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348話 進むべき道を示す


 これはまた意外な再登場だな。まさか街中で追われていた少女と城の中で再び出会うことになるとは。


「衛兵よ、その者は?」


「は! どこからか忍び込みこの部屋に聞き耳を立てておりましたのを発見したので捕らえました」


「しかもこの者は先刻も門前払いにしたにもかかわらず、強引に侵入しようとしていたのを捕らえようとして逃げられたばかりです」


 つまり先ほどの一悶着はそういうことだったわけだ。

 しかし、そうまでして城に入りたかったのはなぜだ?


「う、ウチはただここの王様にお願いを聞いてもらいたかっただけなのー! ウチの国がいろいろ大変なことになってて、助けてもらいたくってぇ!」


「ただの賊風情が言い訳するな! 王よ、この賊はすぐに牢へと連れていきますのでご安心を」


「ちょちょちょ、ちょっとー!? ろくに話も聞かないで連行とかありえないってぇー!」


 そんな問答無用にクルセディオの衛兵達に連れていかれそうになる謎の少女だが。


「まぁ待て。我が国の助けが必要というのは少々気になる話だ。牢に連れていくかはその後決めることにしよう」


「王がそう仰るのなら……」


 なんというか、王様は温厚だが逆に女性の兵士達はちょっと血の気が多いというか好戦的というか。

 夢の中でもこの国はこんな感じだったような気もするな。


「では話してみるといい。君は私に何を求めようとしたのだ」


「さっすがぁ! 一刻を納める王にもなると器が大きくて寛大であらせられますぅ! ……でも、実はもうウチが助けを求めたい相手は王様じゃなくなってしまったんです」


「なに?」


「今ウチが助けをお願いしたいのは……そこのキミ達だよ!」


 そう言って両手を抑えられながらも視線でその方向を示し、言葉と同時にウィンクを向けた先は他でもない……。


「……え!? おれ達かよ!」


 そう、その視線は私達三人に向けられていた。


「うんうん、実はウチこの国がテンシからの襲撃を退けたって聞いたから、その指導者たるサルガス国王に協力を要請しようと思ってたんだけどぉ。さっき聞き耳を立ててたら、なんと本当にテンシを退けたのはあなた達だっていうじゃない」


「つまり目的はテンシに対抗できる戦力……ってことでオッケー?」


「そゆこと。でもまさか、街中で偶然出会ったあなた達が目的の人達だなんて思いもしなかったからビックリだよー」


 未だ謎の少女であることに変わりはないものの、とりあえず目的だけはハッキリとしたわけだ。


「というわけでお願い! ウチに同行して力を貸してほしいの!」


「って急に言われてもな。どうするよ、ティーカ、ムゲン?」


 だがそれを私達が受けるかどうかはまた別の話だ。こちらにも旅の目的がるわけだからな。

 ……ただ、気になるのは彼女の頼み事がテンシに関わる問題だということだ。これまで“鍵”が存在していた場所にはどこもテンシの影があった。

 受けるべきか、受けざるべきか……。


「わたし達にはわたし達の旅の目的がある。そうでしょ、ゼロ」


 と、そんな私も悩んでる中すっぱりと答えたのは意外にもティーカだった。

 答えに関してはそれはその通りとしか言えないのだが、まさかティーカがそれをいの一番に言い出すとは。


(なにか別の思惑が……? いや……)


 もしかしたらただ単にこれ以上同行者を増やすのを嫌がってるだけの可能性もあるので、深く追及はしないでおこう。

 むしろここは……。


「そうだな、あまり遠回りして目的を見失いたくないし、先を急ぐ方がいいんじゃないか?」


「う~ん、ティーカもムゲンもそう言うなら……」


 今の私達の道しるべはティーカだけといっても過言ではない。ここは無理に道から外れない方がいい……というのが私の見解だ。


「ええー!? ちょ、ちょっと待ってよぉ~。こっちは本当にヤバいんだって! ねぇキミ達の旅の目的地ってどこ? その途中にちょっと立ち寄ってパパっと解決してくれればいいからさぁ~」


「いや“転史(てんし)”が関わってるのにそんな軽く解決できることでもないだろ。まぁおれ達の目的地って言われると……次はどこ行きゃいいんだ?」


 ゼロがそう言うと私達の視線はティーカへと向けられる。これまでも“鍵”の所在を感知してくれてたのはティーカだったので、今回もそれを期待していたのだが。


「鍵の場所は……まだわからない。世界が広がりすぎて、想定以上に遠い場所にあるのかもしれないから……」


「世界が……? いやよくわかんねぇけど、まだ場所はわからないってことか?」


 やはり、毎回鍵を手に入れるごとに世界の地形にも大きな変化が現れているということか。

 最初にこの世界に降り立った時には辺り一面が死んだ大地のような荒野が続くばかりで、初めて鍵を手に入れた後は緑が広がっていた。そして次……この地の鍵を手に入れたことによって変わったのは……。


「やはりヒントは『海を越えろ』だけか」


 今はレイが残したこの言葉だけが私達の進む先を示してくれている。


(しかし海といっても……)


