第38話 『いざ神社へ』
姉が帰ってきてからは特にイベントが無かった。メールもぱたりと来なくなり、友達と遊ぶ機会は無くなっていった。夏休みは時間が過ぎるのがとても早い。あっという間に2週間が過ぎ、西宮が帰ってきた。しかし帰ってきてからというもの、遊びの誘いはなく、結局8月中旬の出校日まで誰とも会わなかった。
そして今日がその出校日。山崎は学校へ向かった。
教室に入ると、何やらクラスの人達はテンションが高いのがわかった。前の席に座っている松川に声を掛ける。
「おはよう。みんな何でテンション高いんだろうな」
夏休みの長い間友達と会っていなかった生徒達がこうして久しぶりに会って、会話を楽しんでいるのだろうか。そうではなかった。
「明日から二日間は夏祭りの日だよ。皆その話で盛り上がってるんじゃないのかな?」
そういえば以前、潮凪ショッピングモールで夏祭りのポスターが貼ってあったのをふと思い出した。確か夏休みの終わり頃の日付だったと思ったが、もうそんな時期になっていたのかと思うと、山崎は時間の流れの早さを改めて感じた。
「夏祭りは誰かと行く予定あるのか?」
「うーん……」
松川が返答を迷っていた。考えていると西宮が近づいてきて、松川が考えているのを他所に答えを言った。
「みなさんで夏祭りに行きませんか? 私はあまり行った事が無いのですが、どんな物なのか気になるので、是非行ってみたいです」
「そうだな。宿題も全部終わってるし、家にいても退屈だからな。誰を誘おうか?」
「みなさんで行きましょう! 学園カメレオンのメンバー全員で」
全員は流石に多いと感じたが、西宮はそれを望んでいる。大勢いた方がにぎやかで楽しいし、思い出づくりの一環になる。メンバー全員の席を回って、明日駅に集合という事を伝えた。
席に着いて一段落すると、後ろの席に礼儀よく座っている渡辺が気になった。夏休みの初めの頃、一緒に映画を見に行ったきりあまり話をしてなかった。メールアドレスも知らないし、部活のメンバーではないからSCウォッチももちろん無い。夏祭りに思い切って誘ってみようと、声を掛けた。
「渡辺も夏祭り一緒に行かないか?」
「夏祭り?」
訊き返された時、一瞬頭の中に嫌な事を思い浮かべたが、まさにその通りだった。
「夏祭りを知らないのか?」
「うん」
「やっぱりか……夏祭りってのは、神社に屋台がたくさん並んで、打ち上げ花火を見たり金魚すくいをしたり……そういうお祭りだ」
説明が下手だったかもしれないが、それでも渡辺には伝わった。
「楽しそう。行く」
「よし、じゃあ明日の夕方、駅に集合な。何かあるといけないからメールアドレス教えてもらってもいい?」
渡辺とメールアドレスを交換し、夏祭りに一緒に行くことを約束した。
その日は午前中に学校が終わり、早く家に帰る事が出来た。家に帰ると、早速姉が山崎に質問を投げかけてくる。
「そういえばさ。明日の夏祭りって慎一行くの?」
「うん。大人数で動く事になるかもしれないけど、友達みんなで行くよ」
「私も一緒に行っていいかな」
一瞬返答に困った。姉と一緒に行動しているところを見られると、少々恥ずかしい。しかもどこか出掛けに行って一緒に並んで歩くと、よくカップルに見間違えられる事があった。というのも姉が山崎と腕を組んでくる事があるので、そういう誤解を招くことになりかねないのだった。
「別に来てもいいけど、あんまり恥ずかしいことはするなよな」
「よしっ!」
姉がガッツポーズしていたが、そんなに夏祭りが楽しみだったのだろうか。
次の日の夕方。姉と家を出た。夏祭りという事で、姉は浴衣を着ていた。皆の浴衣姿を楽しみにしながら電車で向かう。駅に着いた時、時間を確認したが集合時間には時間があった。どこかで時間を潰そうと、駅のコンビニに入ると浴衣姿の女子が店員と何か話していた。店員がいらっしゃいませと声を上げた時、その浴衣の女子も振り向いた。
「あれ? 山崎君?」
浴衣を着ていたのは松川だった。色鮮やかな浴衣、派手ではないが十分目立つような色合いの綺麗な浴衣だった。
「おお、彼が山崎君か」
店員さんが何故か山崎の名前を口にした。山崎は不思議でたまらなかったが、店員さんの次の言葉で解決することができた。
