『それぞれの道』
ザルヒは言葉を失ったまま、ロウを見つめていた。
目の前にいる少年は、本当に五年前、自分が見下していたあのロウなのか。
信じられない。
いや。
信じられるはずがなかった。
ジェフはザルヒを見て、大きく肩をすくめた。
「がははは!」
「少なくとも、目の前の坊ちゃんを見る限りじゃ。」
「地上は、ずいぶん生温く見えちまうな。」
ランも小さく笑う。
「キャハ。」
「それともぉ。」
「空の大陸と地上じゃ、時間の流れ方が違うのかなぁ?」
「一対百とかだったりして。」
「キャハハ♪」
ロウは首を傾げる。
「そんなこと、あるんですか?」
「分かんない。」
「適当に言ってみただけぇ。」
ランは笑いながら肩をすくめた。
その時だった。
ザルヒがゆっくりと口を開く。
「……ロウ。」
「え?」
「お前は。」
「ロウであって、ロウじゃない存在なのかもしれない。」
「……?」
ロウは意味が分からず首を傾げる。
ザルヒは真剣な表情で続けた。
「これは。」
「俺の手に負える話じゃない。」
「王へ報告する。」
「そして。」
ロウを真っ直ぐ見据える。
「来い。」
「王都へ。」
ロウの表情が、一気に明るくなった。
「えっ!?」
「連れて行ってくれるの!?」
「やった!」
「早くみんなに会えるかもしれない!」
ロウは勢いよくジェフとランへ振り返る。
「ジェフさん!」
「ランさん!」
「ごめん!」
「僕、一足先に行くね!」
ジェフは豪快に笑った。
「がはははは!!」
「気にすんな!」
「再会を祝ってこい!」
「そして。」
「空の大陸で何があったのか。」
「地上の連中に全部話してやれ!」
「がははは!!」
ロウは力強く頷いた。
「はい!!」
ランも優しく微笑む。
「いいなぁ。」
「私も、早く帰りたくなってきた。」
少しだけ空を見上げる。
「あいつ。」
「元気かなぁ。」
「……いるかなぁ。」
その笑顔には、小さな寂しさが混じっていた。
ジェフは戦斧を肩へ担ぐ。
「じゃあ。」
「ここで一旦お別れだな。」
ランも頷く。
「また会おうね。」
「次は、もっと面白い話を聞かせて。」
「キャハ♪」
ロウは二人を見つめる。
空の大陸で出会った、命の恩人。
短い時間だった。
けれど。
家族のように、大切な仲間になっていた。
「ありがとうございました。」
「絶対。」
「また会いましょう。」
ジェフは親指を立てる。
「おう!」
「生きてりゃ、また会える!」
「がははは!!」
ランも手を振る。
「約束だよ。」
「ロウ。」
三人は、それぞれ違う道へ歩き始める。
王都へ向かう者。
ドワーフの国へ帰る者。
エルフの国へ帰る者。
歩む道は違っても。
胸にある想いは同じだった。
――いつか。
――どこかで。
必ず、また会おう。




