第39話 『屋台は楽しんだもの勝ち!』
神社前に着いた一行は、流石に11人で行動するのは邪魔になるかもしれないと思い、グループを分けすることに決めた。山崎と姉はペア、西宮ともみじはペアとして後はどういうメンバーわけにするのか。それはすぐに決まった。
「じゃあ俺と姫路と小島、3人で回るか」
「未佳さん、京子さん、もみじと一緒に回りませんか?」
躑躅森と西宮が声を掛けたら、自然にグループが3つに分かれた。松川と渡辺は、山崎と姉とで4人行動することになった。
「じゃあ、花火が上がる20時にまたここに集合しような」
山崎が全員に伝え、グループごとに解散することになった。松川が早速屋台に目を向けた。
「何か食べようよ!」
夏祭りを楽しむとしたら、やはり屋台だろう。たこ焼き、フランクフルト、チョコバナナ、リンゴ飴、イカ焼き、わたあめ、かき氷。これこそ定番という物がいくつも見えた。食べ物以外にも射的や金魚すくい、お面売りなどこれまた定番の物が並んでいた。
「まず何処から行こうか……」
早速姉が自分の行きたい場所を指さして言った。
「チョコバナナ! 祭りと言ったらチョコバナナでしょ普通!」
山崎と松川の腕を引っ張り、松川は渡辺の手を引っ張り連れて行かれた。
「おじさん! チョコバナナ4本ください!」
「あいよ! 1000円だ」
一本250円というのは、少々高いと思う。山崎は屋台だから仕方ないと思いつつも、姉はそうは思っていなかったらしい。
「1本250円は高いよ! 150円にまけてくれない?」
「姉ちゃん……」
急に値切りに走る姉を見た山崎と松川は口を開けて呆れていた。このタフな精神力の姉に感服していたが、おじさんもそう甘くは無かった。
「150円は無理だな……でも200円にならまけてやる」
いや、おじさんは甘かった。可愛らしい浴衣姿にやられたのか、元気の良さにやられたのか、定かでは無かったもののとりあえず少しでもお金が浮いて嬉しかった。
「はいよ皆の分。私の奢りだからね」
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
姉は松川と渡辺にチョコバナナを手渡した。しかし何故だか山崎には回ってこない。山崎が手を出しても渡そうとしなかった。
「なんで俺には渡してくれないの?」
「はい、あーん」
手渡しせずにそのまま口へ運ぼうとしていた。しかし恥ずかしさも相まって、そのチョコバナナを口にすることはできなかった。すると姉も本気にしていなかったらしく、すぐに本音を言った。
「お礼、まだ聴いてないんだけど?」
「……ありがと」
「はい!」
不機嫌なのか上機嫌なのかよく分からなかった。しかしチョコバナナを貰う事ができ、一段落。姉がこれから何を仕出かすか分からないので、姉の行動には気を付けることにした。
次に一行が目に留まったのは、射的だった。5発で300円。良心的な値段なのか、それともぼったくりなのか。既に金銭感覚が狂いだした一行であったが、とりあえず対決することにした。銃はショットガン型の物で、両手で持って狙いを定めるのがベストだろう。商品は箱型の物、特にお菓子を中心に置いてあったが端の方にはぬいぐるみが鎮座しており一番上、絶対に落ちないだろうと言ったような重厚感いっぱいのゲーム機が置いてあった。みんな300円ずつ払い、まずは姉から射的を始める。姉は意外と乙女チックなところがあり、クマのぬいぐるみを集中的狙った。5発中2発は外してしまい、2発は命中したものの倒れはしなかった。
「くー! 最後の一発……倒れろ!」
放った弾はクマの鼻の先に当たり、見事に倒れた。
「はい、お嬢ちゃん上手かったね」
「やったー!」
両手に収まらないくらいの大きさのクマのぬいぐるみが姉の手元に渡った。続いて松川が銃を向ける。松川は元を取るために100円のお菓子の箱を3つ当て、最後は少し欲張って缶のドロップを狙ったが、倒れる事は無かった。しかしこれは良い作戦だった。300円で丁度300円分の商品を当てたのだ。松川の性格はしっかりしてるなと、山崎はこの時思った。
