八
祈継花「……。と、言う事です。」
一連の流れを全て赤裸々に話し皆の反応を伺う。
全員に改めてあの日の事を、その時の内情まで含めて細かく話したのは今回が初めての事だった。
白兎「ふぅむ。」
白兎「どうもありがとう。」
白兎先輩が私が話している途中から顎に手を当て、何かを考えていた様子を私は見ていた。
私の能力についての概要は既にこのグループの全員に話しており、或いは再確認の意味も有るのだろうが白兎先輩の地頭の回転の早さを考えるにその再確認をちゃんと行いながらでも、私の心情を察する程度の事なら時間はさほどかからないだろう。
逆算的に顎に手を当てていた理由は他に有る事になる。
白兎「楽観視した事なんて殆ど無いんだけどさ、それでも今の状況はかなり深刻みたいだ」
声は特に普段と変わりなかったがその表情の神妙さから言葉にも圧力を感じる。
私も含めて全員が今を危機的状況と捉えているだろう。
全員沈黙しており、会話に無言の間が生まれる
夜若華「中々暗い雰囲気ですね〜」
全員の視線や顔がそう切り出した夜若華先輩の方に向く
夜若華「いや、まあ仕方ないんですけどね〜」
夜若華「ねえ〜? せーんぱい? 」
言外へと仄かしている事が見て取れる。
恐らく先輩方は同じ所に思案をし、同じ様な思考をし、その結果同じ所へと結論を重ねたのだと思う。
違うとすれば、その結論を口に出す事を躊躇う白兎先輩に対して"でも、それしか無いでしょう? "と、どこか達観している夜若華先輩の性格の違いなんだと感じる。
そんな事を私は考えている間に白兎先輩が開口した。
白兎「さっきの話の中盤、院長の内心の内容。」
白兎「それを考えると僕らが院長を足止めしているわけじゃない。」
白兎「寧ろ真逆なんだ。院長に僕等が足止めされているって事だよ。」
白兎「そして今、今日の時点で既に被害者は多数出ている。医者などにかかりっきりで学院に来るという事を一時的に免除される様な重症なら或いはまだ良い方。中には身元すら分からない、骨が炭と見紛う程焼かれて、全身爛れた死者が数日前発見された。」
「……この街の治安を考えると際立つ事件だ。」
白兎「仮にこの事件にも院長が絡んでいる様ならば……」
白兎「院長は……あの人は、人を殺す。」
夜若華「……。」
白兎「そんな人に、僕達は今『マークされていない』という可能性はさっきの話で既に消えている。」
白兎「ならば何で今の今まで特に殺められる事も無く、皆生きているんだろう? 全員1人でいる時間は極力減らす様に心掛けているけれど」
白兎「とは言え、わざわざ僕等に対して足止めなんて遠回りをする必要なんて本当に有るんだろうか? その気になればそういう残虐な事を躊躇う事なくやる人が僕らを『生かしている意味』ってなんだろうか? 」
真面目な印象の学院生はその問いにこう返した
「……殺さない理由が何かしら有るからですよね? 」
白兎「うん、まあそうだろうね。」
白兎「殺さない理由、生かしておく理由。」
白兎「多分なんだけどもうキミなら気付いているだろう? 」
そう言いながら白兎先輩の視線は夜若華先輩の方を見据え始めた。
その視線の期待を裏切ってはならないとでも言わんばかりの間を持って夜若華先輩は口を開いた。
夜若華「私達の内の2人のどちらかが書庫に行くのを待っている、まあ待たれてるの方が適切かな。そういう状況ですね〜」
夜若華「私達と繋がっているのがバレてる祈継花ちゃんも危ないかなあ〜」
祈継花「あの、話が見えません。」
湧いて出てきた疑問を率直に尋ねていく。
祈継花「私達が狙われない理由の根本的な話と書庫の件はどう繋がっていくのでしょう? 」
祈継花「仮に院長が私達が書庫に用があるのを知っているのであれば、院長からしたら寧ろ、真っ先に私達を狙うのではないですか? 」
私の疑問に夜若華先輩でも白兎先輩でもなく、書庫創作組の先輩の内の1人、内心不真面目な印象の方の先輩が椅子の回転を止めながらこう答えた。
「そもそもそこに勘違いが生まれている。」
「って事に今俺達が気付けた分ある意味プラスかもしれないな」
「書類を見つけられたくないから俺たちを狙う」
「じゃあ逆に書類を見つけてほしい、見つけられても全く応えないなら? 俺たちを狙う必要は消えるだろう」
「その見つけられたい理由、ないしは見つけられても良いと思っている理由までは俺も分かっちゃいないんだけどな」
