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空の大陸の落ちこぼれ  作者: 滝本りお


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12/57

『慢心』

木漏れ日が森を照らしていた。


 ロウは一人、深い森の中を歩いている。


「静かだなぁ……。」


 誰もいない。


 返事をしてくれる人もいない。


「ナルドさんなら。」


「『うるせぇ。』って言うんだろうな。」


 思わず苦笑する。


「ミマリさんなら。」


「『あはは! 一人だねん!』とか言いそう。」


 少しだけ寂しい。


 でも。


「よし。」


「今日からは全部一人だ。」


 ロウは頬を叩く。


 歩きながら木の実を見つける。


「これは……。」


 紫色。


「猛毒。」


「よし。」


 リュックへ入れる。


 今度は青い葉。


「これも食べられる。」


 少しずつ。


 少しずつ。


 空の大陸で生きる知識が増えていく。


「水もある。」


 小さな湧き水へ革袋を沈める。


「これで今日一日は何とかなるかな。」


 その時だった。


 木々が途切れた。


「わぁ……。」


 目の前には大きな湖。


 透き通る水面が太陽を反射している。


「きれい……。」


 思わず駆け寄ろうとした。


 しかし。


「……ん?」


 湖の畔。


 何かいる。


 大きい。


 二本足で立っている。


 全身が黒緑色の甲羅で覆われた、人型の亀。


 身長は三メートルほど。


 太い腕。


 岩のような拳。


「亀?」


 ロウは岩陰へ身を隠した。


「何だあれ。」


 すると。


 頭の中へ数字が浮かび上がる。


────────────────


【Lv1900】


────────────────


「…………。」


 ロウは固まる。


「せ、千九百?」


「いやいや。」


「見間違いだよね。」


 もう一度見る。


────────────────


【Lv1900】


────────────────


「うそでしょ!?」


 ロウは思わず小さく叫んだ。


「でも……。」


 亀は動かない。


 湖を眺めているだけだ。


「遅そう。」


「亀だし。」


「今の僕なら。」


「いける……かも?」


 その瞬間だった。


 亀の姿が消えた。


「……え?」


 次の瞬間。


 目の前。


 鼻先数センチ。


 巨大な顔があった。


「は?」


 ゴォンッ!!!!


 鋼鉄同士がぶつかったような衝撃。


 亀の頭突きがロウの顔面へ直撃する。


「がっ――!!」


 視界が真っ白になる。


 身体が宙を舞った。


 何本もの木をへし折りながら吹き飛ばされる。


 ドゴォォォォォン!!!!


 背中から地面へ叩き付けられた。


「かはっ!!」


 息ができない。


 立ち上がろうとする。


 だが。


 目の前からまた亀が消えた。


「うそ……。」


 ドンッ!!


 次は胸。


 巨大な影が真上から降ってきた。


「ぐっ!!」


 人型の亀はロウへ馬乗りになる。


「ま、待っ――」


 ゴン!!


 拳。


 ゴン!!


 また拳。


 ゴン!!


 ゴン!!


 ゴン!!


 ゴン!!


 ゴン!!


 何度も。


 何度も。


 何度も。


 岩のような拳が胸を打ち砕く。


 骨が軋む。


 血が噴き出す。


「ぁ……。」


 声も出ない。


 最後の一撃。


 ドゴォォォォォン!!!!


 地面が陥没した。


 ロウの身体は土の中深くまで埋め込まれる。


 全身が動かない。


 亀はしばらくロウを見下ろえていた。


 やがて。


 興味を失ったように背を向ける。


 のっそりと。


 のっそりと。


 湖の方へ歩いていった。


 静寂だけが残る。


 土の中。


 ロウの意識はゆっくりと闇へ沈んでいく。


(死ぬ……。)


(今度こそ……。)


(本当に――。)


 視界が暗く閉ざされていった。

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