『聞き覚えのある声たち』
遠くから、何かを激しく叩く音が聞こえた。
続いて。
「――ロウぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「…………え?」
ロウの身体が固まった。
「おい!! ロウ!! 本当にいるのか!? だったら出てこいよ!! 五年もどこほっつき歩いてたんだよぉぉぉ!!」
「ちょっとゴード!! 門を壊す気!? 公爵家よここ!! というかロウがいるなら逃げないから落ち着きなさいって!!」
「お前だって走ってきただろうが!!」
「だって……! 本当にロウだったら……私……!」
「二人とも退け!! 俺が呼ぶ!! ロウぅぅぅ!! 生きてるなら返事しろぉぉぉ!!」
「…………。」
ロウは。
ベッドの上で完全に固まっていた。
五年。
聞いていなかった。
なのに。
一瞬で分かった。
「……嘘だろ。」
ロウは勢いよくベッドから飛び降りた。
窓へ駆け寄る。
カーテンを開く。
そして。
「…………っ。」
息が止まった。
屋敷の門前に。
三人いた。
五年前より、ずっと背が伸びている。
身体つきも変わった。
幼かった顔には、それぞれ五年分の成長が刻まれている。
それでも。
見間違えるはずがなかった。
「ゴード……。」
一人目。
「ラッツォ……。」
二人目。
そして。
「……マユリカ。」
三人目。
ロウの口元が、ゆっくりと震えた。
五年前。
毎日のように一緒にいた。
喧嘩して。
笑って。
遊んで。
くだらないことで競い合って。
明日も当然のように会えると思っていた。
それなのに。
別れを告げる時間すらまともに与えられないまま。
ロウは空へ送られた。
「…………。」
窓の向こうでは。
ゴードがまだ門を叩いている。
ラッツォが衛兵へ必死に何かを説明している。
そしてマユリカだけが。
少し離れた場所に立っていた。
「…………。」
マユリカは。
泣いていた。
まだロウの姿を見てもいないのに。
ただ。
昨日、王都中を駆け巡った噂を聞いただけだった。
――骸の主を討伐した少年。
――五年前、空の大陸へ送られた者。
――その名は。
ロウ・ジグルザルソン。
最初は三人とも信じなかった。
信じられるはずがなかった。
けれど。
もし。
万が一でも。
本当にロウなら。
三人は夜が明けるのを待って。
ここまで走ってきた。
ロウは窓へ手をついた。
「……みんな。」
五年ぶりだった。
父と母とは違う。
兄とも違う。
ロウが十歳だったあの日まで。
同じ目線で。
同じ世界を見ていた三人。
「…………。」
ロウは笑った。
でも。
目から涙が落ちた。
「ほんとに……いる。」
その時。
門前にいたマユリカが。
ふと。
顔を上げた。
「…………え?」
視線が。
二階の窓へ向く。
そして――
ロウと目が合った。
「…………。」
「…………。」
五年間。
止まっていた時間が。
動き出す。
マユリカの瞳が大きく見開かれた。
唇が震える。
「…………ロウ?」
ゴードとラッツォが振り返る。
「え?」
「どこだ!?」
マユリカは答えない。
ただ。
震える指で。
二階の窓を指した。
三人が。
同時にロウを見る。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
ロウも三人を見る。
そして。
五年前と同じように。
少しだけ笑って。
手を上げた。
「……おはよう。」
その瞬間。
「――ロウぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
三人の叫び声が。
王都中へ響き渡った。
ロウは慌てて窓から身を乗り出す。
「ちょ、ちょっと待って!! 今行くから!!」
階段へ向かって走り出す。
五年前。
言えなかった言葉がある。
突然いなくなって。
何も説明できなくて。
何も約束できなかった三人に。
今度こそ。
ちゃんと言わなければならない。
ロウは階段を駆け下りる。
玄関へ向かう。
扉へ手を伸ばす。
そして――
勢いよく開いた。
その先には。
五年間。
ロウの帰りを待ち続けた三人がいた。