椅子の回転をゆっくりと再開し始める。
椅子の軋む音がまた部屋へと溶け込んでいき、その音に合わせたかのように自分のベッドに座っていた白兎先輩は立ち上がる。
椅子とベッドの軋む音が交わった。
そして冷蔵庫の前に白兎先輩は歩き始め、冷蔵庫から人数分の飲料を渡していく。
そんな事を行いながら同時にこう続けた。
白兎「恐らくは後者の"見つけられた所でノーダメージ"の方だと僕は踏んでいる。」
白兎「多分なんだけど院長は僕達をある意味で信用している。」
白兎「"1番やって欲しくないことをやってくれるだろう"という信頼感。」
白兎「僕達が本気で院長の精神に響く行動をしない限りは院長は不確定で予測出来ない行動をする他のグループから先に排除していき、その間僕達を放っておいても良い。そんな風に考えているのかもしれない。」
冷えたお茶を飲んで一服した夜若華先輩も間髪を入れずに続ける
夜若華「良く捉えた場合、私達自身が書庫に行かずに貴方達2人に任せている。その事が結果的に院長の不安を募らせているかもしれませんね〜」
白兎「だが、そのしわ寄せとして君達2人が最近書庫へ行っている事に対して院長はそろそろ何か行動に移るはずだ。」
白兎「連絡は取り合っているにせよこういう時位しか表立って僕達は一緒に居ない。別グループだと思われていると僕は考えている。」
白兎「だから……つまり……」
気のせいだろうか、白兎先輩の声色が少し重くなったのを私の耳は感じていた、そこまでの大声ではないのに部屋に置かれている家具が少ないので部屋に声が響いている。
その反響が、理由は説明出来ないが、焦りを生んでいるのに一役買っているかの様な、そんな気がしている。
白兎「最近書庫によく出入りしている君達2人が次のターゲットになる可能性も十分ある……」
「……まあ、ありえるわな」
「覚悟はしているつもりです。」
2人共言われた事に対してそれを冷静に受け止めているかの様に見える
私は学院へ来てから常にそういう緊迫感と戦い、耐えてきた。
私達全員が、院長が院長になってからそういう恐れから逃げずに向き合ってきた。
だからこその、能力なんて使わなくても伝わってくる2人の生への執着が
言葉なんて無くても伝わってくる本音が滲んでいた。
その本音に対して救いの手を差し伸べるかのような言葉を白兎先輩は声に出した。
白兎「とりあえず君達2人は書庫に行くのをこれから控えて貰って大丈夫だ。行かなくても良い」
「……? 何故……なのでしょうか? 」
白兎「うん、その理由も兼ねて改めて今の作戦とかのおさらいをしていこう。」
白兎「僕達が探しているのは2つ。」
白兎「1つは恐らく院長室にあるであろう『例の遺書』もう1つは旧学院が燃えた原因とされている事故、それに対して事件と指摘している様な書物関連『証拠』にはなるし、本命の遺書への後押しとして使える」
白兎「遺書の方はともかく証拠になるような物に関しては書庫にあると思っていたんだけどこれまでの院長の様子を見るに証拠をもみ消せるような権力ないしは証拠自体を回収、それに関する記録自体を全て廃棄している可能性さえあるんじゃないかな。」
白兎「院長は、だとしたら書庫に出入りされる事自体には何のダメージも無い。」
白兎「さっきも言った事だけど、院長は"1番やって欲しくないことをやってくれるだろう"という信頼の元、僕達に対して立ち回っている。僕達が全く書庫に行かない原因として別のグループと組んでいる事を勘付いたんじゃないかな。」
白兎「だから僕らには直接は手を出さずに他のグループをどんどん狙っている。僕達が直接書庫に行くまで疑わしきは全て罰しているんだ。」
白兎「その方が効率良く敵対勢力を消滅させられる……という様な思惑だろうね。」
「……じゃあ今までと同じ様な行動をしていたら遅かれ早かれ全員……」
白兎「うん……そこで提案が有るんだ。」
白兎「君達、書庫組2人は明日、書庫じゃなくて院長室へ向かって欲しい」
白兎「残りの僕達3人の内2人は書庫へ向かう。」
白兎「残り1人は院長へ接近し、その2人が書庫へ向かった事をさりげなく伝える役割だ。」
提案の内容に私は数秒間呼吸が止まっていた。
そしてその後体温が上昇し、鳥肌が立つ。
提案の内容を理解した自分は
祈継花「そんな無茶な事を……! 」
と咄嗟に拒否の言葉を出してしまっていた。
