三
しかしどうしたら良いのか
あの話をした後呆然としている自分をさておいて、二人揃ってすぐに部屋から出て行ってしまった。
部屋には自分一人。町は事件の後の空いた数日で見回ってしまったし、授業なども事件以降暫くは無くさざるを得ない訳で、いよいよ暇を持て余している。
(事件……か。)
色々と唐突な話ながらもようやくあの二人の話した陰謀論に体が追いつきてきたらしく、体は小刻みに震え始めていた。
そこへ扉が開く音が。
視界をそちらへ向けるとそこに居たのは院長だった。
祈継花「ッ!!! 」
唐突な事にとりあえず起立したは良いもののそれ以上のリアクションが取れない。
院長「やあ! どうだい寮は? 」
院長「これでも昔と比べると三倍は広くなってるんだよ! ハハハハハ! 」
さっきの話がどうしても脳に残っており、何も言えない。
院長「そんなに緊張しないで良んだよ? 院長とは肩書きだけでさ、先代がご存命の時点では僕も寮生活をしてたんだからさ」
祈継花「いっいえいえ! わざわざ部屋の様子まで確認に来て貰って……あの、なんていうか……ありがとうございます」
それが何とか絞りだした言葉だった。
体が追い付いた事で今度は逆に思考がまとまらなく、言葉が見当たらないでいたが。
院長はその私の言葉でエンジンをかけたかの様に色々な話を止めどなくし続けていく、私自身は本当にその間喋っておらず、ただ院長の言葉に耳を傾けるのみであった。
院長がその様子に気づき始めたのか、少し間を置いて軽く咳払いをした後に、さあ今ので仕切り直しました。と言わんばかりの様子と言い方でこう発言をした。
院長「正直色々と唐突でね、一応院長だけれど今年の新入生は例えるなら上司と部下というよりかは先輩と後輩って感覚だからさあ。ヨロシクね! 」
そう言いながら敬礼のような形でサムズアップをする。
それは緊張している新入生をリラックスさせようとしている心優しき風貌で、客観的に見たらとても和やかなシーンなのだろう。
だがその瞬間に祈継花の震えはリラックスとは対極的な意味で止まり、瞳孔が開く。
衝撃は相当な物だったが、冷静に、理性的になると正直信じきれていなかった部分も多分に有るさっきの話を今ので確信してしまったからだ。
あるいは、以前から身近で見ていたあの二人だからこそあの真剣な表情で一見馬鹿げたあの陰謀論を唱えられたんだろうか。
何れにせよ震えは止まったので院長は思惑通りにこちらの緊張をほぐせたと勘違いしているんじゃないだろうか
院長「今の学院の食堂にはパフェとかあるのだけど一緒に食べないかーい? 」
ほぼ確定で勘違いしていると思う。
――
しかし院長は口が上手い。
院長「ストロベリー味のアイスがワタクシのオススメなんだよー」
身分の違いや財力が無い事を理由に丁寧に断ろうとしたが
院長「さっきも言ったけどここはワタクシのオ・ゴ・リなので気にしないで美味しく召し上がってほしい! 」
院長になったからその内お金には困らなくなる
院長「他にもデザート以外だとうどんが美味しいんだよね、ハハハ! 」
新入生への事故に対してのお詫びをさせてほしい
院長「それにしてもいやはや……」
その詫びも兼ねて新学院の施設も案内したい
院長「大変愉快だね! 僕は今楽しいよ! ハハハハハ! 」
という風に詰まされて、こうして一緒に若干早めの晩御飯を食べている状態になっている。
程々にハイテンションな院長の隣を"見かけない顔"がオトモしているシチュエーションは周りからの視線を感じるには十二分な理由だが中でも
夜若華「なんだか奢って貰ってますね〜」
白兎「羨ましいかぎりだよ」
こちらの顔を知っている先輩方がこちらを伺っているのを見て取れるのが一番の理由だった。
院長との対話に少しずつ慣れ、本当の意味でリラックスしてきた頃に院長の、恐らく仕事用であろう携帯電話から音が鳴る。
院長「おっと……やっぱり院長になるとどうしても忙しくなっちゃうね、先に行くとするよ。またアイスとか一緒に食べようか」
祈継花「あっはい! ありがとうございます! 」
食堂から出て行きながら、こちらは見ずに手を振る。
もう片方の手で電話へ応対しながら。
ホッと息を吐く間も無く先輩二人が同じ机に座ってくる。
その瞬間に今までに感じた事の無い不思議な安心感が湧いて出てきている事に気付く
白兎「おっ……? どうしたんだい!? ……凄い汗だよ」
本当の意味でリラックス?
そんな事は全く無く。今、ようやく緊張の糸が切れただけなんだと実感させられる。
あの院長の考えている事が普通は何も分からない事と同時に。
――
院長「フンフン〜」
美咲「今日は特に機嫌が良いですね、院長様。」
院長「分かっちゃう? 流石美咲くん! いやぁ愉快愉快! 」
いつものわざとなのかと疑いたくなる様な笑い方、独特だ。
院長「しかしアレだね、キミとの約束も守らないとね。」
美咲「あら……約束を忘れるタイプだと思ってました」
心から意外だった
院長「そんな事ないよ! 約束は覚えているタイプだよ! 」
美咲「その上で破るのが楽しみ。とか? 」
院長「悪趣味だなぁ、ワタクシは約束だけは守る方なんですよ。」
院長「ただし、それを相手にも求めるけども、ネ? 」
美咲「分かってますよ、ちゃんと指輪も遺書も渡したでしょう? 」




