六
学院内のすぐ近く。寂れたというには多く、賑やかというには少ないような公園に灯りがひとつ。焚き火をしながら鼻歌混じりにその火を笑顔で見つめる者がいた。
その者に近付き美咲は一声かける。
美咲「こんな時間にまだ起きているだなんて珍しい。院長様ともあろうお方が暖を取る為に外へ出て、焚き火する程余裕が無いわけではないでしょう? 」
その公園の焚き火の主は学院の主でもある院長であり、私の指摘通り現状金に困るような生活とは無縁の筈のその人である。
院長「やあやあ美咲クン。」
院長は声色こそいつもと同じだったか雰囲気は少し落ち着いており、いつもより落ち着いて話が出来そうな雰囲気だった。
院長「まさか偶然というわけでは無いだろう? わざわざ夜中に公園で焚き火をしている人の事なんかを、声をかけてまで気にはしないだろうし。」
普段の院長の不可思議な、キャラ付けの様な喋り方が薄い事に若干のやりづらさを感じつつも"報告"する予定の事を伝える為に来た事を伝える。
美咲「ええ、ご名答ですよ院長。」
美咲「どうやら私達の事を疑う輩が想定よりも多いみたいでして」
院長「ンーま、だろうね〜寧ろもっと多い事をワタクシは予測していたから案外楽な気持ちだよ。」
お互いの想定にギャップがある所に残念ながら自分と院長の間には力量の差がある事を実感させられる。
仕方がないとは言え若干の不快感を覚える。
だが仮にそんな事を知られたら院長はそれを隠しもせずにとても喜ぶ事だろう。そんな事になったら最悪だから、とても嫌だから、自分はそれを悟られぬように平常時の声のトーンで言葉を続ける。
美咲「とは言え、一々雑魚共を潰していくのは中々骨が折れる仕事です。面倒臭いですね正直。」
院長「ハハハ……。もし面倒で全身骨折しちゃったら、その骨をワタクシが一個一個拾ってあげるよ」
美咲「……骨身に沁みるご厚意に感謝致します。」
院長「気にしないでおくれよ、ワタクシはキミの為なら骨身を惜しまない覚悟さ〜」
他愛も無い会話を済ませた所で
院長「その位置は寒くないかい? どうせならココ、隣空いてるよ。」
と言われたので素直に従い、自分も暖をとる。寒空の中の焚き火は寒さで感覚を失っていた双手を包み込むかのように暖めてくれ、両の手の息がそれに応え吹き返し始める。
……と、思ったらその内の片手は院長が物理的に暖めてくれていた。包み込むかのようっていうか、包み込んでくれていた。
美咲「……院長、小さな親切大きなお世話って言葉は知っていますか」
院長は急に変な声で
院長「んー!? 知らんなあ知らないなあ」
と言い放った。何かの物真似のようだが分からないので無視をして脱線していた話の続きをする事にした。
美咲「ま、つまり院長様的には本来もっと大変だった。現状に対してそんな感想なんですね。」
院長「そうともさ、少なくとも外へこうしてのんびりと夜中を楽しめる位にはね〜」
美咲「私と違い、焚き火をする位の余裕もありますしね。」
と、自分は若干の皮肉も込めながら焚き火を改めて注視する。
その行為に深い意味は無かったのだがその瞬間に気付いた。
院長「焚き火をする予定では本来無かったんだけどねえ」
院長「ふふふふ、あたたかいねえ美咲クン」
その焚き火の燃料として燃え盛っているものは、物なんかじゃない者であり、焚き木。ならぬ焚き人。
流石にうろたえが外見へと表れていたようで院長は満面の笑顔で、まるで笑いをこらえきれない幼子みたいに笑いを漏らしながらこう付け足した
院長「気付いたようだね、てってれ〜ドッキリ大成功! みたいな感じだよ……! 」
院長「ハハハハ! 」
自分は院長と一緒に居ることで生き存えながら同時に死のフチへと臨んでいる状態だと思った。
拾ってもらった時の骨の色がせめて白色であると嬉しい。




