『落ちこぼれ』
石畳の広場は、朝だというのに人で埋め尽くされていた。
今年十歳を迎えた子どもたちが、不安そうに神殿の前へ並んでいる。
「今年は誰が空へ行くんだろうな」
「一人くらいは出るだろ」
「可哀想に……」
そんな囁きが、あちこちから聞こえてくる。
俺は列の一番後ろで、小さく拳を握った。
(……頼む。)
(三つじゃなくてもいい。)
(二つでもいい。)
(一つだけは……嫌だ。)
神官が杖を掲げた。
「これより、《授与の儀》を執り行う!」
光が子どもたちを包む。
「わぁ!」
「やった! 三つだ!」
「俺も三つ!」
「見ろ見ろ! 火魔法がある!」
あちこちで歓声が上がる。
俺の隣にいたゴードが振り返った。
「ロウ! 見ろよ!」
胸を張って笑う。
「剣術! 身体強化! 土魔法だ!」
「すげぇじゃん!」
「だろ?」
豪快に笑うゴード。
昔から自信家だ。
「おい、俺も三つ!」
ラッツォが飛び跳ねる。
「風魔法きたぁぁ!」
「うるさいわ」
マユリカが呆れたように肩をすくめた。
でもその顔は嬉しそうだった。
「私は回復と水魔法。それと鑑定」
「全部当たりじゃん!」
「えへへ」
その笑顔を見て、俺まで嬉しくなる。
「ロウは?」
ラムスが静かに聞いた。
優しい声だった。
「まだ」
神官がこちらを見る。
「最後だ。」
……俺だ。
光が降り注ぐ。
眩しい。
目を閉じる。
頼む。
頼む。
お願いだから──。
⸻
【第一スキルを確認】
⸻
胸が高鳴る。
⸻
【成長】
⸻
……え?
一つ。
一つだけ。
「……え?」
頭が真っ白になった。
静まり返る広場。
一秒。
二秒。
三秒。
誰も喋らない。
そして。
「……一つだ。」
誰かが呟いた。
「本当に?」
「今年も出たのか……」
「可哀想に。」
「落ちこぼれだ。」
違う。
違う。
違うって。
まだ何かあるだろ。
もう一つ。
もう一つ出るだろ?
画面は変わらない。
⸻
【第一スキル】
【成長】
⸻
終わりだった。
「ロウ……」
マユリカが泣きそうな顔をする。
「そんな……」
ゴードが何か言おうとして口を閉じた。
ラッツォも笑えない。
ラムスは俯いた。
神官が静かに告げる。
「スキル一つ。」
「規定に従い、空の大陸への転送を開始する。」
「い、嫌だ……」
声が震えた。
「待って……!」
「まだ、お父さんと、お母さんに──」
神官は首を横に振る。
「規則だ。」
「嫌だ!!」
俺は叫んだ。
「行きたくない!!」
「俺、頑張るから!」
「もっと勉強する!」
「魔法だって覚える!」
「だから!!」
誰も助けてくれない。
大人たちは目を逸らしていた。
「…………」
母さんは泣いていた。
父さんは拳を握り締めたまま動かない。
「ロウ!」
ゴードが駆け出そうとする。
騎士が腕を掴む。
「離せよ!!」
「ゴード!」
「離せって言ってんだろ!!」
ラッツォまで叫ぶ。
「ロウを返せ!」
マユリカは涙を流しながら必死に首を振る。
「やだ……」
「やだよ……」
ラムスだけが震える声で言った。
「絶対、生きて帰ってこい。」
その一言で、俺の涙が溢れた。
「……うん。」
光が強くなる。
身体が浮く。
怖い。
怖い。
怖い。
みんな。
みんな。
また会えるよね。
そう思った、その瞬間。
世界が白く染まった。
⸻
そして。
誰もいない荒野へ、一人の少年が落ちた。
ゴォォォォォッ──!!
空を裂くような咆哮。
顔を上げる。
そこにいたのは──
雲よりも巨大な黒い竜だった。
「…………え。」
竜の黄金の瞳が、ゆっくりと少年を見下ろす。
次の瞬間。
巨大な口が開いた。




