運命の輪、その先で
占い師が差し出した一組のカードから、クラリッサは静かに一枚を引き、机の上へ置く。
占い師はカードを確認し、わずかに目を細めた。
「運命の輪の逆位置ですね」
「運命の輪……逆位置……?」
聞き慣れない言葉に、クラリッサは首をかしげる。
隣のセオドリックも占い師へ視線を向けた。
「どういう意味なのですか?」
クラリッサの問いに、占い師は穏やかな笑みを浮かべる。
「願いが叶わない、というわけではありません。ただ、あなたが今思い描いている形とは、少し違う結末へ向かう可能性があります」
クラリッサは表情を曇らせる。
「……それは、悪い結果ということですか?」
「一概に悪いとは言えません。先ほどお伝えした通り、願いが叶わないという意味ではありませんから」
占い師はゆっくりとカードを振る。
「未来とは、不思議なものです。望んだ道を外れたと思った先で、思いも寄らない幸運を手にする方もおります」
そう言って、カードを丁寧に重ね直す。
「もっとも――占いは未来を決めるものではなく、可能性を映す鏡にすぎません」
占い師は小さく笑った。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦ですよ」
◇
店を出ると、占ってもらったらしい人々の笑い声が聞こえる。
(あの方たちは良い結果だったのね……)
クラリッサは足元へ視線を落とす。
「……気になるのか」
隣に立つセオドリックが静かに尋ねる。
「信じすぎるものではない、と分かってはいるのですが……」
クラリッサは困ったように、力のない笑みを浮かべた。
「思い描いている形とは違う結末、と言われると、少しだけ不安になってしまって」
願いが叶わないわけではない。
そう聞いてもなお、「違う形」という言葉だけが胸に引っ掛かっていた。
セオドリックは前を向いたまま、小さく息を吐く。
「気にする必要はない」
その声はいつも通り落ち着いている。
「未来はまだ決まっていない。占い師もそう言っていただろう」
「はい……」
「それに、もし思い描いた形と違う未来になったとしても」
セオドリックはクラリッサへ視線を向ける。
「その未来を良いものにすればいいだけだ」
その言葉は飾られた慰めではないとわかるからこそ、クラリッサの表情は少しだけ和らいだ。
「……そうですね」
小さく微笑むと、先ほどまで胸を覆っていた重苦しさが、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。
「せっかくの外出ですもの。あまり気にしすぎるのもよくありませんね」
「そうだな」
二人は気持ちを切り替え、再び領都の大通りへ足を向けた。
色鮮やかな布地を扱う店、香辛料の香りが漂う露店、精巧な細工が並ぶ工房。
活気ある街並みを歩きながら、クラリッサは焼き菓子や茶葉、保存の利く干し果実などを選んでいく。
「皆さんにもお土産を買って帰りたいです」
「オスカーたちか」
「はい。屋敷を守ってくださっていますし、何か喜んでいただけるものがあればと思いまして」
「そうだな。十分な数を用意しよう」
気が付けば、二人の荷物はかなりの量になっていた。
店の者へ領主館まで届けるよう頼むと、荷物は後ほど馬車で運ばれることになった。
身軽になったクラリッサは、ほっと息をつく。
「夕食は領都のお店でいただく予定でしたね」
「ああ」
クラリッサが空を見上げると、まだ日が高い。
夕食には少し早い時間だった。
セオドリックが辺りを見回す。
そのとき、クラリッサが「あっ」と小さく声を上げた。
「占い師さんがおっしゃっていた『開運スポット』がありましたね」
「ああ」
占いの後、占い師が『本来は別料金ですが、領主には特別に教えます』と渡してくれた紙があるのだ。
「せっかくですし、行ってみませんか?」
占いの結果は少し気になったままだが、だからこそ占い師が勧めてくれた場所にも興味が湧いていた。
セオドリックは懐から小さく折り畳まれた紙を取り出す。
「ここから歩いて行ける距離だな」
「では、夕食まで少し散策しましょう」
セオドリックは頷いた。
二人は地図に記された印を頼りに歩き出した。
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