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前世の箱庭  作者: みなみ 陽
いつもとは違う日常の始まり
7/15

真理は醜いもの

 恐る恐る宙彦は、そのリンクをタップした。謎の胸の高鳴り、溢れる手汗、震える手。たかが、自分と同じ苗字の人であるだけなのに不自然なくらいだ。

 数十秒ほどでページが開いた。やたら広告が多くて、スマホが重い。それが若干のストレスに感じたものの、画面を下にゆっくりスクロールしていく。かなりスクロールした時、ようやく記事の内容を見ることが出来た。


『もう夏ですね。夏といえば怖い話。その中でも選りすぐりの怖い話を紹介したいと思います。と言いましても、僕の知ってる怖い話なんて現実的な芸能話なのですが笑。しかし、怖いのに変わりはないです。今回、紹介する芸能裏話は今までよりもずっと凄まじいと思います。若干、グロテスクな表現があるので苦手な方は見ないことをお勧めします』


 そんな前置きから始まっていた。宙彦は得意な訳でもないが、好奇心からかなり気になるため読み進めていく。


『この事件は1964年の6月に起こりました。ちょうどオリンピックが開催された年ですね。その年にかなり流行したドラマがありました。そのドラマは”星空の下で”というものです。そのドラマの主演だったのが”星谷大和”という人物でした』


 その文章を読み終わり、またスクロールすると今度は写真が現れた。その写真は星谷大和のものだ。ドラマで見た全く同じ顔がそこにある。宣伝用の物のためか、かなりかっこ良く決まっている。元々何もしなくても素材が綺麗だから、余計にかっこ良さが際立っている。昭和スターって感じだ。


 ――改めて見てもこのイケメンが殺人犯かぁ……人は見た目によらないってことだよなぁ。本当になぁ、勿体ない。


『彼はとても気さくで優しい人物だったそうです。それに加え、この顔ですから当時相当モテたそうです。羨ましいですね。このドラマでヒロインを務めていた”織井美幸”さんが告白したのもこの方だったとか。ですが、断ったとか……信じられませんね。とても綺麗な方なのに、やはり物事を測る物差しが我々とは異なるのかもしれません。ちなみに告白した後にドラマでの共演が決まってしまいました。現場では、二人が話しているのを見た人はいないとか』


 途中まで読み進めて、宙彦はあることを思い出した。


 ――確か、あいつの苗字って織井だったような……。


 偶然だったとしても気味が悪い。この記事を読んでしまっている以上、なんとなく嫌な予感がした。


『本題に入りましょう。ドラマでの打ち上げのことです。星谷は体調が悪かったそうです。それ以前のドラマの撮影でも頻繁に体調不良を訴えていたそうです。これらのことから周囲の人々は彼を心配して、帰るよう促したそうなのです。ですが、彼はそれを拒否しました。結局、彼は最後まで打ち上げに参加しました。そして、ついに芸能界最大の事件が起こるのです』


「あ~なんでこんなの読んでんだよ……マジで」


 宙彦は自分で自分のことが怖くなった。本来であればこんな芸能ニュースなど一切興味がない。それなのに、最近今まで興味のなかったものに興味を持つようになってしまっている。

 そして、そんなことを言いながらも結局読み進めてしまっていた。


『打ち上げの帰り、星谷は織井さんに一緒に帰ろうと誘いました。なんと徒歩で。彼の中で、あくまで彼女は友達だったのかもしれません。告白で砕けた後、気まずい雰囲気でもあったそうなので、それを解消するためのことだったのではと噂されています。つまり、ここで久しぶりに言葉を交わしたということになりますね。2人の会話は未だ謎のまま……闇の中です。そして、翌日の朝の収録に織井さんは来ませんでした。自宅や友人宅にもおらず、行方不明となってしまったのです。同日、星谷もまた収録に来ませんでした。彼もまた行方不明になりました。これはすぐに大ニュースとなりました。駆け落ちとか、誘拐だとか。しかし、そうではありませんでした。翌日、川から首を切断された織井美幸さんの遺体が見つかったのです』


 ――首を!?


 想像するだけで悍ましい、と宙彦は震えた。どうしたらこんなに惨たらしいことが出来るのかと。


『川の土手で凶器のノコギリが発見されました。そこには織井さんの血液と星谷の指紋等が付着していました。警察は星谷の行方を追いました。しかし、時すでに遅し。彼の遺体が同じく川で発見されました。犯行に及んだ後の自殺。真相は全て闇の中に葬られてしまったのです。動機は一体なんだったのか……考えてみたのですが、しっくり来るものはありません。凶器が事前に購入され、誘ったのが星谷であったため、警察は計画的犯行として処理をしました。皆さんには分かりますか? この深い泥沼が……。そういえば、星谷の姉もその後同じ川で自殺を図ったそうです。事件のことを気に病んでのことだそうで……わざわざ同じ川で? とも思いましたが、彼女の思う所に後からどうこう言っても仕方のないことです。さて、今回の記事はどうだったでしょうか――」

 

「見るんじゃなかった……」


 宙彦はスマホの電源を落とし、目を塞いだ。しかし、その真っ暗な世界の中にその事件の様子が想像で浮かんでくる。犯人が女優の首を迷いなく斬り捨てる様子が。


「駄目だ駄目だ……そうだ! アニメでも見よう。出来れば明るいのを――」

「今度は間違えないでね」

「ああああ!?」


 耳元で眞白の声がした。そのゾワッと耳を撫でまわすような声に、宙彦は激しく驚いた。


「ビビり過ぎっしょ。ダサ」

「びっくりするわ、そら……はぁ」

「辛気臭い顔してたからさ~何見てたの?」

「え? いや……どうでもいいじゃん」

「は~ん。まぁそういう年頃だしね」


 眞白はニヤリと笑った。


 ――まずい、変な誤解をされたかもしれない。


「違う違う! そんなんじゃない!」

「じゃあ、検索履歴見せろよ」


 ――それは出来ない、絶対無理! あんな物騒なん見せられない!


「勘弁して下さい……」

「そら見たことか」

「もういいよ……健全男子ってことで。ていうか姉ちゃん。今度は失敗しないでねってどういう意味?」

「もう少しで分かるんじゃね? あんたの様子を見るにね」

「はぁ……」


 眞白の表情は不気味だった。まるで何かを企んでいるように見えて。

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