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空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


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20/57

よく取れる素材『カオスアイアン』

ゴォォォォォッ――。


 炉の炎が勢いよく燃え上がる。


 洞窟の中へ熱気が広がり、空気が揺らめいた。


 ジェフは黙って炉の前へ立つ。


 先ほどまで豪快に笑っていた男とは、まるで別人だった。


 無言。


 視線は炉だけを見つめている。


 ランが小さな声で呟く。


「始まった。」


「え?」


 ロウが振り向く。


「今だけは。」


「話しかけない方がいいよぉ。」


「ジェフは鍛冶を始めると、何も聞こえなくなるから。」


 ロウは思わずジェフを見る。


 巨大な金槌をゆっくりと持ち上げる。


 真っ赤に熱した黒い鉱石を金床へ置く。


 そして――。


 カンッ!!


 乾いた音が洞窟へ響いた。


 カン。


 カン。


 カン。


 一切の無駄がない。


 一打一打が、まるで鉱石と会話しているようだった。


 ロウは息を呑む。


「すごい……。」


 ランは優しく微笑む。


「ドワーフってね。」


「武器を作る時だけ、別人になるの。」


「魂を叩いてる。」


「って昔聞いたことがあるよぉ。」


「魂……。」


 ロウは鍛冶の音へ耳を傾ける。


 どれほど時間が過ぎただろう。


 洞窟へ響く音は、やがて止まった。


 ジェフが静かに振り返る。


「できた。」


 ドンッ!!


 金床の上へ置かれたのは、一振りの剣。


 闇を閉じ込めたような漆黒の刀身。


 鈍く輝く黒い鎧。


 腕当て。


 脚甲。


 どれも見たことがない美しさだった。


 ロウは目を見開く。


「これ……。」


「全部、僕のですか?」


「おう。」


「着てみろ。」


 ロウは恐る恐る防具へ手を伸ばす。


 不思議だった。


 重そうに見えるのに、驚くほど軽い。


 鎧を身につける。


 腕当てをはめる。


 剣を腰へ差した。


 その瞬間だった。


 ────────────────


 【成長スキル発動】


 【装備適性を確認】


 ────────────────


 【混沌適性 獲得】


 ────────────────


 【闇属性無効化】


 ────────────────


 【カオス系魔術 習得】


 ────────────────


「……え?」


 突然響いた無機質な声。


 ロウは思わず固まった。


「どうした?」


 ジェフが不思議そうに見る。


「また……。」


「頭の中で声が。」


 ランが首を傾げる。


「レベル上がった?」


「違います。」


 ロウは困惑したまま答える。


「【混沌適性を獲得】って。」


 ジェフとランが顔を見合わせる。


「混沌適性?」


「はい。」


 ジェフは腕を組み、少し考え込んだ。


「…………。」


「聞いたことねぇ。」


「え?」


「そんな適性、初めて聞いた。」


 ロウは少し驚く。


「レベルが上がる時の声は聞こえますよね?」


「ああ。」


 ジェフは頷いた。


「レベルが上がる時も。」


「新しいスキルを覚えた時も聞こえる。」


 ランも頷く。


「私も聞こえるよぉ。」


「二人もですか!?」


「地上では?」


 ジェフは首を横へ振る。


「聞いたことねぇ。」


「空へ来てからだ。」


 ランも続ける。


「私も。」


「空の大陸だけだと思うよぉ。」


 ロウはゆっくり頷いた。


「じゃあ……。」


「この声って。」


「空の大陸だけ……。」


 しばらく沈黙が流れる。


 ロウは改めて尋ねた。


「でも。」


「混沌適性って何なんですか?」


 ジェフは数秒考えたあと。


 突然、大声で笑い出した。


「がはははは!!」


「聞いたことねぇし!」


「いらねぇな、それ!」


「えぇ!?」


 ランも吹き出した。


「たしかにぃ!」


「キャハハハ♪」


「カオスのスキルなんてぇ。」


「はっ。」


「キャハハ!」


「習得する意味あるぅ?」


 ロウだけが苦笑いを浮かべる。


「そ、そんなこと言われても……。」


 ジェフはロウの肩をバンッと叩いた。


「まあいい!」


「よかったじゃねぇか!」


「もうけもんだ!」


「がはははは!!」


 ランも笑顔で頷く。


「うん。」


「よかった、よかったぁ。」


「キャハッ♪」


 ロウだけが首を傾げた。


「いや……。」


「何が良かったのか、全然分からないんですけど。」


 三人の笑い声が、静かな洞窟へ響き渡る。


 この時は、まだ誰も知らなかった。


 その”混沌適性”が何なのかを。

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