第1話 シゲ爺
「おーい、ロンド起きてるか〜」
どんどんと扉を叩く音がし、目を覚ます。
「お〜い」
「ちっ、起きてるよ。クソジジイ朝からうるせぇな」
汚ねぇ声の爺さんに起こされるなんて最悪な目覚めだ。
仕方なく玄関まで行き、ドアを開ける。
シゲ爺は部屋に入るなり、机の上のウイスキー瓶に目をやった。
「はぁ…また酒か…医者に止められているんじゃなかったのか?」
持っていた杖を壁に立てかけ、椅子に座る。
「あの医者は信用ならねぇ」
葉巻の先端を手元のナイフで切り落とし、くすんだ銀色のオイルライターで火をつける。
「そもそも俺に医者なんか必要ないんだよ。しかも、あのヤブ医者ぼったくりやがった」
手に持っている葉巻を吸い込み、ゆっくりと白い煙を吐く。
「二度と行かねぇ」
「はぁ、まったく。いいから座れ」
シゲ爺は呆れた顔でこちらを見ている。いや諦めた顔か。
俺はソファに座り、もう一度葉巻を深く吸い込みそして煙を吐く。
「で、仕事か?」
「あぁ」
シゲ爺からちょこちょこ仕事をもらっている。まぁ、仕事といっても『マットウな仕事』ではなく、愛犬探しや庭掃除、探偵や用心棒など所謂『何でも屋』と呼ばれる仕事だ。
「お前、アルガンド星人はわかるよな」
「あぁ、人並みにな」
アルガンド星人、確か武闘派の民族で戦争や抗争によく首を突っ込んでいる連中だ。少し前にサトシの店で喧嘩をふっかけられたっけ。そういえば最近は武器なんかを持って戦うとかいってたな。
「地球にいるアルガンド星人がここ最近増えているらしい」
「数?そんなもん勝手に増やさせておけばいいだろ」
「ばか、軍が放っておくわけないだろ」
「軍?はっ笑えるぜ、軍がまともに機能していないからこの有様なんだろ!」
100年ほど前、地球は宇宙人によって侵略された。
文字にすると簡単だが、実情はもっと簡単だ。
昔、他の星に住む計画が進み、こっちが地球を出ようとしたら向こうが先に乗り込んできた。そして戦争にも負けた。
「ほら、外を見てみろよ。地球人なんてほとんどいないぜ!ここ地球だよな?」
「この有様で何が地球防衛**軍**だ。名前負けにも程があるぜ」
机の上に置いてあったウイスキーのボトルをあけ、一口飲み込む。
「……ロンド落ち着け、そのおかげで俺らも飯を食えている」
気に食わないが、シゲ爺がいっていることは事実だ。
「で、そのアルガンド星人がどうしたんだよ」
「あぁ、なんでも地球に秘密裏に基地を作って、侵略を計画しているらしい」
シゲ爺が茶色い紙を机に置き、説明してくれた。紙の右下には軍の印。
「侵略ねぇ。ほとんど実行済みなんじゃねぇのか」
窓の外を見る。
「ルート星人がいるだろ、ほら頭のでけぇ、そいつらに先を越されたくねぇのさ」
「ルート星人……」
防衛軍の中にもルート星人との協力派閥があるとかなんとか。
「あんなこけし野郎に先越される前に**俺らが先に侵略**ってか!」
「まったく、脳筋の考えることはわからねぇな」
もう一口、ウイスキーを飲む。シゲ爺がじとっとした目で俺のことを見ている。
俺、なんかしたか?
「軍から?」
「そうだ。ひとまずここに書いてあるように情報収集からだ」
シゲ爺は広げた茶色い紙をくしゃっと潰し、持っていたマッチで火をつけた。
「情報収集…てめーのところの密偵にでもやらせておけばいいのに」
「なんか事情があるんだろ」
シゲ爺は壁に立てかけてあった杖を手に取り、席を立つ。
「じゃあ、二日後またくる」
そう言ってシゲ爺は部屋を出て行った。
情報か…とりあえずサトシのところに行くか。
* * *
サトシ。
表向きはBARの店長、その実、裏社会の情報屋。昔ちょっとあった。それ以来の腐れ縁だ。
家を出て大通りから一本路地に入り、「曇天」と書かれた青い看板の店に入る。
「お客さん、まだ営業前だよ」
サトシはカウンターを背にしてグラスを拭いている。
「いつもの」
「あっ……お前かロンド、今日は来るのがずいぶん早いな」
サトシは慣れた手つきでグラスに氷を入れウイスキーを注ぐ。
「あぁ、汚ねぇジジイに起こされてちまってな」
俺はカウンター一番奥の席に座る。
「シゲ爺か…最近会ってないな」
ウイスキーが入ったグラスと葉巻を俺の前に置き、またグラスを拭き始める。
「それで何が知りたい?」
「アルガンド星人についての情報が必要だ」
「アルガンド星人……」
グラスを拭いていたサトシの手が止まった。
「ん?なんかあるのか?」
「いや……アルガンド星人の何が知りたいんだ?」
「最近、動きが活発になっているらしい、なんか知ってるか?」
サトシは持っているグラスを置き、こちらを向く。
「基地を作って、侵略するって話か」
「さすが、まぁ知ってて当然か。それで何か知って……」
「ロンド!!この件には関わるな。悪いことは言わない」
「急にどうしたんだよ」
こんなサトシを見るのは久しぶりだ。
「ちっ、お前のところにこの話が……いや…シゲ爺か…」
「シゲ爺がどうかしたのか」
「いや……わからねぇ。とにかくこの件から手を引いた方がいい、絶対に」
サトシの真剣な表情からこの話がただの情報収集で終わらないことだけは理解できた。
店からの帰り際。
「シゲ爺に連絡が取れるんだったらとった方がいい。そしてこの話から手を引いた方がいいと伝えて欲しい」
「…わかったよ」
「頼む」
俺は店を後にした。
店を出てすぐにシゲ爺に電話をかけた。
がでない。
「……ちっ」
仕方なくシゲ爺の家へ向かう。
* * *
サトシのあの表情、只事ではなさそうだ。
アルガンド星人…なんかあるのか。腕っぷしは自信あるみたいだが、そこまで脅威になると思えない。
「嫌な感じがする」
シゲ爺の家は大通りを抜けた小道の先にある。周りが森に囲まれていて、その家に行こうと思わない限り見つけることはできないだろう。
小道の先、家の数十メートル手前。
いつもと違う。
普段、足がまともに動かせないような爺さんしか通らない道。
足跡が不自然に消されている。
少し歩く。
道の傍に置いてある地蔵の頭に小さな血痕。
家の前。
ドアが壊されている。
生物の気配がない。
慎重に玄関のドアを開ける。
中は争った形跡。銃の痕跡。鋭い刃物で切られた跡。
これだけ争った形跡があるにもかかわらず、血の跡が見当たらない。
サトシの言葉がよぎる。
『この話から手を引いた方がいいと伝えて欲しい』
「ちっ……ジジイ」
最悪だ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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何でも屋ロンドの次の災難も、ぜひお付き合いください。