「どうも、いつも妹が世話になってるよ」
「あ、こちらこそどうも」
松川の兄だった。しかし妹とレジ喋りコンビニで油を売っていてもよかったのだろうか。少々疑問に思ったが、松川の兄がこう言った。
「じゃあ、今日のバイトはこれで終わりだから。少し待っててね」
「うん」
松川は頷くと、兄はコンビニの裏に入っていった。松川が山崎の方を向き直し、会話を再開する。
「山崎君早いね。集合時間より30分近く早いよ?」
「いいんだよ。遅く来るよりはましだからな」
松川と山崎はいつも集合時間より早い。しかし松川の浴衣姿がいち早く見られたので、得したと山崎は思った。
「その人は……?」
山崎のすぐ後ろに立っている姉が気になったのか、松川が質問してきた。そして山崎が答えようと口を開いた途端、言葉を覆いかぶせるように姉が口を挟んできた。
「山崎慎一の彼女です!」
一瞬、何を血迷ってそういう発言をしたのか分からなかったが、すぐに冷静なツッコミをいれようとした。そしたら松川がそのツッコミよりも早く反応してしまった。
「ええええええ! 山崎君彼女いたの!?」
「ちがっ……」
必死に弁明しようとした。そしたらまたもやリアクションする前に姉が言葉を出す。
「もう付き合って16年目です!」
今度はツッコミの猶予が出来た。松川が16年という数字を聴いて、首を傾げたのがツッコミのタイミングとなった。
「姉だから! 彼女じゃないから!」
「あ、お姉さんだったのかー」
松川はやっと理解してくれた。山崎が姉の頭を軽く叩き、反省するように言った。コンビニの外に出て、松川の兄を待った。姉が松川にちょっかいを掛け始めたのを隣で眺めていた。
「松川ちゃん、慎一とはどういう関係なの?」
「友達ですよ。部活で一緒の」
「何部に入ってるの?」
「えっと……かくれんぼする部活です」
「……」
そりゃそうだ。その反応は間違っていない。山崎は心の中でツッコんだ。
「そんなヘンテコな部活、誰が考えたの?」
「俺だよ姉ちゃん」
「あ、慎一が考えた部活だったの? 面白そうな事してんのね」
ヘンテコと馬鹿にしておいて、当の本人を目の前にしたら面白そうと言い直す。手のひら返しが上手いのだろうか、下手なのだろうか。そんな会話をしていたら松川の兄がコンビニから出てきた。
「改めて挨拶するよ。松川光、大学生だ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
出された手を握り返し、挨拶を終える。兄は爽やかな感じの男性で、何処となく松川の雰囲気に似ていた気がした。
「今日はみんな集まって夏祭りに行くんだってね。碧から聴いたよ」
「はい。お兄さんも今日は一緒に行くんですか?」
「いや、僕はこれからバイトなんだ。夏祭りの屋台のバイトでね。みんなの分の焼きそば、安くしとくから後で来てくれよな」
そう言うと、松川の兄はそそくさとその場を後にした。松川も若干苦笑いしていたが、彼は忙しい人なのだろうと山崎は察した。集合場所の駅に戻ると、部活のメンバーはみんな揃っていた。女子は皆浴衣で、男子はいつもと似たような格好。西宮はもみじを連れており、大人数で行動することになった。
「じゃあみんな、神社に向かおうか」
山崎が皆に声を掛ける。潮凪ショッピングモールとは逆の方向に神社があり、歩いて15分といったところだろうか。全員で神社へと向かった。山崎が歩いている所に、姫路が近づいてきて早速質問をしてきた。
「なあなあ、お前の横にピッタリくっついて来てたさっきのあの人って誰だ?」
気付くと姉は隣におらず、西宮と何か話していた。きっとロシアで会った事を話のネタにしているのだろう。
「ああ、この前も言ったかもしれないけど、あれが姉ちゃんだよ」
「なんでお前にそんなにくっついてるんだ?」
「いや……それは知らないけどさ」
疑問に思っていたのは山崎だけでは無かったらしい。
「お前の姉ちゃんってブラコ……いや、なんでもない」
何か言いかけたところで、姫路は口を閉じた。何が言いたかったのか気になったが、聴かない方が良いと思ったため、会話を中断した。




