【第6話】 王都騒乱と、悪役の影が世界を揺らす
黒城レイが“魔王軍の幹部を一瞬で沈めた”という噂は、翌朝には王都全域に広がっていた。
いや、噂というより――
もはや“国家非常事態”として扱われていた。
「黒城レイが魔王軍の幹部を倒したらしいぞ……」
「いや、倒したというより“跪かせた”らしい……」
「どっちにしろ魔王級だろ……」
学園の廊下は、昨日以上に騒がしかった。
レイはそれを聞きながら、なぜか満足げに頷いていた。
「フッ……我が闇の名は、ついに魔王軍にまで届いたか」
「いや、悪い意味でだよ!!」
俺――白峰ユウは、朝からツッコミで喉が枯れそうだった。
そしてレイの後ろには、監視官セリスと聖女アリシアがついてくる。
「黒城レイ。今日からあなたは“王都と魔王軍の両方から監視される”ことになったわ」
「フッ……悪役としては悪くないな」
「悪くないじゃないのよ!!」
アリシアは朝から頭を抱えていた。
◆
教室に入ると、クラスメイトたちは一斉に距離を取った。
「黒城レイが来た……!」
「昨日は魔王軍の幹部を倒したらしい……」
「もうこのクラス、魔王城だろ……」
レイは席につきながら、満足げに笑った。
「フッ……恐怖が満ちている。実に良い」
「良くないよ!!」
俺がツッコむと、アリシアが机を叩いた。
「黒城レイ!! あなたの“悪役ロール”のせいで、
学園が完全に混乱してるのよ!!」
「そうなのか?」
「そうよ!! あなたが魔王軍の幹部を倒したせいで、
学園は“魔王と王国の戦場”扱いされてるの!!」
「……戦場、か。悪役としては悪くないな」
「悪くないじゃないのよ!!」
◆
ホームルームが始まると、担任が震える声で言った。
「こ、黒城レイ君……今日から“王都直属の護衛隊”が、
君の周囲を警備することになった……」
「護衛……?」
レイは首をかしげた。
「俺は悪役だぞ? 護衛など必要ない」
「必要あるのよ!! あなたが暴れたら王都が崩壊するの!!」
「暴れないよ!!」
俺が叫ぶ。
「レイは悪役ロールしてるだけだよ!!」
だが教師たちは震えながら言った。
「黒城レイ君……君が“本気を出したら”どうなるか分からん……」
「いや、出さないよ!!」
◆
1時間目の授業。
レイは静かに座っていた。
だが――
その“静かに座っている”という行為が、すでに問題だった。
「黒城レイが……動かない……」
「逆に怖い……」
「何か企んでるのか……?」
いや、ただ授業受けてるだけだよ!!
アリシアはレイの横で、魔力測定器を構えていた。
「黒城レイ。あなたの魔力、少しでも上昇したらすぐに止めるからね」
「フッ……好きにしろ」
「挑発するな!!」
◆
2時間目の魔法実技。
レイは参加を拒否した。
「俺は悪役だ。表舞台で魔法を披露する趣味はない」
「いや、授業だからな!? 参加しろよ!!」
だが教師は震えながら言った。
「む、無理に参加しなくていい……!
黒城レイ君が本気を出したら、校庭が消し飛ぶ……!」
「消し飛ばないよ!!」
アリシアは深いため息をついた。
「……黒城レイ。あなた、存在してるだけで問題を起こしてるわよ」
「そうなのか?」
「そうよ!!」
◆
昼休み。
学園の中庭は異様な緊張に包まれていた。
レイが弁当を食べているだけで、周囲の生徒たちは震えている。
「黒城レイが……箸を持った……!」
「何かの合図か……?」
「いや、ただの食事だろ……」
いや、ただの食事だよ!!
アリシアはレイの横で監視を続けていた。
「黒城レイ。あなた、食事中に魔力を使わないでよね」
「使わん。俺は悪役だが、食事中に暴れたりはしない」
「悪役って言うのをやめなさい!!」
◆
そんな中――
事件は起きた。
――ドォンッ!!
校舎の外で爆発音が響いた。
「また魔物か!?」
「いや、違う……これは魔法の衝撃だ!」
生徒たちが騒ぎ始める。
アリシアが魔力探知器を取り出す。
「……これは……“王都の精鋭部隊”の魔力反応……?」
「は?」
俺とレイは同時に声を上げた。
次の瞬間、校庭に白銀の鎧をまとった兵士たちが現れた。
「黒城レイ!! 貴様を保護しに来た!!」
「保護!?」
俺は叫んだ。
「なんで保護なんだよ!!」
兵士の隊長が前に出る。
「魔王軍が黒城レイを狙っているという情報が入った!!
よって王国は、黒城レイを“最重要保護対象”とする!!」
「いや、なんでそうなるんだよ!!」
アリシアが叫ぶ。
「黒城レイは魔王じゃない!! ただの危険人物よ!!」
「それも違う!!」
俺が叫ぶ。
「ただの悪役ロールプレイヤーだよ!!」
兵士たちはレイを見つめ、震える声で言った。
「……悪役ロールでこの力……
やはりあなたこそ、王国の切り札……!」
「いや、なんでそうなるんだよ!!」
◆
兵士たちはレイを囲み、護衛体制を取った。
「黒城レイ!! あなたを王都へ護送する!!」
「護送……?」
レイは首をかしげた。
「俺は悪役だぞ? 護送など必要ない」
「必要あるのよ!! あなたが狙われてるの!!」
「狙われている……?」
レイは少し考えたあと、満足げに頷いた。
「フッ……悪役としては悪くないな」
「悪くないじゃないのよ!!」
◆
こうして――
**黒城レイは“王国の最重要保護対象”として、王都へ再び護送されることになった。**
もちろん本人は、まったく理解していない。
そして俺は――
またしてもツッコミ役として地獄を見るのだった。




