【第8話】 世界会議の勘違いと、悪役の影が国境を越える
黒城レイが“魔王を跪かせた”という噂は、翌朝には世界中に広がっていた。
いや、噂というより――
もはや“世界規模の危険情報”として扱われていた。
「黒城レイ……魔王を一瞬で沈めたらしいぞ」
「いや、沈めたというより“跪かせた”らしい……」
「どっちにしろ魔王級どころじゃないだろ……」
学園の廊下は、昨日以上に騒がしかった。
レイはそれを聞きながら、なぜか満足げに頷いていた。
「フッ……我が闇の名は、ついに世界へと響き渡ったか」
「いや、悪い意味でだよ!!」
俺――白峰ユウは、朝からツッコミで喉が枯れそうだった。
そしてレイの後ろには、監視官セリスと聖女アリシアがついてくる。
「黒城レイ。今日、あなたは“世界会議”に呼ばれているわ」
「世界会議……?」
レイは首をかしげた。
「俺は悪役だぞ? 世界会議など関係ないだろう」
「関係あるのよ!! あなたのせいで世界が混乱してるの!!」
「そうなのか?」
「そうよ!!」
◆
王都中央区――世界会議の会場。
巨大な塔、魔力障壁、そして空を飛ぶ監視魔導兵。
だが――
その全てが、レイを警戒していた。
「黒城レイが来たぞ!!」
「魔力障壁を最大出力にしろ!!」
「いや、逆に刺激したら危険だ!!」
「どうすればいいんだ……!」
いや、どうすればって……普通に迎えろよ!!
レイは満足げに頷いた。
「フッ……歓迎されているようだな」
「歓迎じゃないよ!! 完全に敵扱いだよ!!」
◆
世界会議の大広間に入ると、
そこには各国の代表者たちがずらりと並んでいた。
隣国の将軍、砂漠国家の王、海洋国家の提督、宗教国家の教皇――
世界のトップが勢揃いしていた。
そして中央には、世界会議議長が座っていた。
「黒城レイ……貴様が噂の“魔王を跪かせた男”か」
「フッ……悪役だが?」
「悪役って言うな!!」
アリシアが叫ぶ。
議長はレイを睨みつけた。
「黒城レイ。貴様が魔王を跪かせたというのは本当か?」
「跪かせたというより……少し押さえつけただけだが?」
「それが問題なんだよ!!」
各国代表がざわめく。
「魔王を押さえつけるなど……」
「人間の領域ではない……」
「やはり魔王候補……いや、魔王そのもの……」
レイは腕を組み、堂々と立っていた。
「……ユウ。俺はどうすればいい?」
「どうすればって……誤解を解くしかないだろ!!」
「誤解……?」
「そうだよ!! お前は魔王じゃないって言え!!」
レイは少し考えたあと、世界会議に向かって言った。
「俺は魔王ではない」
会議が静まり返る。
「……では、何者だ?」
レイは胸を張って答えた。
「悪役だ」
「言うなって言ってるだろおおおおお!!」
世界会議が大混乱に陥った。
「悪役……!?」
「魔王より危険では……?」
「いや、悪役の方がタチが悪い……!」
セリスが絶望した顔で言った。
「黒城レイ……あなた、世界を滅ぼす気……?」
「そんなつもりはない。俺は悪役ロールを楽しんでいるだけだ」
「それが一番危険なんだよ!!」
◆
議長が震える声で言った。
「黒城レイ……
貴様を“世界危険度S級”と認定する!!」
「認定するなよ!!」
俺が叫ぶ。
だが議長は続けた。
「そして……
貴様の監視役には、世界会議直属の“七賢者”を任命する!!」
「は?」
俺とレイとアリシアは同時に声を上げた。
七賢者の一人、白髪の老人が前に出る。
「黒城レイ……
あなたの力、我々が監視する」
「フッ……賢者に監視される悪役か。悪くない」
「悪くないじゃないのよ!!」
◆
その時――
世界全域に警報が鳴り響いた。
――ゴォォォォォォン!!
「緊急事態!!」
「魔王軍が世界会議に接近!!」
「黒城レイを奪還しに来た可能性あり!!」
「いや、奪還ってなんだよ!!」
俺が叫ぶ。
アリシアは魔力探知器を見て震えた。
「……これは……魔王軍の“幹部級”が複数……!
しかも……魔王本人の魔力反応まで……!」
「またかよ!!」
◆
世界会議の外が黒い霧に包まれた。
その中心に、魔王が現れた。
「黒城レイ……貴様を迎えに来た」
「迎えに来るなよ!!」
俺が叫ぶ。
魔王はレイを見つめ、震える声で言った。
「黒城レイ……
貴様こそ、我が後継者……!」
「違う!!」
アリシアが叫ぶ。
「黒城レイは魔王じゃない!!
ただの……ただの……」
アリシアは言葉に詰まった。
「……ただの何?」
俺が代わりに言った。
「ただの悪役ロールプレイヤーだよ!!」
魔王は震えながら言った。
「……悪役ロールでこの力……
やはりあなたこそ、魔王の器……!」
「いや、なんでそうなるんだよ!!」
◆
魔王が突進する。
レイは微動だにせず、ただ指を鳴らした。
「――跪け」
その瞬間、魔王の身体が地面に叩きつけられた。
世界会議の床が砕け、建物全体が震えた。
「な……っ……!?
わ、私が……押さえつけられて……?」
魔王は震えながらレイを見上げた。
「貴様……本当に……魔王……?」
「違う。悪役だ」
「悪役で魔王を押さえつけるな!!」
アリシアが叫んだ。
◆
こうして――
**黒城レイは“世界危険度S級の魔王候補”として、
世界会議と魔王軍の両方から“頂点”として扱われることになった。**
もちろん本人は、まったく理解していない。
そして俺は――
またしてもツッコミ役として地獄を見るのだった。




