『地上へ』
眩い光が、三人を包み込んだ。
視界が真っ白に染まる。
足元の感覚が消えた。
身体が浮いているのか。
落ちているのか。
それすら分からない。
ただ、光だけがどこまでも続いていた。
やがて。
スッ――。
光が静かに消えていく。
最初に頬を撫でたのは、冷たい風だった。
「……。」
ロウはゆっくりと目を開く。
そこに広がっていたのは――。
青空。
どこまでも澄み渡る、懐かしい空だった。
白い雲がゆっくりと流れていく。
赤く燃える木々も。
毒の霧も。
空を覆う黒い岩盤もない。
「……空だ。」
思わず零れた。
「青い。」
五年間、一度も見ることのなかった空。
その青さだけで、胸がいっぱいになる。
隣ではジェフが大きく息を吸った。
「……この匂い。」
土の匂い。
草の匂い。
風の匂い。
空の大陸では決して感じることのできなかった、生きた世界の香り。
「帰ってきたか。」
その声は、どこか嬉しそうだった。
ランも静かに空を見上げる。
「変わらないねぇ。」
「この空だけは。」
彼女の銀色の髪が、風に揺れる。
三人はしばらく何も言わなかった。
言葉はいらなかった。
目の前の景色だけで十分だった。
その時。
ジェフが大きく伸びをする。
「がはぁぁぁっ!!」
「やっぱ地上は最高だな!!」
豪快な笑い声が響く。
ロウもつられて笑った。
「あはは。」
「急にいつものジェフさんですね。」
「しんみりなんざ性に合わねぇ!」
「がははは!!」
ランも吹き出した。
「キャハハ♪」
「やっぱりそうなるんだ。」
ジェフは戦斧を肩へ担ぎ直す。
「さて。」
「ここからは別行動だな。」
ロウが頷く。
「ですね。」
ジェフは振り返る。
「俺は《ドルム・バザール》へ帰る。」
「ドワーフの国だ。」
「十三年ぶりだからな。」
「俺がいた頃と、どれだけ鍛冶が変わったか見てぇ。」
ロウは笑顔で頷いた。
「ジェフさんなら、きっと驚かせられますよ。」
「がはは!」
「そう言われっと燃えるな!」
ランも一歩前へ出る。
「私は《シルヴァン・ルミナス》。」
「エルフの国。」
その表情は穏やかだった。
「元気な人なんて、きっともういない。」
「それでも。」
「一度だけ。」
「故郷を見てみたいの。」
ロウは静かに頷く。
「きっと。」
「待ってる人もいますよ。」
ランは少しだけ笑う。
「そうだといいなぁ。」
「キャハ。」
そして。
二人はロウを見る。
「ロウ。」
ジェフが笑う。
「お前は?」
ロウは遠くの空を見つめた。
「僕は帰ります。」
「父さんと。」
「母さんに。」
一呼吸置く。
「あいつら三人にも。」
「生きてるって伝えたい。」
五年間。
毎日思い出していた。
家族の笑顔。
友達との他愛もない会話。
全部。
もう二度と戻らないと思っていた。
でも。
今なら帰れる。
ジェフが大きな手でロウの肩を叩く。
「生きて帰ったんだ。」
「胸張って会ってこい。」
「はい!」
ランも優しく微笑む。
「また会おうね。」
「次は地上で。」
「はい!」
三人は互いに笑い合う。
空の大陸で出会った、命の恩人。
たった数日。
されど、命を預け合った仲間。
別れは寂しい。
それでも。
また会える。
そんな気がしていた。
ジェフは東へ。
ランは西へ。
ロウは故郷へ続く道へ。
三人は、それぞれの未来へ向かって歩き始める。
誰も知らない。
空の大陸から帰還した者が現れたことを。
その事実は、やがて世界中を揺るがすことになる。
そして。
ロウ自身もまだ知らない。
空の大陸で生き抜いた五年間が。
地上の運命さえも変えてしまうことを…
その時、草むらから見覚えのある人物が顔お出す
…あれ
あれ、もしかして、ロウか?
いや、そんなはずないですよ…ザルヒさん…だってあいつは空に…
ザルヒ
いーや、俺にはわかる!なんてたって、俺には『解析』があるんだからなー!間違いない、ロウだ!落ちこぼれで貧弱でこの世には用無しのロウだ!!
ジェフが笑うガハハハハ!!
ランも笑うキャハハハッ!!
公爵家の息子…ザルヒ?
久しぶりだな…




