よく取れる素材『カオスアイアン』
ゴォォォォォッ――。
炉の炎が勢いよく燃え上がる。
洞窟の中へ熱気が広がり、空気が揺らめいた。
ジェフは黙って炉の前へ立つ。
先ほどまで豪快に笑っていた男とは、まるで別人だった。
無言。
視線は炉だけを見つめている。
ランが小さな声で呟く。
「始まった。」
「え?」
ロウが振り向く。
「今だけは。」
「話しかけない方がいいよぉ。」
「ジェフは鍛冶を始めると、何も聞こえなくなるから。」
ロウは思わずジェフを見る。
巨大な金槌をゆっくりと持ち上げる。
真っ赤に熱した黒い鉱石を金床へ置く。
そして――。
カンッ!!
乾いた音が洞窟へ響いた。
カン。
カン。
カン。
一切の無駄がない。
一打一打が、まるで鉱石と会話しているようだった。
ロウは息を呑む。
「すごい……。」
ランは優しく微笑む。
「ドワーフってね。」
「武器を作る時だけ、別人になるの。」
「魂を叩いてる。」
「って昔聞いたことがあるよぉ。」
「魂……。」
ロウは鍛冶の音へ耳を傾ける。
どれほど時間が過ぎただろう。
洞窟へ響く音は、やがて止まった。
ジェフが静かに振り返る。
「できた。」
ドンッ!!
金床の上へ置かれたのは、一振りの剣。
闇を閉じ込めたような漆黒の刀身。
鈍く輝く黒い鎧。
腕当て。
脚甲。
どれも見たことがない美しさだった。
ロウは目を見開く。
「これ……。」
「全部、僕のですか?」
「おう。」
「着てみろ。」
ロウは恐る恐る防具へ手を伸ばす。
不思議だった。
重そうに見えるのに、驚くほど軽い。
鎧を身につける。
腕当てをはめる。
剣を腰へ差した。
その瞬間だった。
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【成長スキル発動】
【装備適性を確認】
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【混沌適性 獲得】
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【闇属性無効化】
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【カオス系魔術 習得】
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「……え?」
突然響いた無機質な声。
ロウは思わず固まった。
「どうした?」
ジェフが不思議そうに見る。
「また……。」
「頭の中で声が。」
ランが首を傾げる。
「レベル上がった?」
「違います。」
ロウは困惑したまま答える。
「【混沌適性を獲得】って。」
ジェフとランが顔を見合わせる。
「混沌適性?」
「はい。」
ジェフは腕を組み、少し考え込んだ。
「…………。」
「聞いたことねぇ。」
「え?」
「そんな適性、初めて聞いた。」
ロウは少し驚く。
「レベルが上がる時の声は聞こえますよね?」
「ああ。」
ジェフは頷いた。
「レベルが上がる時も。」
「新しいスキルを覚えた時も聞こえる。」
ランも頷く。
「私も聞こえるよぉ。」
「二人もですか!?」
「地上では?」
ジェフは首を横へ振る。
「聞いたことねぇ。」
「空へ来てからだ。」
ランも続ける。
「私も。」
「空の大陸だけだと思うよぉ。」
ロウはゆっくり頷いた。
「じゃあ……。」
「この声って。」
「空の大陸だけ……。」
しばらく沈黙が流れる。
ロウは改めて尋ねた。
「でも。」
「混沌適性って何なんですか?」
ジェフは数秒考えたあと。
突然、大声で笑い出した。
「がはははは!!」
「聞いたことねぇし!」
「いらねぇな、それ!」
「えぇ!?」
ランも吹き出した。
「たしかにぃ!」
「キャハハハ♪」
「カオスのスキルなんてぇ。」
「はっ。」
「キャハハ!」
「習得する意味あるぅ?」
ロウだけが苦笑いを浮かべる。
「そ、そんなこと言われても……。」
ジェフはロウの肩をバンッと叩いた。
「まあいい!」
「よかったじゃねぇか!」
「もうけもんだ!」
「がはははは!!」
ランも笑顔で頷く。
「うん。」
「よかった、よかったぁ。」
「キャハッ♪」
ロウだけが首を傾げた。
「いや……。」
「何が良かったのか、全然分からないんですけど。」
三人の笑い声が、静かな洞窟へ響き渡る。
この時は、まだ誰も知らなかった。
その”混沌適性”が何なのかを。




