夜の激痛が嘘のように身体が軽い。


 腕を握る。


 足を動かす。


「痛くない……。」


 その時だった。


 頭の奥で、聞き慣れ始めた無機質な声が響く。


────────────────


【成長スキル発動】


【超格上個体の離脱を確認】


────────────────


「え?」


────────────────


【爆発的成長】


【Lv178】


 ↓


【Lv341】


────────────────


「さ、三百四十一!?」


 ロウは飛び起きた。


「また上がった!?」


「何もしてないのに!?」


 洞穴の外から呆れた声が返ってくる。


「何もしてねぇわけじゃねぇ。」


 ナルドだった。


 洞穴の入口にもたれ掛かり、腕を組んでいる。


「起きたか。」


「ナルドさん!」


 ロウは慌てて駆け寄る。


「レベルが!」


「また上がりました!」


「そうか。」


「……それだけ!?」


「お前のスキルだ。」


「え?」


「【成長】。」


「経験を力に変える。」


 ナルドは短く言った。


「昨日、お前は二度、生き延びた。」


「黒金竜。」


「そして、あの髑髏。」


「……。」


 ロウは思い出すだけで身体が震えた。


「あれ、髑髏っていうんですね。」


「知らん。」


「知らないんですか!?」


「名前なんざどうでもいい。」


 ナルドは立ち上がる。


「重要なのは。」


「お前が生きたってことだ。」


「……。」


 ロウは黙って自分の手を見る。


 昨日までの自分なら。


 あの黒い竜を見た瞬間に死んでいた。


 あの髑髏を見た瞬間に心が折れていた。


 でも。


 今、自分はここに立っている。


「……生きた。」


 自然とその言葉が口をついた。


「そうだ。」


 ナルドは珍しく真っ直ぐロウを見た。


「この大陸じゃ、それだけで価値がある。」


 ロウはゆっくり頷いた。


「はい。」


 ナルドが黒紫色の木の実を放る。


「食え。」


「またですか!?」


「食え。」


「毒ですよね!?」


「ああ。」


「嫌ですよ!」


「食え。」


「昨日死んだんですよ!?」


「三回な。」


「えっ!?」


 ロウは固まる。


「三回……?」


「死んだ。」


「生き返った。」


「また食った。」


「また死んだ。」


「……。」


「もう一回食った。」


「…………。」


「だから三回だ。」


「そんなことあります!?」


 ナルドは肩をすくめる。


「今はある。」


 ロウは木の実とにらめっこを始めた。


「これ、本当に食べるんですか……。」


「食わなきゃ餓死だ。」


「究極の二択ですね。」


 覚悟を決める。


「……いただきます。」


 ガブリ。


 数秒待つ。


「…………。」


「あれ?」


「昨日より……。」


「痛くない?」


 身体の奥が少し熱い程度だった。


「え?」


「何で?」


 ナルドは口元だけで笑う。


「覚え始めたな。」


「え?」


「お前の身体が、この大陸を。」


 ロウは少し嬉しそうに笑った。


「じゃあ……。」


「僕、少しは成長してるんですね。」


「勘違いするな。」


 ナルドは真顔に戻る。


「まだ赤ん坊だ。」


「ですよね……。」


「今日は飯を獲ってこい。」


「え?」


「一人でだ。」


「えぇぇぇぇ!?」


 ナルドは洞穴の奥へ戻っていく。


「死ぬな。」


「そのくらいしか教えることはねぇ。」


「ちょっと待ってくださいよ!」


 ロウは慌てて追い掛けようとした。


 しかしナルドは振り返らない。


「ロウ。」


「……はい。」


「生きて帰れ。」


 その一言だけだった。


 ロウは大きく深呼吸をする。


「……よし。」


「やってやる。」


 石を握り締め、初めて一人で森へ足を踏み入れた。


 だが、その背中を。


 誰かが静かに見つめていた。


「なるほど。」


 木々の上。


 一人の人影が枝へ腰掛け、口元に笑みを浮かべる。


「今年の落ちこぼれは、面白そうだ。」


 ロウはまだ気付かない。


 その人物こそ。


 山頂で見た、あの人影だった。

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