『異核』
森に静寂が戻った。
さっきまでそこにいた巨人は、何事もなかったかのように姿を消している。
ロウは崩れた異核の砂を見つめた。
「……なくなっちゃった。」
指ですくおうとしても、風に乗ってさらさらと消えていく。
「何だったんだろう。」
ナルドがその砂を見下ろす。
「捨てろ。」
「え?」
「もう戻らねぇ。」
「でも……。」
「捨てろ。」
ロウは名残惜しそうに手を開いた。
砂は風に乗り、森の奥へ消えていった。
少女もしゃがみ込み、地面を指でなぞる。
「初めて見たよん。」
「異核が壊れるなんて。」
ナルドは何も答えない。
ロウは袋を開き、中を確認した。
「一つ減っちゃった……。」
「そもそも。」
ロウは首を傾げる。
「異核って何なんですか?」
ナルドは少しだけ空を見上げた。
「知らねぇ。」
「えぇ!?」
「本当にですか!?」
「ああ。」
「分かってるのは一つだけだ。」
「何ですか!?」
「集めろ。」
「……え?」
「理由は知らねぇ。」
「だが。」
「集めた奴ほど、生き残る。」
ロウは袋をぎゅっと握る。
「それだけで十分だ。」
ナルドは踵を返した。
「帰るぞ。」
洞穴へ戻る道。
少女はロウの隣を歩きながら笑う。
「不思議だねん。」
「何がですか?」
「ナルドが、ここまで他人を気にするなんて。」
「そうなんですか?」
「うん。」
「昔はもっと怖かったよーん。」
「想像できます。」
「聞こえてるぞ。」
ナルドが前を向いたまま呟く。
「あ。」
少女は舌を出した。
「がびーん。」
ロウは思わず吹き出す。
「あはは。」
「やっと笑ったんだよん。」
少女も嬉しそうに笑った。
洞穴へ戻ると、ナルドがロウへ小さな革袋を放る。
「持っとけ。」
「何ですか?」
「水だ。」
ロウは袋を受け取り、一口飲む。
「……おいしい。」
「生き延びたきゃ、水だけは切らすな。」
「はい。」
「あと。」
ナルドが森を指差す。
「明日からは一人で狩れ。」
「え?」
「俺は助けねぇ。」
ロウは一瞬だけ俯いた。
怖い。
今日だけで二回も死にかけた。
それでも。
ゆっくりと顔を上げる。
「……分かりました。」
「生きて帰ります。」
ナルドは短く頷いた。
「それでいい。」
夜。
焚き火の火が静かに揺れている。
ロウは疲れ果て、そのまま眠りについた。
規則正しい寝息が洞穴へ響く。
少女は眠るロウを見つめ、小さく微笑んだ。
「強い子だねん。」
ナルドは焚き火へ薪を放り込む。
「まだ弱ぇ。」
「うん。」
「でも。」
少女はロウから視線を外さず、小さく呟いた。
「この子……。」
「空の大陸を変えちゃう気がするん。」
ナルドは返事をしなかった。
ただ静かに夜空を見上げる。
その時だった。
洞穴の外。
カラン……
何か硬いものが転がる音がした。
ナルドと少女が同時に立ち上がる。
「……誰だ。」
返事はない。
だが。
洞穴の入口には、一つの異核だけが静かに置かれていた。
それはロウが今まで見たこともない――
黄金色に輝く異核だった。




