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十悪業  作者: 悠希妙
4/11


一週間が経った。

学院はまだ休校しているが、今週には改めて入学式が開かれるらしい。


夜若華「では段取りの最終確認をしましょうか〜」


今部屋には自分含め五人居る。


白兎「まず時刻は本日23時。3階食堂に二人、祈継花ちゃんとオレ。」


自分含む三人は最早グループなのだが、もう二人とは一昨日知り合った。

この間の陰謀論の賛同者の様で、白兎先輩の知り合いの様だ。


白兎「次にキミ達二人はこの学院の隣の書庫で『アレ』を探す」


「しっかりと把握しております」

「任せてくれ」


白兎「そして最後に夜若華ちゃん。院長を呼び出す。」


夜若華「任せてください〜」


――


院長「どうしたんだい? 留年しているとは言え正直キミはワタクシに教えを乞う身ではないぐらい賢いと思っているんだけど」


夜若華「いやでも、分からないものはわかりませんし〜この難問にぶつかった時にたまたまここを通ったので〜」


深々とした学院内、大声でも無いのに響き渡る。

夜若華のやる事はただ一つ、院長の足止めだった。


夜若華「えーとこの部分の〜この部分なんですけども〜」


――


新しくなった学院の書庫は学院内に無く、新学院の隣に、一般向けにも解放される予定の建物が新学院と同時に建設された。


まだ完全には建築が終了しておらず、ここの書庫の最終的な広さや大きさはまだ完全には把握出来ていないが、予定では建築完了の暁には蔵書数は約597万冊。

現時点での新旧学院内の書庫のみでの数値であり、スペース的な余裕はまだまだある見込みらしく、キャパシティとして数百人は余裕で入る程の大きさになるとか。


この学院の関係者は今の段階で入る事が可能で、既に学院生の中では勉学する際の定番の場所になっている。


その大きさの書庫が旧学院内、炎上後に現存していた約3割の書物だけで作れてしまうと考えると旧学院にはどれだけの書物があり、どうやって格納していたのか。考えると疑問は尽きない。


ともあれ、オレ達二人は何の問題もなく、書庫に入る事には成功した。

作戦通り『旧学院が炎上した時の発火原因を記した記録』を探す。


――


祈継花「そういえば何故記録を探しだすのですか? 」


三階の食堂の窓際に二人。

書庫に入っていく二人を窓から見届けながら素朴な疑問を投げかける。


白兎「ああ、説明してなかったね。」


祈継花「院長の、あの独特の雰囲気は確かに不気味でした……。」


祈継花「しかし、それだけで院長を疑うには流石にまだ弱いですから。」


自分の感覚だけで人を悪者にする。

それはとても傲慢で、だからこそしっかりと裏付けが無いと駄目な事は明白だ。

先輩方の頭が良い事は明瞭で、それが分かっているからこそ私は先輩方を信じているだけに過ぎない。

夜空の目立たない光が窓からてらてらと差し込んでくる。

その光によって、緑色の濁りを私たちに見せているお茶を白兎先輩が手に持つ。


白兎「もちろんちゃんと裏付けや仮説の元、院長が黒だと踏んでいるよ。」


白兎「えぇ〜と…少し待ってね」


知能をこちらのレベルに合わせる為の準備だと言わんばかりに一杯のお茶を一口飲む。言葉を上手くくだいて、理解させようとしてくれている様子はなんとなく、水をろ過して飲める様にしているのを連想した。


白兎「じゃあ、まず、院長への陰謀論をオレや夜若華ちゃんが言い出した理由からだね。」


白兎「そもそも現院長が院長になった過程って結構特殊でね、指導教諭にも最近なった人間が一気に二段階昇級していたりする事も結構特例、というか異例なんだけど、その訳は先代院長からの『遺書』の内容に従っているんだ。」


