心に秘めた思い
自室へ戻ったクラリッサは、ベッドへ腰を下ろしぼんやりと窓の外を眺めていた。
――自分の役割は、セオドリックの伴侶となり、金の瞳を持つ子を産むこと。
この婚姻が決まった時から、政治的な結び付きであることなどわかっていた。
丁寧に事情を説明してくださった皇帝には、むしろ感謝の念すら覚える。
では、何故こんなにも気分が落ち込むのだろう。
セオドリックの顔もまともに見られない。
瞳を閉じるとセオドリックとの記憶が蘇る。
一緒に食事をした夜。
共に選んだドレス。
ぎこちなく繋いだ手。
分け合ったケーキ。
寄り添って踊ったダンス。
何度も交わした手紙。
「っ……!」
両手で口元を押さえた。
いや、そんな。そんなはずはない。
「嘘でしょう……?」
誰もいない部屋で呟く。
相手は帝国最高の貴公子。
しかも結婚相手として選ばれた理由は、自分自身ではなく青い瞳。
それなのに、自分は何を考えていたのだろう。
――もしかしたら。
セオドリックとなら、愛し合う夫婦になれるのではないか、なんて。
クラリッサはそっと胸元を押さえた。
誰かに大切にされること。
誰かに選ばれること。
そんな経験は、これまでほとんどなかった。
母はクラリッサが九歳の時に亡くなった。
近くの森で見つけた四つ葉を差し出した時。
母は本当に嬉しそうに笑ってくれた。
あの優しい笑顔は今でも覚えている。
父は自分に興味がなかった。
使用人たちも必要以上に踏み込んではこなかった。
ただ一人だけ、父の態度に怒ってくれた人がいた。けれど、その人もいつの間にか姿を消してしまった。
(あの人の瞳も青だったような気もするけれど)
今となっては確かめようもない。
もう七年も前の話だ。
あの頃は母の容態も悪くて、心細さのあまり、自分が作り出した幻だったのかもしれない。
幻だったとしても、母以外の人に気に掛けてもらえるというのは、温かいものだった。
セオドリックと過ごすうちに、その感覚を思い出して、重ねてしまったのだろう。
(こんなに苦しくなるなら……)
初夜の日のように冷たい瞳のままならよかった。氷青の瞳の中にあたたかさを見出さなければよかった。
しかし、もう知ってしまった。
クラリッサは自分の中に生まれた感情をなかったことにはできなかった。
(……初心にかえろう)
愛されなくてもいい。
ただ、公爵夫人として彼に認められたら、それだけでいい。
そう願うことくらいは、許されるだろうか。
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