その直感的な否定を白兎先輩はまるで誰かにそう言われる事を事前に分かっていたかの様に、だが、それに対しての返しとしては頼りない声で弱々しく
白兎「そう思うよね、ごめん。」
今までと殆ど変わらない声量でそう呟いた。
この場に居る全員に聞こえてたハズのこの声が、しかしこの声だけはこの最低限の家具しかないこの部屋でも響かなかった。
「俺達2人が院長室へ行く目的は分かりやすくて理解出来た。遺書を探す為だろう? 」
「だが、3人の内2人が書庫へ行く理由と、わざわざ単機で院長と話に行き、その2人が書庫へ行った事を教えると言うほぼリスクしかない行為をする理由は何でだ? 」
白兎「僕らの立ち位置や院長の状況を踏まえると君達2人と仲が良い事を知って、その流れで書庫に居る事も知れば院長はすぐに書庫へ向かうと思う。『白兎グループと繋がっているのはそこだったか、だから書庫へ本人達は今まで行かなかったのか』という疑問点の解消と同時に『ならば今書庫へ探しに来ているその二人は早急に排除せねば』という心理が働く。」
白兎「まずコレが1つ。」
白兎「その行動で書庫へ来てくれるのが本命で、根本は院長を誘き寄せたいだけなんだ。だから書庫へ辿り着いた段階でまだ遺書を見つけれていない場合はその時そこに居る2人がそれはそれで足止めを行うし、書庫へ着くまでに遺書を発見出来た事を携帯のメッセージで伝えて貰えたらすぐに退散する。」
白兎「後は院長室と書庫の距離がそこそこ長い為万が一僕等の狙いがバレたとしても院長室まではどんなに急いでも時間がかかるというのも1つだね。」
白兎「理解して貰えたかい? 」
「あの、仮に僕達2人と白兎さん達が繋がっている事が院長にバレた場合は寧ろ真っ先に狙われるのは僕達なんじゃありませんか?」
白兎「……それについては、僕等も院長を信用しようと思う。」
白兎「院長からしたら僕や夜若華さんの行動の根底は『自分達はなるべく死線を潜らずに、且つ手は休めない。』」
白兎「トカゲの尻尾の様に、いざとなればグループとして手を、いや尻尾を切って、それからまた他の人間を招き切った尻尾を再生、活動を再開する事を可能にする。」
白兎「それこそ尻尾のように、グループ再生だ。」
白兎「……なんて風に思ってくれている様に、院長を信じている。」
白兎「それを前提にした場合だからこそ、院長は僕達を……尻尾じゃない本体を叩きに来るハズだ。」
「ふむ、概ねは理解出来た。大きな動きのある良い作戦だとは思うぜ」
不真面目な印象の学院生は回転を止めて椅子から立ち上がる。
そして白兎先輩の眼前まで歩き始め、少し声を荒げながらも静かに発言した。
「だが、1番の疑問点を解消してはいねえ。」
「院長へ単機で近づく事が自殺行為に等しい事を失念しているのかよ、ええ? 」
白兎「それは……その……。」
白兎先輩にしては非常に珍しく口籠る様な感じでそのまま少し黙り俯いてしまった。
その状態の白兎先輩の胸ぐらを急に掴んで、反対の手で握り拳を作り始めた。
「良い作戦だが、あまりにリスクが大きすぎやしないか? 」
「院長の気持ちが1つ変われば全員に死が待ち受けている様な、脆くて危険な作戦だって事を白兎でも自覚していながら、あえてそこまで胸の内を言ってくれた事には感謝してる。」
「信頼をしてくれてありがとうってな。」
「その上で、俺は仲間が死ぬかもしれない様な作戦は受け入れられねえ。」
平静を装いながらも隠しきれない怒りを滲ませている事が分かり、今すぐにでも暴力沙汰に発展しかけている。
この場を私はなんとか収める為に立ち上がろうとした。
だが、それよりも先に2人の肩を夜若華先輩が優しく叩いた。
「……なんだよ。」
夜若華先輩は肩に置いた両手を胸ぐらを掴んでいる手首の方へと移動させて、今度は両方の人差し指でそこを挟んだ。
夜若華「自分が、仲間が、白兎さんが死ぬかもしれないから、その白兎さんを殴るんですか〜? 」
その一言によって部屋の全員が静止し、部屋の時は止まったと感じた。
実際は数秒しか経っていない事には後から気付いたが、とても長い時が流れたかと錯覚を起こす様な場の沈黙。
それによって時間の重みを感じていたが、耐えかねたか、或いはその沈黙を解除する合図と言わんばかりに、一刻も早くなる様に急いで胸ぐらを掴んでいた手を離した。
