【第2話】 監視官来訪と、悪役の誤解はさらに深まる
黒城レイが“魔王候補”として学園にマークされる――その知らせは、翌朝には学園中に広まっていた。
「おい聞いたか……黒城レイ、監視対象になったらしいぞ」
「そりゃそうだろ……昨日の魔物襲撃、ほぼ一人で片付けたんだぞ」
「ていうかあれ、魔王軍がレイをスカウトしに来たって噂もあるし……」
廊下を歩くだけで、ひそひそ声が飛び交う。
レイはそれを聞きながら、なぜか満足げに頷いていた。
「フッ……我が闇の名が広まっているようだな」
「いや、悪い意味でだよ!」
俺――白峰ユウは、朝からツッコミで喉が枯れそうだった。
レイは黒いローブを翻しながら歩く。その姿は確かに“悪役”っぽい。
だが本人はただのロールプレイで、根は優しい。
問題は、**実力が本物すぎる**という一点だ。
昨日の魔物襲撃で、レイは魔物の群れを一瞬で沈め、ダンジョンのボスまで倒した。
その結果――
「黒城レイ、職員室へ来なさい」
朝のホームルームで、担任が震える声で言った。
「……呼び出し、か」
「いや、なんで嬉しそうなんだよ!」
レイは堂々と立ち上がり、黒いマントを翻して教室を出ていった。
クラスメイトたちは一斉に距離を取る。
「黒城レイ……ついに処分されるのか……」
「いや、逆に教師が処分されるかもしれん……」
「どっちにしろ地獄だな……」
お前ら、言いたい放題だな。
俺はため息をつきながら、レイの後を追った。
◆
職員室に入ると、そこには見慣れない人物がいた。
黒いスーツに身を包み、鋭い目つきの女性。
腰には魔力測定器と、魔法封印用の手枷。
――監視官だ。
「黒城レイ。あなたを監視するため、王国魔導庁より派遣された監視官、セリス・アルトリアよ」
女性は冷たい声で名乗った。
「監視官……か。フッ、悪役には相応しい役回りだな」
「あなたが悪役かどうかはどうでもいいわ。問題は――」
セリスはレイを鋭く睨む。
「あなたが“魔王候補”として危険視されているという事実よ」
「いや、俺はただの悪役だが?」
「それが一番危険なのよ!!」
職員室の教師たちが一斉に頷く。
「黒城レイ君、昨日の魔物襲撃……あれは偶然かね?」
「魔物を一瞬で殲滅するなど、常識では考えられん……」
「本当に……本当に魔王軍と繋がっていないのか?」
レイは少し考えたあと、堂々と答えた。
「繋がっていない。むしろ、俺は“悪役”として魔王軍を敵視している」
「敵視してるのか!?」
「やはり魔王軍と因縁が……!」
「いや、悪役ロールの話だよな!? レイ!!」
俺が慌ててツッコむが、もう遅い。
教師たちは完全に誤解している。
セリス監視官は深いため息をついた。
「……黒城レイ。あなたには今日から監視がつく。私があなたの行動を逐一記録し、危険があれば即座に拘束する」
「フッ……面白い。悪役には常に監視がつきものだからな」
「なんで嬉しそうなんだよ!!」
セリスは眉をひそめる。
「あなた……本当に自分の立場を理解してるの?」
「もちろんだ。俺は悪役だ」
「違うわよ!! あなたは“魔王候補”なの!!」
レイは本気で首をかしげた。
「……ユウ。俺は魔王なのか?」
「違うよ!! ただの悪役ロールプレイヤーだよ!!」
職員室が静まり返る。
セリスはこめかみを押さえながら言った。
「……もういいわ。とにかく、私はあなたを監視する。それだけよ」
「好きにしろ。俺は悪役として、己の道を進むだけだ」
「だから悪役って言うな!! 誤解が深まる!!」
◆
監視官セリスがついてくる状態で、レイは学園内を歩き始めた。
その姿はまるで――
“悪役を監視するヒロイン”のようだった。
だが現実は違う。
「黒城レイ、歩くのが速い。もっとゆっくり歩きなさい」
「フッ……悪役は常に影を駆けるものだ」
「駆けなくていいのよ!!」
セリスは本気で疲れているようだった。
そんな中、事件は起きた。
――ドォンッ!
校舎の外で爆発音が響いた。
「また魔物か!?」
「いや、違う……これは魔法の衝撃だ!」
生徒たちが騒ぎ始める。
レイはゆっくりと立ち上がった。
「……また愚か者が現れたか」
「いや、まだ何も分かってないだろ!」
セリスが魔力探知器を取り出す。
「……これは……“王国最強騎士団”の魔力反応……?」
「は?」
俺とレイは同時に声を上げた。
次の瞬間、校庭に銀の鎧をまとった騎士たちが現れた。
「黒城レイ!! 貴様を討伐しに来た!!」
「なんでだよ!!」
俺の叫びは虚しく響く。
騎士団長と思われる男が前に出る。
「貴様は魔王候補……いや、魔王そのもの!! ここで討つ!!」
「いや、違うだろ。俺は悪役だぞ?」
「それが一番危険なんだよ!!」
またそれか。
レイはため息をつき、黒いマントを翻した。
「……ユウ。俺はどうすればいい?」
「どうすればって……戦うしかないだろ!!」
「フッ……悪役らしく、派手にいくか」
「いや、派手にいくな!! 誤解が深まる!!」
だがレイは聞いていない。
騎士団長が剣を構える。
「黒城レイ!! 覚悟!!」
レイはゆっくりと手を上げた。
「――跪け」
その一言で、騎士団全員が地面に叩きつけられた。
地面が砕け、校庭が陥没する。
「な、なんだこの力は……!!」
「魔王……魔王だ……!!」
「違う!! 悪役ロールだよ!!」
俺の叫びは誰にも届かない。
セリス監視官は震えながら言った。
「……黒城レイ。あなた、本当に……何者なの……?」
「ただの悪役だ」
「違うわよ!!」
◆
騎士団を一瞬で沈めたレイは、満足げに頷いた。
「フッ……これでまた、我が闇は深まった」
「深まってないよ!!」
だが、もう誰もレイの言葉を信じていない。
こうして――
**黒城レイは“王国最強騎士団を撃破した魔王候補”として、さらに世界から恐れられることになった。**
そして俺は、またしてもツッコミ役として地獄を見るのだった。




