【第5話】 聖女アリシアの監視開始と、悪役の学園支配
黒城レイが王都での査問を終え、正式に“王国監視下”となった翌日――。
学園は、もはや“学校”ではなかった。
「黒城レイが戻ってきたぞ……!」
「聖女アリシアまでついてきてる……!」
「学園終わったな……」
朝の登校時間、校門前は阿鼻叫喚だった。
レイはそれを聞きながら、なぜか満足げに頷いていた。
「フッ……我が闇の名は、王都から学園へと戻ってきたか」
「いや、悪い意味でだよ!!」
俺――白峰ユウは、朝からツッコミで喉が枯れそうだった。
そしてレイの後ろには、王国監視官セリスと――
昨日レイに一瞬で沈められた聖女アリシアがついてくる。
「黒城レイ。今日から私はあなたを監視する。
あなたの行動はすべて記録し、王都に報告する」
「フッ……聖女に監視される悪役か。悪くない」
「悪くないじゃないのよ!!」
アリシアは朝から頭を抱えていた。
◆
教室に入ると、クラスメイトたちは一斉に距離を取った。
「黒城レイが帰ってきた……!」
「聖女までいる……!」
「もうこのクラス、魔王城だろ……」
レイは席につきながら、満足げに笑った。
「フッ……恐怖が満ちている。実に良い」
「良くないよ!!」
俺がツッコむと、アリシアが机を叩いた。
「黒城レイ!! あなたの“悪役ロール”のせいで、
学園が完全に混乱してるのよ!!」
「そうなのか?」
「そうよ!! あなたが王都で聖女を倒したせいで、
学園は“魔王の巣窟”扱いされてるの!!」
「……魔王の巣窟、か。悪役としては悪くないな」
「悪くないじゃないのよ!!」
◆
ホームルームが始まると、担任が震える声で言った。
「こ、黒城レイ君……今日から聖女アリシアさんが、
君の監視役として同席することになった……」
「よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします……」
クラス全員が震えながら頭を下げる。
アリシアはため息をつきながら言った。
「黒城レイ。あなた、今日は絶対に問題を起こさないでよね」
「問題など起こさん。俺は悪役だが、無闇に暴れたりはしない」
「悪役って言うのをやめなさい!!」
◆
1時間目の授業。
レイは静かに座っていた。
だが――
その“静かに座っている”という行為が、すでに問題だった。
「黒城レイが……動かない……」
「逆に怖い……」
「何か企んでるのか……?」
いや、ただ授業受けてるだけだよ!!
アリシアはレイの横で、魔力測定器を構えていた。
「黒城レイ。あなたの魔力、少しでも上昇したらすぐに止めるからね」
「フッ……好きにしろ」
「挑発するな!!」
◆
2時間目の魔法実技。
レイは参加を拒否した。
「俺は悪役だ。表舞台で魔法を披露する趣味はない」
「いや、授業だからな!? 参加しろよ!!」
だが教師は震えながら言った。
「む、無理に参加しなくていい……!
黒城レイ君が本気を出したら、校庭が消し飛ぶ……!」
「消し飛ばないよ!!」
アリシアは深いため息をついた。
「……黒城レイ。あなた、存在してるだけで問題を起こしてるわよ」
「そうなのか?」
「そうよ!!」
◆
昼休み。
学園の中庭は異様な緊張に包まれていた。
レイが弁当を食べているだけで、周囲の生徒たちは震えている。
「黒城レイが……箸を持った……!」
「何かの合図か……?」
「いや、ただの食事だろ……」
いや、ただの食事だよ!!
アリシアはレイの横で監視を続けていた。
「黒城レイ。あなた、食事中に魔力を使わないでよね」
「使わん。俺は悪役だが、食事中に暴れたりはしない」
「悪役って言うのをやめなさい!!」
◆
そんな中――
事件は起きた。
――ドォンッ!!
校舎の外で爆発音が響いた。
「また魔物か!?」
「いや、違う……これは魔法の衝撃だ!」
生徒たちが騒ぎ始める。
アリシアが魔力探知器を取り出す。
「……これは……“魔王軍の幹部”の魔力反応……?」
「は?」
俺とレイは同時に声を上げた。
次の瞬間、校庭に黒い霧が立ち込めた。
その中心に、黒い鎧をまとった男が現れた。
「黒城レイ……貴様を迎えに来た」
「迎えに……?」
男は深々と頭を下げた。
「魔王様……どうか我ら魔王軍の頂点に立ってください……!」
「いや、違うだろ!!」
俺が叫ぶ。
「レイは魔王じゃない!! 悪役ロールだよ!!」
だが男は聞いていない。
「黒城レイ……あなたこそ、我らが求める“真の魔王”……!」
「違う!!」
アリシアが叫んだ。
「黒城レイは魔王じゃない!! ただの危険人物よ!!」
「それも違う!!」
俺が叫ぶ。
「ただの悪役ロールプレイヤーだよ!!」
男はレイを見つめ、震える声で言った。
「……悪役ロールでこの力……
やはりあなたこそ、魔王の器……!」
「いや、なんでそうなるんだよ!!」
◆
男は剣を抜いた。
「黒城レイ……あなたの力、見せていただく!!」
「フッ……良いだろう」
「良くないよ!!」
レイの周囲に黒い魔力が渦巻く。
男が突進する。
レイは微動だにせず、ただ指を鳴らした。
「――跪け」
その瞬間、男は地面に叩きつけられた。
地面が砕け、校庭が陥没する。
「な……っ……!?
こ、これが……魔王の力……!」
「違う!!」
俺とアリシアが同時に叫んだ。
◆
男は震えながら立ち上がり、深々と頭を下げた。
「黒城レイ……あなたこそ、我ら魔王軍の頂点……!」
「違う!!」
アリシアが叫ぶ。
「黒城レイは魔王じゃない!!
ただの……ただの……」
アリシアは言葉に詰まった。
「……ただの何?」
俺が代わりに言った。
「ただの悪役ロールプレイヤーだよ!!」
男は震えながら言った。
「……悪役ロールでこの力……
やはりあなたこそ、魔王の器……!」
「いや、なんでそうなるんだよ!!」
◆
こうして――
**黒城レイは“魔王軍の幹部に認められた魔王候補”として、さらに世界から恐れられることになった。**
もちろん本人は、まったく理解していない。
そして俺は――
またしてもツッコミ役として地獄を見るのだった。




