【第3話】 王国監視官セリスの絶望と、悪役の誤解は止まらない
黒城レイが王国最強騎士団を一瞬で沈めた翌日――。
学園は、もはや“学校”ではなかった。
「黒城レイが登校したぞ!!」
「避難しろ!!」
「いや、逃げたら逆に狙われるかもしれん……!」
「どうすればいいんだ……!」
廊下を歩くだけで、阿鼻叫喚が巻き起こる。
レイはそれを聞きながら、なぜか満足げに頷いていた。
「フッ……我が闇の名は、ますます広まっているようだな」
「いや、悪い意味でだよ!!」
俺――白峰ユウは、朝からツッコミで喉が枯れそうだった。
そして、レイの後ろには監視官セリスがついてくる。
昨日、王国最強騎士団がレイに敗北したことで、
セリスの仕事は“監視”から“暴走阻止”に格上げされたらしい。
「黒城レイ。あなた、今日は絶対に問題を起こさないでよね」
「問題など起こさん。俺は悪役だが、無闇に暴れたりはしない」
「悪役って言うのをやめなさい!! 誤解が深まる!!」
セリスは朝から頭を抱えていた。
◆
教室に入ると、クラスメイトたちは一斉に距離を取った。
「黒城レイが来たぞ……!」
「机が浮いたりしないよな……?」
「昨日は騎士団を一瞬で沈めたらしいぞ……」
レイは席につきながら、満足げに笑った。
「フッ……恐怖が満ちている。実に良い」
「良くないよ!!」
俺がツッコむと、レイは首をかしげた。
「ユウ。俺は悪役だぞ? 恐れられるのは当然だろう」
「いや、悪役ロールの話だよな!? 本気で言ってないよな!?」
「もちろんだ。俺は悪役ロールを楽しんでいるだけだ」
「それが一番危険なんだよ!!」
セリスが机を叩いた。
「黒城レイ。あなたの“悪役ロール”のせいで、王国が混乱してるのよ!!」
「そうなのか?」
「そうよ!! 昨日の騎士団撃破の報告が王都に届いて……」
セリスは深いため息をついた。
「……王国議会が緊急会議を開いたわ」
「は?」
俺とレイは同時に声を上げた。
「議会は“黒城レイは魔王候補であり、放置すれば国家崩壊の危険がある”と判断したの」
「いや、なんでそうなるんだよ!!」
俺の叫びは虚しく響く。
セリスは続けた。
「そして……今日、王都から“特別監視官”が派遣される」
「特別監視官……?」
「そう。私より上の立場で、黒城レイを直接査問するための人物よ」
レイは腕を組み、満足げに頷いた。
「フッ……ますます悪役らしくなってきたな」
「いや、喜ぶなよ!!」
◆
昼休み。
学園の中庭は異様な緊張に包まれていた。
王都からの特別監視官が到着するという噂が広まり、生徒たちは遠巻きに様子を見ている。
「黒城レイ……ついに処刑されるのか……」
「いや、逆に監視官が処刑されるかもしれん……」
「どっちにしろ地獄だな……」
お前ら、言いたい放題だな。
レイは黒いマントを翻しながら、堂々と中庭に立っていた。
「……来るな」
レイが呟いた瞬間、空気が震えた。
次の瞬間――。
――ズドォォォォンッ!!
空から巨大な魔法陣が降りてきた。
その中心に、白銀の鎧をまとった女性が降り立つ。
長い金髪、鋭い青い瞳。
背中には巨大な魔力の翼。
圧倒的な存在感。
「……あれは……!」
セリスが震えながら呟いた。
「王国魔導庁・特別監視官……
“白翼の聖女”アリシア・グランフェルド……!」
「聖女!?」
俺は思わず叫んだ。
「なんでそんな大物が来るんだよ!!」
「黒城レイが危険すぎるからよ!!」
アリシアはレイを見下ろし、冷たい声で言った。
「黒城レイ。あなたを査問するために来た」
「フッ……聖女か。悪役には相応しい相手だな」
「悪役って言うな!!」
アリシアは剣を抜いた。
「黒城レイ。あなたは魔王候補として危険視されている。
ここで力を見せてもらう」
「力を……?」
「そう。あなたが本当に“魔王級”かどうか、私が判断する」
レイは少し考えたあと、ゆっくりと頷いた。
「……良いだろう。悪役として、聖女と戦うのも悪くない」
「いや、悪くないじゃないよ!!」
◆
アリシアが剣を構える。
その瞬間、空気が震えた。
聖女の魔力が周囲を包み込み、地面が光り始める。
「……すげぇ……」
「これが聖女の力……?」
「黒城レイでも勝てないんじゃ……?」
生徒たちがざわめく。
アリシアは静かに言った。
「黒城レイ。全力で来なさい」
「フッ……後悔するなよ」
レイの周囲に黒い魔力が渦巻く。
空気が重くなり、地面が震える。
アリシアが目を見開いた。
「……この魔力……本当に人間なの……?」
「フッ……悪役だからな」
「悪役の範囲を超えてるわよ!!」
アリシアが突進する。
光の剣がレイに迫る。
レイは微動だにせず、ただ指を鳴らした。
「――跪け」
その瞬間、アリシアの身体が地面に叩きつけられた。
地面が砕け、衝撃波が走る。
「な……っ……!?
わ、私が……押さえつけられて……?」
アリシアは震えながらレイを見上げた。
「あなた……本当に……魔王……?」
「違う。悪役だ」
「悪役でこんな力が出せるわけないでしょ!!」
セリスが叫んだ。
「アリシア様!! 黒城レイは悪役ロールをしてるだけです!!」
「ロール……?」
アリシアは呆然とした。
「じゃあ……この力は……?」
「ただの趣味だ」
「趣味で聖女を押しつぶすな!!」
◆
アリシアは立ち上がり、震える声で言った。
「黒城レイ……あなたは……
“魔王候補”どころか……
“魔王そのもの”よ……!」
「いや、違うだろ。俺は悪役だぞ?」
「それが一番危険なんだよ!!」
またそれか。
アリシアは深いため息をついた。
「……黒城レイ。あなたは王都に召喚されるわ。
王国議会が、あなたを直接査問する」
「王都……か。悪役として、行く価値はあるな」
「いや、喜ぶなよ!!」
◆
こうして――
**黒城レイは“聖女を一瞬で倒した魔王候補”として、王都に召喚されることになった。**
もちろん本人は、まったく理解していない。
そして俺は――
またしてもツッコミ役として地獄を見るのだった。