それから先輩は頭を手で軽く掻きながら更に大きなため息を吐いて、部屋の中を歩き始めた。
その様子は自分が時を止めてしまった責任の一半にある為、贖罪の為に自らが秒針の代わりになった様だと説明が出来るような、そんな歩み。
そして更にその数秒後、そんな歩みを止めて夜若華先輩の方へ顔を向け喋り始める。
「だがよ、実際俺はその1人で院長に会いに行くっつーのは反対だ。死と隣り合わせという危険を1人に背負わせるのは正気じゃねえ。」
口が普段より悪いのを聞くに、まだ腹の虫は治り切っていない様だが、それでもだいぶ冷静になった様だ。
が、しかし
夜若華「それなんですけども〜」
夜若華「その役目は私が請け負ってもいいですよ〜」
夜若華先輩が出したこの言葉は鎮火しかけた火に油を注ぐが如く、愚行とも言える展開だった。
「……おいおい。」
「俺の話を聞いてたのか? 誰が行くかで問題視をしてた訳じゃない。何の安全の保証も無いのに1人で院長に近付くという愚かな提案を筆頭に、全般的に危なすぎる橋を渡り過ぎている事に俺は腹を立てて、コイツの胸ぐらをさっきまで掴んでたんだ! 」
「それとも、アレか? 」
激昂する院学生はそのまま、恐らく言ってはならないという自覚をしていた事を発言した。
手札から切り札にしていたカードを我慢ならずに切ってしまった様な、言った直後にそんな表情を垣間見せてこう放ったのを全員が確かに聞いた。
「仲間だと思ってたのは俺の方だけってヤツか? 」
その発言には全員少なからず思った事が有るんだと思う。
少なくとも私は部屋に響く声なんかよりも心に、情に確かに響き渡り、頭にその悲痛な感情が訴えかけてきた。どうしようもない脱力感に襲われて、声を出す喉を含めて体を動かす事ができなかった。
白兎「そういうわけではないよ! ないに決まってるだろう! 」
「いい加減にして下さいよ! 僕達5人、僕は全員仲間だと思っていますよ! 」
「その気持ちに偽りが無いなら誰だって今回の作戦には疑問を抱いて然るべきなんじゃねえのかよ……」
爆発した感情の代償か、疲労困憊している様子を声色から溢れ出しながらそう言った。
夜若華「……私の考えとして、グループとして生き延びる為に行動するのであればそもそも全員この学院を辞めれば良いんですよね〜それなら狙われる理由も無くなりますよ〜」
しかし、といつもの間延びしたような声色を変える事なく続けて放った言葉に対して私は価値観の違いを絶妙に感じる事になった。
夜若華「この学院を救いたい。そういう気持ちが有るのなら今の院長に対して遅かれ早かれ危ない橋だろうと渡らなければならない時。あるんですよ〜」
夜若華「もっと言うと、私達がこの学院を辞める事は私達が私達以外を見捨てる事に他なりませんから〜」
「自分の命を賭してでも9割の他人と愛着の無いここの為に戦うと? 友人知人に事情を話して一緒にここを去る。それじゃダメなのかよ? 」
私はその事に賛同をしそうな程揺らいでいた。
見捨てると言うのは分かりやすく罪悪感を抱える事になるだろう。
しかし、あの院長と1人で対峙する。
その難易度の高さをこの肌から臓物に至るまで、私の身体には染み渡り、恐怖として脳も覚えてしまっている。
いっそ忘れたい位の経験で、どうしようもない程の体験が、その記憶なんて解らない様になってしまいたい感覚が今でも鮮明に憶いだせてしまう。
その感触を夜若華先輩だって知っている筈で、だからこそ私は夜若華先輩に一緒に辞めるか止めた方が良い事を伝えるべく決心をした。
しかしその為にもう誰も座っていない椅子から夜若華先輩の方へと顔の角度を変えた際視覚には想定外の情報が入り込んできていた。
それは夜若華先輩の、満面の笑顔。
そしてその視覚と同様に聴覚でさえも錯乱を起こす様な想定外の言葉をその笑顔のままの夜若華先輩から、私は聞く事になる。
夜若華「うーん〜? ん〜……9割他人? 何を言っているんですか〜? 」
夜若華「私からすればこの学院の全員が仲間……ですかねえ〜」
夜若華「だから辞める選択肢は少なくとも私にはありませんよ〜」
嗚呼。
私は、「やめましょうよ、夜若華先輩。」と言う為に離した上唇と下唇でこう話した。
祈継花「夜若華先輩、院長と話して書庫へ行かせるという役割を私にやらせてくれませんか。」
少し意外そうな表情をしたがその表情のまま
夜若華「頼んでも良いですか〜? 」
と、承認してくれた。
