『ジェフの隠れ家』
炎の森を、三人はゆっくりと歩いていた。
先頭を歩くのはジェフ。
その後ろをロウとランが並ぶ。
百を超えるゾーマコングが暴れたとは思えないほど、森は静まり返っていた。
しばらく沈黙が続いたあと、ロウがぽつりと口を開く。
「ジェフさん。」
「ん?」
「この大陸って……。」
「街とか村はないんですか?」
ジェフは前を向いたまま答える。
「ねぇな。」
「一つもですか?」
「ああ。」
「作れねぇ。」
ロウは首を傾げた。
「どうしてです?」
ジェフは歩きながら近くの枯れ木を顎で示す。
「群れりゃ目立つ。」
「目立てば魔獣が集まる。」
「それだけだ。」
ランも静かに続けた。
「それにね。」
「子どもが育たないの。」
「え……。」
「泣き声だけで魔獣が集まる。」
「食べ物も。」
「水も。」
「何人分も集め続けるのは難しい。」
「だから。」
「みんな一人。」
ロウは言葉を失った。
自分が五年間、一人で生きてきた理由が、少しだけ分かった気がした。
ジェフは少しだけ遠くを見つめる。
「昔は群れてた奴らもいた。」
「でもな。」
「俺の目の前で全員死んだ。」
「……。」
「目立ったからだ。」
重い沈黙が流れる。
風だけが赤い葉を揺らした。
ロウは静かに問い掛ける。
「じゃあ……。」
「この空の大陸には、僕たちしかいないんでしょうか。」
ジェフは首を横へ振る。
「知らねぇ。」
「誰もこの大陸の全貌なんざ知らねぇからな。」
「どれだけ広いのか。」
「何人生き残ってるのか。」
「俺たちしかいねぇのか。」
「何百人もいるのか。」
「全部、憶測だ。」
ランも頷いた。
「もしかしたら。」
「私たちだけかもしれない。」
「反対に。」
「まだ会ってない人が、どこかで生きてるのかもしれない。」
「誰も答えは知らないの。」
ロウは空を見上げた。
五年間歩き続けても、この世界の広さはまるで見えてこなかった。
「……広いんですね。」
「広い。」
ジェフは短く答えた。
「広すぎる。」
「だから。」
「生き残るには運も必要だ。」
「でも。」
ジェフはロウを横目で見る。
「運だけで五年は生きられねぇ。」
ロウは少し照れくさそうに笑った。
「そう言ってもらえると……。」
「嬉しいです。」
「がはは!」
「照れるな!」
「まだまだガキだ!」
ランがくすっと笑う。
「十五歳なら。」
「まだ子どもだもんね。」
「ランさんは何歳なんですか?」
ロウが何気なく尋ねる。
ランは少し考えてから笑った。
「秘密。」
「えぇ!?」
「女の子に年齢を聞いちゃだめ。」
「キャハッ♪」
「す、すみません!」
ジェフが腹を抱えて笑う。
「がははは!!」
「怒られてやんの!」
「笑わないでくださいよ!」
三人の笑い声が炎の森へ響いた。
その空気は、ほんの少しだけ柔らかくなっていた。
しばらく歩き続けると。
ジェフが足を止める。
「着いた。」
ロウは前を見る。
そこには大きな岩壁しかなかった。
「……え?」
「行き止まりですよ?」
ジェフは不敵に笑う。
「よく見とけ。」
そう言うと、岩壁の一部へ手を掛けた。
ゴゴゴゴゴ……
鈍い音を立てながら岩が横へ動く。
その奥には、人一人が通れるほどの細い通路が現れた。
「うわ……。」
ロウは思わず息を呑む。
「隠し通路……。」
ジェフは振り返り、にやりと笑う。
「俺の一時的な隠れ家だ。」
「入れ。」
ロウは期待と好奇心を胸に抱きながら、その暗い通路へ一歩足を踏み入れた。




