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空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


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『グドウ・テンマ出現』

洞窟の中へ、三人の笑い声が響いていた。


「がははは!!」


「キャハハハ♪」


「いや、本当に何が良かったのか分からないんですけど!」


 その時だった。


 ――ドクン。


 ロウの心臓が、大きく脈打つ。


「……え。」


 胸が締め付けられる。


 息が浅くなる。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 鼓動が一気に速くなる。


 ロウは思わず胸を押さえた。


「何だ……これ。」


 笑っていたジェフの表情が、一瞬で消えた。


 ランも口元の笑みを失う。


 洞窟の空気が変わった。


 重い。


 身体の奥まで押し潰されるような魔気。


「……こんなの。」


 ロウの額を汗が伝う。


「五年間で初めてだ……。」


「こんな魔気。」


 ジェフの額からも、一筋の汗が流れ落ちた。


「……まさか。」


 その声には、隠しきれない緊張が滲んでいる。


 ランも小さく息を吐いた。


「久しぶり……。」


「こんな恐怖。」


「キャハ……。」


 笑おうとしても、笑いきれない。


 その瞳は、洞窟の入口を見つめていた。


 ロウも振り返る。


 逆光。


 姿ははっきり見えない。


 だが。


 そこに、何かが立っている。


 大きくない。


 いや。


 小さい。


 二足で立つ、土色の小さな影。


 まるで陶器で作られた人形のような身体。


 ただ一つだけ。


 紫色に輝く両目だけが、暗闇の中でもはっきりと浮かび上がっていた。


 その瞬間。


 三人の頭の中へ、同時に無機質な声が響く。


 ────────────────


 【グドウ・テンマ】


 【Lv16850】


 ────────────────


 ロウの思考が止まる。


「いち……。」


「一万……六千……。」


 声にならない。


 ジェフも信じられないものを見るように目を見開いた。


「そんな馬鹿な……。」


 ランは紫色の瞳を見つめたまま、小さく呟く。


「ここまで来るなんて……。」


 ジェフは歯を食いしばる。


「やっぱり……。」


「群れると、こうなるのか。」


 次の瞬間だった。


 グドウ・テンマが、ゆっくりと口を開く。


 それだけだった。


 何も構えない。


 何も動かない。


 ただ。


 口を開いただけ。


 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーー!!!!


 洞窟全体を震わせる、耳をつんざく咆哮。


 鼓膜が破れそうになる。


 岩壁が砕け、無数の亀裂が走る。


「ぐっ……!!」


 ロウは思わず耳を押さえた。


 ジェフが叫ぶ。


「ここから出ろ!!」


「洞窟じゃ狭すぎる!!」


 ランも同時に駆け出す。


「全力で!!」


「死ぬ気で走って!!」


 三人は一斉に洞窟の出口へ向かって飛び出した。


 あと数歩。


 外へ出られる。


 その瞬間。


 シュッ――。


 あまりにも小さな音。


 誰一人、動きを止めることはなかった。


 止められなかった。


 静寂。


 一瞬だけ。


 すべての音が消える。


 ロウは洞窟の出口へ手を伸ばした。


「……助かっ――」


 ズルッ。


 視界が、横へ傾いた。


「……え?」


 何が起きたのか分からない。


 目の前に、自分の身体が倒れていた。


 腰から下だけが、立ったまま。


 次の瞬間。


 ドサッ。


 上半身が地面へ転がる。


 少し離れた場所では。


 ジェフの巨体も。


 ランの細い身体も。


 同じように真っ二つとなり、静かに崩れ落ちていた。


 ロウの瞳に映った最後の光景。


 それは。


 何一つ表情を変えず、こちらを見つめ続ける。


 紫色の瞳だけだった。

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