「え、海? だったらちょうどいいじゃん! ウチは海の先にある国から来たんだ。せっかくだから一緒に行こうよ!」


「ちょ! お、おい!? いきなりおれの腕に引っ付くなっての!」


 ここでまさかの海の先から来た少女だったことが判明するとは。ちょっと出来すぎてるような気もしないでもないが。


「しかし海の先といっても一つじゃないだろう? その陸地が私達が目指す場所かどうか……」


「ん? なに言ってんだムゲン。海の先の陸地っていったら一つしないだろ」


「うむ、この世界は二つの大地が一本の海によって繋がっている。どの記録の石にも刻まれている事実だな」


 ……なるほど、それが今のこの世界の形ということか。王ですらそういう認識となると嘘ではなさそうだ。

 だがこの口ぶりからすると、この世界の海というのも私の認識とはだいぶ差異があるようだ。


「ね、ね、目的地が一緒ならいいでしょ~」


「いやっ、う~ん……おれはまぁ、それなら別に構わないと思うけどさ……」


 と、腕をぎゅっと掴まれて、さらに胸も押し付けられて羨まけしからん状態のゼロは顔を真っ赤にしながらこちらに助けを求めるように視線を向けてくる。


「わたしの意見は……さっきと変わらない。……けど、わたしはゼロが決めたことならそれでも構わないから」


 相変わらず、ティーカのゼロの意見に従うスタイルは徹底してるな。

 ただそうなると、最終的に私の意見が採用されるわけで……。


(残された道は……一つだけだな)


 まるで見えないなにかに運命を誘導されてるように思えなくないが、この道意外に進んだとしても何かを得られる保証もない。

 ならば私の答えも一つだけだ。


「行ってみる……しかないだろうな」


 何が待っているにせよ、確かめる意味はあるはずだ。


「そんじゃあ決まりだな。おれ達は海の先を目指す」


「わぁいありがとー! キミって優しいんだね、大好きになっちゃいそ~!」


「だああ! いい加減離れろっての! てかおれの名前はゼロだ、だからお前もいい加減名前を教えろよ」


 そういえばここに至るまでずっと勢いで押されてきただけで彼女の名前も何も知らないんだよな。


「ありゃ? 言ってなかったっけ、ごみんごみん。ウチはナナっていうんだ。よろしくね、ゼロくん」


「な、なんか調子狂うな……」


「で、そっちの二人がティーカっちとムゲンっちだったよね。これからよろよろ~」


 海の先から来た少女、ナナか。確かに、これまでこの世界で出会うことのなかった新しいタイプの子なのは違いないな。

 私としては新鮮で悪くないと思っているのだが。


「別に、あなたとはわずかの間だけの付き合いだから、そこまでよろしくするほどでもないわ」


「ありゃりゃ? なんかウチ嫌われちゃった? ちょっぴり悲しいかも」


「あ、いや……ティーカ、別にそんなに邪険にしなくても……。えっと、あいつも普段はあんなに冷たいわけじゃなくてさ、えと……そうそう、ちょっと機嫌が悪いだけっていうか」


 ナナに対して明らかに態度の悪いティーカをなんとかフォローしようとするゼロだが、ちょっと無理があるな。


 とにかく、ここからはこの四人で次の目的地へ向かうことが決まったわけだが。


「それで、海の向こうへはどうやって行けばいいんだ? 定期船とか?」


「いや、これまで我が国には海を越える手段は造られてこなかった。だからこそこれまで海の先の国との交流はなかったのだが」


 まぁ、交流する必要がなければそのための技術も発展はしないだろうしな。

 ただそうなると一つ疑問が生まれるわけで。


「ん? じゃナナはどうやってこっちにやってきたんだよ」


「えーっと……それはねぇ……」


 そう、海の向こうから来たというナナはいったいどのような手段を使ったというのか。


「ウチの国には人ひとりが海を越えるための高速移動ポッドがあって、それでやってきたの。しかもそのポッドは一回使ったら動かなくなっちゃうから乗り捨てちゃったし……」


「帰りの手段くらい用意しとけよな……」


「えへへ、こっちでなんとかなるかなー……って」


 ナナの見通しの甘さはさておき、たとえ一人用でも簡単に海を越えることのできる技術がその国にあるということになる。

 その国の詳細も気になるが、一番の疑問はそんな場所から一人で救援を求めに来たナナはいったいどんな立場の人間なのかということだ。

 ただまぁ、そんな疑問も海を越えられないことにはどうしようもないことなんだが。


「まぁ待て待て君達。私はこれまでは海を越える技術が造られてこなかったとは言ったが、これからはそうだとは限らん」


「え? 王様、それってつまり」


「うむ、我が国はすでに何十人もの人を乗せて海を進むための大型船を開発、建造している」


 そりゃまたなんと都合のいい展開で……いや、違うのかもな。もしかしたら、こうして話しが進むために世界が変わったとも捉えられる。


「実を言えば“転史(てんし)”の襲撃はその大型船の最終調整のために技術班が海へ向かう直前だったのだ。むしろ、それが狙いだったのではとも考えられるのではないかとね」


 記録が変わった世界ではもはやテンシの思惑など私には知るよしもないが、もしかしたらそういう意図もあったのかもしれない。

 まぁ、なにはともあれ。


「じゃあ、おれ達もその船に乗らせてもらっても……」


「船は最終調整と同時に出航させよう。それに君達も乗るといい」


 私達は無事、次の“鍵”があるであろう海を越えた先を目指すことが可能となった。

 ……レイの言葉の意味を知るためにも、この先に何があるのか確かめなければ。


「ってことはこれから船旅だね! 来るときと違ってゆっくりできそうだし、その間にゼロくんともっと仲良くなりたいなぁ」


「どわっ!? だ、だから引っ付くなっての!」


 新たな旅のツレも増えて、なんだかゼロもなにやら苦労が増えそうな様子なちょっとほのぼのとした光景だが。


「……」


 そんな二人を、どこか厳しい視線でティーカは見つめていた。


「なぁティーカ、そんなにナナが一緒に来るのは嫌なの……」


「あの子の存在を……わたしは知らない。だから、何もわからない。わたしは従うべきなのか、それとも拒絶するべきなのか……」


 それだけ……ただそれだけ呟いて、ティーカは二人の後をついていくように歩き出す。

 その意味は誰にもわからない。いったいこの先、何が私達を待ち受けているんだろうか……。




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