第2話 襲撃
シゲ爺は元軍人だ。
半世紀前の大抗争で大怪我を負うまでは前線に立ち、その後も軍で格闘を教えていた。
だから…
だから、俺が知っているシゲ爺はこんな簡単に攫われることはないはずだ。
むかしを思い出す。
「おい、ロンド。また扉が開けっぱなしだったぞ」
「あぁ?別にいいだろ」
「まったく無防備なやつめ。お前のことを殺そうとしている奴が勝手に入ってきたらどうするんだ」
「はっ、お望み通り、ブチ殺す!」
「…ったく。いいか、攫われ方を教えてやろう」
「攫われ方?その場で殺せばいいだろ」
「あぁそうだ。その場で殺さず攫うということはそいつの命以外に何か理由がある」
「理由?なんだよそれ」
「そんなもん知らん。ただそいつらに好き勝手させるのも釈だ」
「…あがけってか」
「そうだ。情報を落とす。なんでもいい!血痕、銃弾、衣服の切れ端」
「一瞬で気を失ったらどうするんだ」
「ばかが、その時はおしまいだ。気合いで起きてなんとかしろ」
「結局、根性論じゃねぇか、くそジジイ」
「とりあえず最低限扉は閉めろ。鍵かけてな」
* * *
家の中を見渡す。暖炉の前に刃物の跡。
「…鋭いな。刀か?」
今時、刀なんて持っている奴なんかいるか?古のサムライじゃあるまいし。
壁に弾痕。貫通している…
「この焼け方。特殊な弾丸か。あたまでか星人のオモチャの銃じゃないな」
おかしい。
こんだけ争った形跡があるのにもかかわらず血痕が一滴もない。
あの爺さんと戦ったんだ。無傷ってわけにはいかないだろう。
わざわざ、血を拭き取って帰ったのか?
『そうだ。情報を落とす。なんでもいい!血痕、銃弾、衣服の切れ端』
ジジイとの会話が蘇る。
思い出す。地蔵の頭の血痕。小さいものだったが残っていたはずだ。
「ん?」
家の近く、誰かの気配。
「シゲーさ〜ん……はっ…」
玄関の方から女性の驚いた声と同時に花束が床に落ちた。
「誰だ?」
とっさに腰に隠してあるナイフに手をかける。
「……あっ……えーっと…サリエルといいます」
耳が少し長く、端正な顔立ち、ミリア星人の特徴だ。
「何しにきた?」
害はなさそうに思えるが警戒は解かない。
「あのー…シゲーさんにお花を持ってきました…」
「花?」
「はい。昨日この時間に持ってきてーって言われて…あとお茶もどうかって」
「シゲーさんは?」
驚いた。知能が高いミリア星人、地球の言語を使って会話できることは知っていたがここまで話せるのか。
「シゲ爺はいない」
「そうですか……残念…かなし…」
(あの爺、いい歳してミリア星人にナンパしてやがったのか)
「あなたは誰ー?」
サリエルは首を傾けながらこちらを見る。
「俺は…」
「あっ…もしかして、ロンドさん?」
「俺のことを知っているのか!」
「はいー!シゲーさんからたくさん話聞いてました」
「話?」
まさか、しょうもないことをベラベラと話してないよな。
「はいー!いつも酔っ払って、いつまでも助けが必要で、困ってるって」
「はぁ…そりゃ悪かったな、ジジイの戯言に時間を使わせちまって」
(あのくそじじい余計なことを…絶対今度ぶん殴る)
「ううん。そうじゃないよロンドさん」
「?」
「ロンドさんの話をするとき、シゲーさんいつも楽しそう」
「……」
「自分はこどもいない、だからロンドさんで充分だって」
「えーっと…サリエルだっけ?」
「サリーでいいよ!ロンドさん」
サリーは笑顔で答える。
「ジジイどっかいっちまったみたいなんだ」
「その……悪いんだが、お茶はまた今度にしてくれ」
「?」
「ちょっくら迎えに行ってくる」
「うん!」
* * *
「襲撃ねぇ」
ポグラは顕微鏡を覗き見ながら答える。
「あぁ、なんかわかったか?」
シゲ爺の家までの道中にあった地蔵の頭に残っていた血痕を拭き取り、ポグラのラボに持って行った。
「そんなに急かさないでよ、せっかちだなー」
「ちっ、急いでるんだよ」
「まぁ、現時点でわかることはこれは地球人の血液だということ」
「そして、そこまで時間が経っていないということだけかな、おそらく半日くらい」
「俺に会ってから家に帰るまでの間に襲撃されたのか…」
「誰の血かわかるのか?」
「まさか、そこまではわからないよ」
ポグラはうねうねしている触手を左右に広げ、お手上げのポーズをとっている。
「そのデケェ頭はなんのためにあるんだよ!」
俺はポグラの机の上をドンと叩く。
「短気だな〜いくらオラが天才研究者だったとしても照合するデータがないと検証しようがないよ」
「くそっ」
「どうせまた違法なことをしてるんだろ?オープンにできる情報なら僕から軍に問い合わせてみようか?」
「いや、いい。当てがある」
「そうかい、まぁ健闘を祈るよ」
俺はポグラからもらった血液データが入ったメモリをズボンのポケットにしまう。
「あっ、ロンド!一応可能性を伝えておくと……」
* * *
俺はポグラのラボを出たあと、DOGSに連絡して血液データを転送した。
「今すか?はぁー……まったく何時だと思ってるんですか?」
「あぁ、今すぐだ。時間なんかしらねぇ」
「毎度毎度、ロンドさんは人使い荒いなぁ、まったく」
小型通信機器の向こう側からDOGSー2の呆れた声が聞こえる。
DOGS、表向きは『ハッピーゲート』という企業名で世の中には通信会社として認知されているようだ。
裏社会では有名なハッカー集団が集まっている組織だということは知れ渡っており、俺もよく利用している。
「んー……ん!わかりましたよ」
「誰の血だ?」
「これは…昔の軍の記録かな」
嫌な胸騒ぎがする。
「ヒット一件。イチジョウ・シゲオ」
「らしいです」
「……わかった。」
「……ロンドさん?」
「あぁ、わかっている」
* * *
「X、本当にその地球人は現れるのか?」
「……」
(くそっ、どいつもこいつも不気味な地球人でやりにくいぜ)
横にいる黒ずくめの男と、特殊な錠で手をかけられた老人を見る。
「こんな老いた地球人の血でも高く売れるんだ。さっさと抜き取っちゃおうぜ」
「……ダメだ」
「もう一人の…なんつったっけ?ロング?そいつもぱぱっと攫いに行ってさっさと仕事を終わらせようぜ」
「……」
「はぁ〜待つのは性に合わねぇな」
左手と腹部に付けられた傷を見る。
「ったく、この傷見ているだけでイライラする」
「商品だから傷つけないようにしようと思ってたのに…くそが」
「……?」
「どうかしたか?」
黒ずくめの男が扉の方に視線を向ける。
「……くる」
その瞬間、扉が轟音と共に吹き飛び、一人の男が現れた。
「……ロンド・グレンジーだな」
「テメェらをぶっ殺す」
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