「よーし次は俺がやるぞ」
山崎が狙うのはぬいぐるみ。
「姉ちゃんは5発で1匹、俺は5発で2匹……いや3匹取ってみせる!」
そう言った山崎を、姉はかっこいいと言っていたが気にしないでおこう。意識を銃とぬいぐるみに集中する。ぬいぐるみの顔の中心を狙えば、きっと倒れる。放った一発目は見事にウサギのぬいぐるみの顔面に直撃。1匹目を仕留める事に成功した。
「慎一やるぅ!」
姉が抱きついてきたが、今の気分はスナイパー。振りほどいてもう一度弾を込める。ワニのぬいぐるみが目に留まる。口が開いており、そこに狙いを付けた。弾丸はワニの口の中に入っていき、見事に2匹目をゲットする事が出来た。今の山崎は完全に狩猟者の気分だった。
「残るはあのライオンだけだ!」
少々大きめのライオンのぬいぐるみに照準を合わせた。ライオンの威圧に山崎の銃口はずれる。1発目は外し、残りの弾は2発。2発目は当たったものの、ピクリとも動かなかった。最後の一発に願いを込める。
「いっけええええ!」
撃たれた弾はライオンの額に見事に当たった。
「よっしゃー!」
完全に3匹目を貰ったと思った。しかしライオンは動いたものの、姿勢を立てなおしたのだ。倒れなかった。命中したのはよかったのだが、流石は百獣の王ライオン。倒れる事を恐れた。
「うわああああ! おっしいなー」
「はいよ、ウサギとワニね」
おじさんからぬいぐるみが渡された。この2つは松川と渡辺に渡そう。そう思って渡辺の方を見ると、銃を構えていた。
「頑張れよ渡辺。あのライオンは手強いぞ……!」
そう言ったそばから、渡辺は一発でライオンを倒した。
「おお! やるねぇ紗希」
松川は渡辺の射撃に感心した。2発目の弾が込められる。
「次はドロップ」
松川が取り逃したドロップに狙いを定めた。見事に命中し、ドロップの缶が倒れた。射的の上手さは4人の中で一番だった。次の一発をトラのぬいぐるみに当て、またもや倒したところで渡辺がおじさんに訊いた。
「最後の2発、同時に撃ってもいい?」
「同時? 両手を使って撃つってことかい? おススメはしないけどいいよ」
なんと、両手で二つの銃を持ちたいと言いだしたのだ。ショットガン型の銃を二つで持つと、なんとも言えないかっこよさがあった。しかし普通は両手で一つの銃を持って狙いを定めるもの。一体何を狙うのだろうか。
「あのゲーム機。高そう」
両手で構えた銃をゲーム機の箱に向けた。あのゲーム機を倒せる人なんていないと、山崎が真っ先に狙いから除外した商品だった。
「渡辺! いくらなんでもそれは難しいんじゃないか?」
「もう元は取った。後は狙うだけ自由」
確かに言っている事は正しかった。ぬいぐるみ2つにドロップ1つ。300円分は十分に取っていた。最後の2発は商品を倒さなくても問題はない。しかし不安なのは両手の銃をどうやって撃つのだろうか。2発同時に撃って2倍の威力にしたいのだろうか。じっくり観察していると、集中している渡辺が目に映った。集中の仕方が円町にそっくりだった。息を呑んで髪の毛一つ揺らさない程の集中力。見ている3人も固唾を呑んで見守った。いよいよ渡辺の弾は発射された。1発目が撃たれ、見事にゲーム機の箱の上部中心に当たり、箱が揺れる。その揺れが最大になったところに丁度2発目が飛んできて、揺れを追加で押しこんだのだった。ゲーム機は見事に倒れた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
見ていた山崎は思わず声を上げる。渡辺の両手持ちが気になって周りで見ていた人達も声を上げた。よく見ると屋台のおじさんの口はすっかり開いていた。
「すごいな渡辺! 元以上取ってるぞこれ」
倒れた商品計4つを渡辺は受け取った。
「いやー射的屋台歴20年の僕だけど、こういう高い商品を倒したのは過去2人目だね。お嬢ちゃん、良い腕してるよ」
おじさんも高い商品を取られた割には笑顔だった。渡辺に渡す予定だったワニのぬいぐるみをそっと自分の鞄にしまった。
大盛り上がりの射的を後に、一行は更に屋台を楽しむことにした。




