349話 名声の反響はトラブルのはじまり?
「へぇ~、それじゃゼロくん達はその“鍵”っていうのを集めて世界を救済する旅をしてるんだぁ」
「ああ、ナナは海の先でそういったものの話とか聞いたことないか?」
「う~ん……どうだろ? ピンと来るものは特にないかも?」
城での一悶着から一夜明け、私達は早速海を越える手段があるという大型船のある場所へと数日に渡って歩みを進めていた。
その道中、できる限り海の向こう側の情報を知っておきたいということでナナから話を聞いていたのだが。
「でも~、それじゃあゼロくんは世界を救う英雄なんだ。かあっこいいっじゃん」
「お、おれはただ使命だからやってるわけで英雄だなんて……って、だからいちいち引っ付いてくんなって!」
「英雄さんだけど、こういうとこで赤くなっちゃうのはかわいいんだあ」
「だぁー! からかうなっての!」
ゼロとナナは、見ての通りだいぶ打ち解けたといったところだ。
ただ一方で……。
「んで、ティーカはあそこに混ざんなくていいのか?」
「そんなことをする必要もないでしょう。なにより、彼女のあのノリは苦手です」
ティーカの態度はこの通り不満そうだ。
彼女の態度からはこれまでに感じたことのない苛立ちのようなものがあるように思えるが、それはナナがただ単にこの旅にとって異端だからなのか、あるいは……。
「ゼロが取られてちょっと悔しいとか?」
「別にそのような感情はありません。ゼロとわたしは世界を救うという目的のため互いになくてはならない存在というだけ。わたしはゼロにそれ以上を求めないし、自由であってほしい……それだけです」
「お……おう」
言い返されるとは思っていたがここまですっぱり反論されるとは思ってなかったので私も少々戸惑ってしまったぞ。
(しかし、姿形に変化はないとはいえ、最初出会った頃からはティーカもだいぶ印象変わったように感じるよな)
感情豊かとはとても言いがたいが、態度や言葉がどこか感情的だと思う時は見え隠れしている。
今だって……。
「ほらほらゼロくん海が見えてきたよ! あっちの小高い丘の上からならもっとキレイに見えるから一緒にいこ」
「い、いや別におれは見たくな……ってわわっ!? 腕をぎゅっと掴むなって、離れ……」
「ゼロのいう通り離れてください。ナナさん、あまりゼロを困らせて旅の進行を邪魔をしないでください。わたし達はあなたの道楽に付き合ってるわけではないのですから」
と、先ほどまで私と話していたはずのティーカがいつの間にやらゼロの腕を組んで駆け出そうとするナナを牽制するように間に割って入っていた。
「わかりましたぁ。もう、ティーカちゃんってばお堅いんだから。せっかくの旅なんだからもうちょっと楽しんでもいいと思うんだけどな~」
「いや、今のは明らかに浮かれすぎだっての。ティーカのいう通り、おれらの旅はそんな遊び気分でやってるもんじゃないんだからな」
しかし一時的とはいえ旅の仲間に加わって数日でここまで自然な感じになるとは、ナナは人の輪に溶け込む才能があるんだろうな。
……とまぁそれはさておき。
「ナナ、先ほど海が見えてきたと言ったが」
「うん、あっちの方。さっきチラッとだけ見えたんだ~」
その言葉を聞いて私達は足早に走り出す。
海が見えたということはこの先に……。
「見えたぞ、あれが……」
私達が目指していた、大型船を建造しているという港町へとたどり着いたのだった。
「ここが目的地か」
到着後、私達は町中を歩いてはいるもののそこに活気のようなものはなく、行き交う人々はただただ作業のために働いてるだけといった感じだ。
港町というからてっきり漁業などで賑わってたりもするんじゃないかと期待していたが……本当にここは船を造るためだけの場所といった雰囲気だな。
「なぁなぁ、船ってどこにあんだろうな。おれ見るのはじめてだから、実はちょっとワクワクしてんだよ」
ただゼロは結構ウキウキしてるみたいだな。
確かにこれまでの旅の中で巡った地は、荒廃した大地だったり建物が連なる街中だったりと、水場に縁はなかったか。
……これまで二度の改変によってゼロにも少なくない変化はあるものの、こういう子供っぽい純粋さはそのまんまだ。
「というか肝心の船はどこにあるんだ?」
「おれ周りの人に聞いてみるわ」
まあそれが無難か。一応私達のことは先に王様から連絡が届いてるはずだから、私達の存在を知っている人間もいる可能性はあるはず。
「おや? あなた方は……もしや王からの通達にあった異国の英雄様方でしょうか?」
と、ゼロが話を聞きに行く必要もなく一人の青い髪の女性から声をかけられた。
その女性の格好は前にも見覚えがある。確か王様の護衛や城の警備にいた……。
「確か……クルセディオという兵だったか」
「はい! 自分は海辺担当のクルセディオ部隊のハクヤと言います!」
ビシッと敬礼して元気もいい、親しみやすそうな女性だ。
しかし城で見かけた時から思っていたが、クルセディオの女性達は皆結構背が高く肉付きもいい。それもまた祖先からの身体的特徴なんだろうか。
「しかし皆さんお若くてビックリしました。こんな小さな体で“転史”を倒しちゃうなんて、英雄様は本当に凄いんですね~」
「ちょ……! ハクヤさん!? そんなベタベタ触るのはやめてほしいんですけど……」
「あ! ごめんなさい、つい……。ささ、それじゃご案内しますよ」
ゼロのやつ、お姉さんにあちこち触られてなんとも羨まけしからんことをしてもらいやがって。
まぁゼロも恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてしまっているが……今はそんな状況もあいつ一人の問題ではなく……。
