『成長』
# 第二話 『成長』
黒き竜の巨大な口が、ゆっくりと開く。
「…………」
声が出ない。
喉が張りついたように乾いていた。
逃げたい。
走りたい。
それなのに、身体はまるで石になったように動かなかった。
(死ぬ。)
その一言だけが頭の中を巡る。
黒き竜の黄金色の瞳は、まっすぐ俺だけを見つめていた。
何を考えているのか分からない。
怒っているのか。
獲物を眺めているだけなのか。
それすら分からない。
「……ごめんなさい。」
思わず口から零れた。
「まだ……。」
「まだ、お父さんにも、お母さんにも……。」
「みんなにも……。」
涙が一滴、頬を伝う。
「帰りたいよ……。」
黒き竜は何も答えない。
ただ静かに翼を広げた。
ゴォォォォォォッ!!!!
凄まじい風が荒野を吹き抜ける。
「うわっ!!」
身体が転がる。
砂が舞い上がり、目も開けられない。
やがて風が止んだ。
恐る恐る顔を上げる。
「…………。」
「……あれ?」
黒き竜がいない。
どこを見ても、その巨大な姿はなかった。
「た、助かった……?」
本当に?
俺、生きてる?
頬をつねる。
「痛っ……。」
夢じゃない。
その瞬間。
頭の奥で、機械のような声が響いた。
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【死線を確認】
【格上個体との対峙を確認】
【爆発的成長】
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「え?」
「な、何?」
誰!?
慌てて辺りを見回す。
誰もいない。
なのに声だけが聞こえる。
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【Lv1】
↓
【Lv170】
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「…………。」
「…………。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
思わず叫んでしまった。
「ひゃ、百七十!?」
「何これ!?」
「レベルって何!?」
「いや、そもそも誰!?」
一人で慌てふためく。
誰も答えてくれない。
「落ち着け、俺。」
「……いや、落ち着けるわけないだろ!」
頭を抱える。
でも。
「……あれ?」
身体が軽い。
さっきまで震えていた足が嘘みたいに動く。
視界も広い。
耳もよく聞こえる。
「なんか……。」
「調子いい?」
首を傾げた、その時だった。
ガサッ。
草むらが揺れる。
「!」
一匹。
二匹。
三匹。
黒い狼のような魔物が姿を現した。
鋭い牙。
真っ赤な瞳。
低く唸りながら、ゆっくり距離を詰めてくる。
「うそ……。」
「また!?」
「勘弁してよぉ……。」
泣きそうになる。
武器なんてない。
周りを見渡す。
「何か……!」
「何かないの!?」
目に入った石を掴む。
「これしかない……!」
三匹が一斉に飛び掛かってきた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
無我夢中で石を振る。
ゴッ!!
一匹の頭へ命中した。
魔物が勢いよく吹き飛び、地面を転がる。
「え?」
俺が?
もう一匹。
「わっ!」
身体が勝手に動いた。
ひらりと避ける。
「避けられた!?」
そのまま拳が魔物へ当たる。
ドンッ!!
魔物は数メートル先まで吹き飛んだ。
「えぇ!?」
最後の一匹。
飛び掛かる。
「うわっ!」
思わず蹴る。
ボゴッ!!
魔物は木へ激突し、そのまま動かなくなった。
「…………。」
「終わった?」
恐る恐る近づく。
三匹とも動かない。
「……勝った。」
座り込む。
全身の力が一気に抜けた。
「はぁ……。」
「もう無理……。」
「今日はもう帰りたい……。」
言ってから苦笑する。
「帰る場所、ないんだった。」
胸が締め付けられる。
ゴード。
ラッツォ。
マユリカ。
ラムス。
「みんな……。」
「今頃、何してるかな。」
涙を拭った、その時。
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【大きく成長しました】
【Lv178】
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「また!?」
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【異核を獲得しました】
【異核を獲得しました】
【異核を獲得しました】
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魔物がいた場所に、黒い結晶が転がっていた。
「異核?」
一つ拾う。
「石?」
光にかざす。
「綺麗だけど……。」
「食べられないよね。」
少しかじろうとして、
「……いや、やめとこう。」
苦笑しながらポケットへしまう。
「役に立つかもしれないし。」
そう呟き、歩き出そうとした瞬間だった。
ドゴォォォォォォォォン!!!!
地面が揺れた。
「な、何!?」
遥か彼方。
巨大な山の頂で、土煙が空高く舞い上がる。
目を凝らす。
小さく人影が見えた。
誰かがいる。
人だ。
その人物は、山ほどもある巨大な魔物を――
たった一撃で吹き飛ばした。
「……え。」
ロウは思わず息を呑んだ。
「人……なの?」
「この地獄に……俺以外の人がいるの?」