白兎「良いのかい? 祈継花さん、無理してない? 」
当然と言えるかもしれない疑問に対しても、数分、数十秒前の自分では考えられない様な発言を堂々と今の自分は放てた。
祈継花「気持ち的には無理していません。」
祈継花「表現が合っている自信はありませんが……夜若華先輩の言葉には裏表が全く無かったんです。私達だけじゃなくて本当に学院も、そしてそこで学んでいる人達全員を本当に仲間だと『心から』思っています。」
夜若華「やだ〜意外と悪趣味ですねきつちゃんは〜」
祈継花「それは……すみません。」
祈継花「でも、私も感化されて今その気持ちに応えたくなっています。」
白兎「いやあ、でも、祈継花さんなら能力を使わなくても同じ様に言ってくれそうだよ夜若華さん。」
夜若華「ん、たしかにそんな気しますね〜」
真面目な学院生は絨毯で足を交差させた体操座りをしている所から動かずに、深刻な表情をしているもう1人の学院生に一言、こう声をかけた。
「私達もしっかりと役目を果たしましょうよ。」
「……うるせえよ。」
「やらないとは……言ってない」
「……それは良かったです。」
時刻はもう深夜1時を過ぎ去ろうとしており、明日早速動くのだから、この話が一区切りついた流れで解散をする事になった。
部屋から2人の学院生は退出し、私は2人を廊下の曲がり角まで見送った。
明日は直接会うわけでは無いけどお互い頑張ろう。
純粋な気持ちでお互いにそう言い合って、おやすみなさいという言葉を最後にしてから私は部屋へと1人戻る。
戻るまでの間に私は軽い深呼吸をして窓から月を眺める。
数時間前まで曇っていた夜空から漸く月が現れ始めていた。
それは私達5人が今回の作戦会議で上手くまとまった事を祝いに来てくれているかの様な、無機質なのにどこか暖かみがあり、ふんわりと柔らかく空から加護を送ってくれている様な光がこの廊下を、学院を、町を包んでくれていた。
少しだけ私はその月を眺めながら、夜若華先輩の事を考えていた。
それは先程の学院の人間全員を仲間だと考えてくれているという発言についてだった。
その事が本当なのは疑いようもなく、疑うつもりも無いがその為に相当の覚悟と信念を持って行動に移しているというのがありありと見て取れた。
私は能力から読み取れたその内心から1つの事柄を思い出していた。
私が明日院長と一対一で話す役目を引き受けようと思ったのは、夜若華先輩のそれらの勇気に感銘を受けたから。
それは
半分本当であり、半分嘘である。
嫌、厳密には嘘ではないんだろうか? ともかく実はそれだけではなかった。
私は聞いてしまっていた。
――
夜若華「……そもそもの話として、この学院でもっと勉強してたいですけどね〜私は〜」
そう言っていた、あの時の事
あの時点で私は無意識の内に院長の深い内心から逃げていた様で、まるですがるかの様に夜若華先輩の言葉の裏を読み取ってしまっていた。
無論そんな事は普段はしない、他人のプライベートに土足で踏み込む様な性格の悪い事はあまりしたくないし、したくない事に対してこの能力はあまりにも割に合わない集中力を求めてくる。
だが先程までの張り詰めた極限状態から私の身体はまだ態勢を解いていなかった様で、半ば無意識に夜若華先輩の言葉の裏側を聞いてしまった。
無論、すぐにそんな真似は止めた。
どっちにしろ集中力自体限界にまで近付いていたので聞こうとしても無理だったろうが。
夜若華《それに院長、アナタと仕事をするなんて、》
夜若華《『命』幾つ、必要なんですか? 》
――
確かにそう夜若華先輩は言っていた。
夜若華先輩を守る。
そんなつもりは無いが、何故かその事と、さっきの発言の2つで直感的にこの役割を夜若華先輩に任せてはいけない気がした。
故にその直感に従い自分がその役割を担う事を申し出た。
これで良い、これで……。
歩きながらその事を思案してると部屋の前までもう間も無く着く所まで来ていた。
再度窓の方を見る。
私達の寮の部屋の前には池があり、私はふとその池を見てみる。
月は水面にハッキリとその姿を映していた。
月が空にひとつ、水面にふたつ。
池はただ月を映しているだけ。
それが今は空に浮かぶ月を基にして模倣し、空とは別のオリジナルの月を精巧に作って映し出しているかの様な……。
何故かそんな風に見えた。
いよいよ明日、決着が付く。