「ふ~ん、ゼロくんてばああいういろいろ大きい女の人にされるのが好きなんだ」
「わたしは別にゼロの趣味趣向に口出しする気はないけれど……ゼロはそういう方がいいのね」
「いやちょっと!? ティーカもナナも変な誤解してないか!? おれは別にだな……って話を聞いてくれっての!」
と、必死に弁解しようとするゼロだったが、二人は聞く耳持たずに先へ歩いていってしまう。
ま、これは二人ともわかっててからかってるだけだろうし、私もヘタに口出ししないでおくとしようか。
「だから、違うんだっての!」
そうして私達は少々騒がしくしながらもハクヤの後をついていき、ついに大型船のある場所にまでたどり着くのだった。
「これが……」
「海を越えるための大型船かぁ……。すっげぇな、おれの体の何百倍あるんだよ」
ハクヤに連れてこられた建物の中にはすでに完成された巨大な船が私達の前に現れた。
全長200メートル近くはあるだろうか。これだけのものを作り出せる技術がもうこの世界に存在したとはな。
「しかしこれだけ大きいものを動かすとなると、動力も相当なものが必要になるんじゃないか?」
「そうですね、基本的に動力は魔力で動かすんですが、一定時間ごとに十人魔力を送る係が交代交代でいるんです」
「ええっ、これ人力なの!? ウチが乗ってきたポッドより比べ物にならないくらい大きいのに自動動力じゃないなんて逆にすごくない!?」
人力といえばつい肉体労働と結びつけがちになってしまうが、"魔力を使い続けて動かす"もある意味人力といえるか。
それはそうと今のナナの発言の方が私としては気になって……。
「ナナのポッドには何を動力として動いていたんだ?」
「ん? そりゃもちごく一般的な魔力エネルギー装置っしょ。いろんなものを動かすために使われてる便利なやつ。でも、それじゃこんなにおっきなものは動かせないだろうからウチもすっごいビックリしちった」
……私がアステリムで開発した魔導エンジンのようなものか? しかしそうなると……海の先の技術力はどうなっているんだ?
この世界の謎がますます増える一方だな。
「……それで、ハクヤさん。この船はいつ出航する予定なんでしょうか」
こちらで悩んでいると話の流れを変えるかのようにティーカが訪ねる。
そうだな、わからないことを無理に考えるより今は目の前の目的へ進むことを第一に考えるか。
「物資の積み込みが完了したらあとは人員のチェック。そしたらすぐにでも出航できますよ。えーっと……他の乗組員については」
「おいおいハクヤ! 話題の英雄さん達をずっと一人締めはズルいんじゃないかい! そろそろアタシらも紹介してくれよ」
「わ、わちきは別にしてもらわなくても結構ぢゃけど……せっかくぢゃし紹介せい」
おっと今度は誰だ? ハクヤの後ろから二人の女性……その服装から同じクルセディオの一員であることはわかるが。
どちらもハクヤと同じくとても豊満な体ではあるが、先に声をかけてきた赤い髪の女性は威勢のいい積極的で、オドオドしてる緑髪の女性はその後ろで腰を低くして隠れるようにこちらを見ている。
「えっとハクヤさん? その二人は……」
「あ、しょ、紹介しますね! 二人は自分の同僚でキシュウとシーアです。今回の海越えにも一緒に参加するんですよ」
「ってことでアタシがキシュウだ! よろしくな英雄さん達!」
「わちきがシーアぢゃけど……べべ、別によろしくしなくていいからな。ただの仕事ぢゃし……」
なんにせよまた個性の強いキャラが出てきたもんだ。
「クルセディオの女性ってやっぱデッケェよな……」
ゼロも彼女らの体つきのよさに自然とそんなセリフも漏れてしまうか。
「お、なんだい? そっちの英雄さんはアタシらに興味津々かい?」
「えっ!? いやおれは別にそんな……!」
いや、漏れた声は小言でも視線はバッチリ凝視してたから流石に無理があるぞ。ゼロはそういうとこ注意が足りないよな。
「むむ! やっぱゼロくんてばそういう女の人が好みなんだぁ!」
「は!? ち、ちげぇっての! おれはどっちかっていうと……その……とにかくちげぇんだって!」
一瞬目がティーカの方に泳いでいったがすぐに逸らしたな。これまでの関係でそこまで恥ずかしくなるもんかねまったく。
「ハハハ! いいねぇアタシももっとあんたに興味湧いてきたよ。ま、一緒の船なんだしじっくり親交を深めようじゃないか。シーア、あんたはどうだい?」
と、先ほどからグイグイくるキシュウとは逆にハクヤの後ろに隠れながらこちらを窺うシーアへと話が振られるが。
「わ、わちきはその者よりも……そちらの羽織に身を包んでおる英雄殿の方に知的な魅力を感じるのぢゃが……後で二人でじっくり話さぬか」
「羽織? ああ、このマントのことか」
おやおや、なんとまさかの私をご指名とは。これまでの旅でも私はそういったものとは無縁だったので驚いて逆に思考が一時停止してしまったぞ。
しかし……そうか、そういう感情を向けられたのなら……。
「とても嬉しい申し出ではあるんだが……私にはすでに心に決めた相手がいるんでな。期待には応えられそうにない」
「ふぅむ、それなら仕方ないの」
……こんな美女からの誘い、以前の私ならハイヨロコンデとノータイムで飛び付いていただろう。
だが今の私には……大切にしないといけない存在ができてしまったからな。
「なんだ、ムゲンにもそういう相手がいたんだな」
「ん、まぁな。今はちょっと……会えないところにいるんだけどな」
この世界に降り立ってから未だセフィラとクリファの二人には出会えていない。だが私にはなぜか確信がある……二人は無事で、この先きっと再会することができるのだと……。
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