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瞳の色だけで選ばれた花嫁だと思っていましたが、龍人公爵に溺愛されているようです  作者: 蒼乃つむぎ


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目指す道

(よし)

朝、目を覚ましたクラリッサは両手で頬をぱちんと叩いた。


昨夜のことを思い出すと、気分が落ち込みそうになる。だが、このまま落ち込んでいる訳にはいかない。


(今できることをやるのよ)


セオドリックは公爵として国を支えている。

ならば自分も、その隣に立つ者として相応しくなりたい。

まずは公爵夫人として役に立てるようになることが目標だ。



朝食の席に現れたクラリッサを見て、セオドリックはわずかに目を細めた。

昨夜は落ち込んでいるように見えた。

だが今朝は表情も明るく、顔色もいい。


向かいの席に座ったクラリッサがにこやかに挨拶した。

「おはようございます、セオドリック様」

「ああ。おはよう」


食事が運ばれ、静かな時間が流れる。

ふとセオドリックが口を開いた。


「どこか行きたい場所はあるか」

クラリッサは一瞬だけ肩を揺らした。

「え?」

「近々、まとまった休暇をもらうことになった」


祝賀会が終わっても仕事は山積みだった。

だが皇帝からは夫人との時間を作るよう半ば命じられている。


祝賀会の準備に追われ、最近はクラリッサと過ごす時間も少なかった。

せっかくの機会だ。

彼女が望む場所へ連れて行くのもいいだろう。


「また帝都をまわるのも悪くない」

甘いものを食べる彼女の顔は、いつもより明るかった。また人気の店にいけば、きっと喜ぶだろう。


クラリッサと視線が合う。

だが次の瞬間、その瞳はふいと逸らされた。

「先日、行ったばかりですし……少し考えさせてください」

どこか浮かない様子に見える。

昨夜のことが関係しているのだろうか。


セオドリックはしばらく彼女を見つめていたが、やがて小さく頷いた。

「そうか。わかった」


そして席を立つ。

「今日は少し戻りが遅くなる」

「お気を付けて」

「何かあればすぐ知らせろ」

そう言い残し、セオドリックは皇城へ向かった。


閉じた扉を見つめながら、クラリッサは大きく息を吐く。



セオドリックを見送った後、クラリッサは自室のソファへ腰を下ろした。


目標は決まった。

頼れる公爵夫人になること。

とはいえ、祝賀会の準備で覚えたのは龍人の文化や夜会のマナーくらいだ。

領地のことも、人々の暮らしのことも、まだほとんど知らない。


「何からすればいいのかしら……」

一人で考えていても答えは出そうにない。


コンコン、とノックの音がした。

「エレノアです」

「どうぞ」


扉を開けたエレノアは、手に何通かの封書を持っていた。

「おはようございます。本日、招待状が届いております」

「招待状?」

「お茶会のご案内が、いくつか」


(お茶会……)

貴婦人だけが集まる社交の場。

小説では主人公が意地悪な令嬢に無視をされたり、笑い者にされる場面が度々あった。


私も『人間なんてノルデンフェルト公爵様にふさわしくないわ!』と紅茶をかけられたりするのかしら……。

と想像するクラリッサ。


「奥様にそのようなことをできる龍人はおりません」

エレノアがぴしゃりと言った。

「声に出していたかしら…!?」

驚いて顔をあげるクラリッサ。

「いいえ。表情でわかります」


クラリッサは小さく息をついた。

「でも、公爵夫人としては至らない点ばかりだし、ないとも言い切れないわよね」

「ご安心ください。仮にそのような不届き者がいたとしても、翌日には社交界から消えているかと」

クラリッサは目を瞬かせた。

「エレノアも冗談を言うのね」

クスクスと笑うクラリッサを見て、エレノアは静かに微笑んだ。

(冗談ではありませんが)


クラリッサは居住まいを正して切り出した。

「私は、誰にも侮られない公爵夫人になりたいの。だから何から始めればいいか教えてくれる?」


少し考える様子を見せてから、エレノアが答えた。

「まずは、公爵家のことを知ることかと存じます」

「公爵家のことを?」


「ええ。領地のこと、人々の暮らしのこと。奥様が知ろうとしてくださるだけでも、皆喜びます」

クラリッサはゆっくり頷いた。


それなら自分にもできるかもしれない。

知らないからこそ、まず知ればいい。

少しずつでも前へ進めばいい。


「ありがとう、エレノア」

青い瞳に、決意の光。

「私、頑張るわ」

その言葉に、エレノアはどこか嬉しそうに微笑んだ。


アストレア王国から嫁いできた主人は、まだ不慣れなことばかりだ。

けれど確実に、公爵家の一員になろうとしている。その小さな一歩が、エレノアには嬉しかった。


エレノアが部屋を出ていく。

残されたクラリッサは、招待状をそっと手に取った。

(必ず行きます。——でも、もう少しだけ待って)

いつもありがとうございます。

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