表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/57

『生存者』

遥か彼方。


 山頂に立つ、その人影は微動だにしなかった。


「……人。」


 ロウは何度も瞬きをした。


「人だ……。」


 間違いない。


 この地獄に。


 俺以外にも生きている人がいる。


 その事実だけで胸が熱くなる。


「良かった……。」


 思わず笑ってしまった。


「一人じゃなかったんだ。」


 涙が込み上げる。


「ゴード……。」


「俺、生きられるかもしれない。」


 ロウは山へ向かって歩き始めた。


「会ってみよう。」


「きっと何か知ってる。」


「ここで生きる方法とか。」


「ご飯の探し方とか。」


「帰る方法……は、ないか。」


 自分で言って苦笑する。


「でも、誰かがいるだけで全然違う。」


 足取りは自然と軽くなっていた。


 しばらく歩く。


 十分。


 三十分。


 一時間。


「……。」


 山が全然近付かない。


「うそだろ。」


 ロウは空を見上げた。


「近くに見えたのに……。」


 歩いても歩いても景色が変わらない。


「どれだけ広いんだよ、ここ。」


 その時だった。


 ザザッ。


「!」


 草が揺れた。


 ロウは反射的に振り返る。


 誰もいない。


「……気のせい?」


 また歩く。


 ザザザッ。


 今度は右。


「だ、誰?」


 返事はない。


 風だけが吹いている。


「やめてよ……。」


「そういうの、一番怖いから。」


 すると。


 ザザザザザザザッ!!


 今度は四方八方から草木が激しく揺れ始めた。


「え?」


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 黒い縞模様をまとった巨大な虎。


 五匹。


 七匹。


 十匹。


「え……。」


 まだ増える。


 十五匹。


 二十匹。


「うそ……。」


 完全に囲まれていた。


 黒鉄のような毛並み。


 鋭く湾曲した牙。


 丸太ほどもある前脚。


 黄金色の瞳が、一斉にロウを見据える。


 低く唸るたび、地面が微かに震えた。


 逃げ道はない。


「……はは。」


 乾いた笑いが漏れる。


「今日は、もう無理かな。」


 石を握る。


 怖い。


 足が震える。


 それでも。


「やるしか……ない。」


 黒虎たちが一斉に飛び掛かった。


「うわあああああっ!!」


 その瞬間だった。


 ――ドンッ。


 まるで巨大な岩が落ちたような衝撃。


 ロウの目の前へ、一人の男が静かに着地した。


 黒い外套。


 背中には、身の丈ほどもある漆黒の大剣。


 長い黒髪を無造作に束ね、鋭い黄金色の瞳が黒虎の群れを見渡す。


 男は深いため息をついた。


「……面倒なのに見つけちまったか。」


 その一言だけで。


 二十匹いた黒虎たちの顔色が変わる。


「グルルル……。」


 怯えている。


 いや。


 恐れている。


 ロウは思わず男を見上げた。


「た、助けて……。」


 男はロウを一瞥すると、面倒くさそうに頭を掻いた。


「ガキ。」


「はい……。」


「一つ教えてやる。」


「……?」


「この空の大陸じゃ。」


 男はゆっくり大剣へ手を掛けた。


「助けてもらえるなんて思うな。」


「え……?」


 次の瞬間。


 男は大剣をロウへ放り投げた。


「なっ!?」


「生きたきゃ握れ。」


「死にたきゃ、そのまま泣いてろ。」


 ズシンッ!!


 大剣が地面へ突き刺さる。


 あまりの重さに、大地が陥没した。


 ロウは息を呑む。


「こんなの……持てるわけ……。」


 その時だった。


 男が初めて笑う。


「――持て。」


 その一言と同時に。


 森の奥から。


 黒虎たちが一斉に逃げ出すほどの、圧倒的な咆哮が響き渡った。


 ゴォォォォォォォォォォォッ!!!!


 木々がなぎ倒される。


 山が揺れる。


 ロウは震えながら闇の奥を見つめた。


 そこには。


 さっきまでの黒虎など赤子に思えるほど巨大な"何か"が、ゆっくりと姿を現そうとしていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