白兎「この事は祈継花ちゃんが学院(ここ)へ来る前に有った、院長就任式で他ならぬ院長自身が演説の時に言っててね。」


白兎「その内容を大雑把に箇条的に言うとこうなる。」


白兎「正式な引き継ぎが出来なかった場合の次代には今の院長を指名する。」


白兎「また、建物の老朽化も激しく、色々と無理が生じる事が考えられるので、次代院長にはまず今の学院を引き継いだ『新学院』の設立から着手する事。」


白兎「また書物等は学院とは別に一般向けに解放し、更なる発展を遂げる為に日々精進する事。」


白兎「でもコレっておかしい部分があってね? 」


そう先輩は言う。

私はそこまでの話には口を挟む事なく黙って聞いていたが


祈継花「おかしい部分……? 」


と、思わずオウム返しをしてしまっていた。


内容自体に違和感は特に感じなかった。


新学院を作る事になった理由が老朽化のせいでは無くなってしまった事だろうか? 

もしくは先代の院長の個人的な遺書にしては、職務である院長としての側面が強い。

私情があまりなく、我が弱い事もまあ多少おかしいと言わないまでも若干引っかかる部分ではあるだろうか? 


しかしそういう風に思考を重ねていた自分とは違う部分で白兎先輩は話を進めた。


白兎「旧学院の7割が完全に燃え尽きた程の大火事で、それは院長室も例外じゃなかった。」


白兎「そんな状況で燃え上がった学院の中で何故遺書がたまたま無事だったか、そして何故今の院長が都合良くそれを入手出来るまでに至ったか……この時点で邪推出来る部分は多いんだよ。」


白兎「もうひとつ、旧学院が何で炎上したのか、だね。」


白兎「表向きはこの間言った様に『危険の伴う実験の失敗』だとされている。」


白兎「でも調べた所、その炎上した時間帯どころかその日実験が行われた形跡すら全く無いんだよ。」


白兎「もし仮にこの発火原因自体が(カバーストーリー)だとした場合にその虚構で誰が一番得するか? 」


白兎「まだ陰謀論の域を出ていないかもしれない、不可解な点は何個かあるんだけどこれらの話をまとめてこう考えたんだ。」


白兎「『現院長はあの日、学院を炎上させ、先代院長を殺める。これらを同時に遂行し、更に遺書を偽装した。先代院長の皮を被った自作の遺書は自らの階級を高めてくれたし、尚且つリニューアルした学院も手中に納める事に成功した。』ってね。」


三階の食堂。この学院の三階は美術室や理科室などの授業の際に使われる部屋が多く、学院に内蔵されている寮や、ノートとペンのみで行われる様な一般の講義用の部屋は存在していない。


だからだろう、この時間帯に三階の方の食堂を利用している学院生は普段から非常に少なく、今の時間帯では私達二人と裏で作業をしている調理員の方以外には誰も居ない。


その事は白兎先輩も分かっているだろうが、それでもこの話をしていく中で先輩の声は小さくなっていった。

念には念を入れて、誰にも聞かれない様な細い声に。


白兎「勿論かなり曲解している部分も憶測もまだまだ多いし、大々的には動けない。けど」


祈継花「だからこその証拠集め、なんですね。」


先輩は椅子にもたれかかりながらかるく頷く。


目だけは窓から見える書庫を見据えながらこう話を続けた。


白兎「一番怖いのはこれらの動きを院長に察される事。院長はああ見えてかなり慎重で、仕事も丁寧にするし、この話もかなりセンシティブだから。」


白兎「だから、少しでもこの話が耳に入れば何をされるか分からない。」


白兎先輩の声は最早囁きの類で、三階食堂室(ここ)で無ければ聞き取れない程の小声でそう言った。

知り合ってから一番真面目な表情をしていたが、直ぐにいつもの少し楽観的な表情に戻り、少し微笑みを浮かべながらお茶を飲む。

私は少し冷めてしまった珈琲を見つめ、軽く息を吐くと一気に飲み干した。


祈継花「その為に夜若華さんと、私達も頑張らないといけませんね。」


まもなく日付が変わろうとしている……。

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