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第34話 『楽しいショッピング?』

 潮凪駅。学校の最寄り駅であり、都市の中央に存在している駅だ。学校の他にもショッピングモールや市民プール、更には動物園などにも行きやすい。待ち合わせ場所としても利用されている事が多く、人がたくさん利用する駅だ。


 山崎は9時半にそこにいた。松川と円町との待ち合わせ時間は10時だと言うのに、30分も早く着いていたのだ。女子二人と所謂“デート”な状態なのだから、山崎は居ても立ってもいられない心境だった。そんな山崎の所に近づいてくる人影が見えた。ウキウキしながらその人影の方に目線を送る山崎……だったが。


「おお山崎、お前もショッピング誘われたのか?」


 姫路だった。引っかかる点はいくつかあったが、初めに聴くべきはその気になる一文字だった。


「……も?」


「松川から円町との買い物に手伝ってほしいって頼まれてさ~」


 姫路は少々口元が緩かった。しかし逆に山崎は歯を食いしばるように口に力を入れていた。松川と円町と自分。3人で楽しい時間を過ごす予定だった今までの山崎にとっては、姫路はお邪魔な存在でしかなかったのだった。


「どうした? 山崎」


 姫路は浮かれた顔を山崎に向けていた。山崎はすかさず返答をする。


「どうしたじゃねえよ! なんで姫路も買い物行くんだよ!」


「いや、誘われたから仕方ないじゃん?」


「まあそうだけどさ……」


 意見する理由は確かになかった。たった一人だけ男子を誘う訳が無いか。少しだけ落ち込んだ山崎を見た姫路は、追加で攻撃をしかけてくる。


「なんだ? 独り占めできると思ったのか?」


「……クッ!」


 自分よりも少し身長の高い姫路を睨みつける気にはならなかった。下から上を見上げたら睨みつけても怖くもないし、威嚇にもならない。そう感じて一旦冷静になった。そして山崎は今日の出来事の予想を話題にした。


「円町の買い物って言ってたけど、やっぱりあの服装の事だよな……」


 姫路は急に切り替わった山崎の態度に少し驚いたが、いつものことだと言い聞かせ話の流れを掴んだ。


「確かに、あれじゃあ小学生に見えても仕方ないよな。身長も胸も相まって服装があれじゃあ小学生に見られてもな」


 姫路の発言は少々セクハラを含んでいるような気がした。身長は確かに小さい。山崎の視点から見ても20センチ以上差があるわけで、いつも円町は見上げながら話をしてくれていたのだ。しかし胸を気にして見た事が無かったので、姫路の意見には、その時半分同意が出来なかった。


 駅で待つ事20分少々。円町と松川は二人でやってきた。


「おっはよー! 諸君ら」


「おはよう」


 松川が手を上げながら挨拶をしてきた。円町は相変わらず、小学生っぽさが滲み出るファッションスタイルだった。そしてよく見ると、確かに胸が小さいのも確認できた。山崎がじっくり観察してると、円町がそれに気付き声を上げる。


「……あんまりじろじろ見ないでください……」


「ご、ごめん」


 隣で姫路が笑っていた。怒られた山崎を見て楽しんでいたのだろう。会話もそこそこに、松川が早速提案をした。


「じゃあ、行こっか!」


 4人は歩きだしていた。ショッピングモールへは歩いて5~10分といったところだろうか。駅を出てしばらくした後、山崎はふと潮凪ショッピングモールの事を考えていた。潮凪ショッピングモールは潮凪学園とは反対側にあるものの、潮凪学園の生徒が良く利用する施設となっていたのだ。学校帰りに立ち寄ったり、休日にショッピングを楽しんだり。多数利用する生徒がいる中、山崎はある事を思い出した。そして、こう言った。


「俺、実は高校生になってから潮凪モール行ったことないんだよね」


 松川と姫路は驚いていた。


「「行ったことなかったの!?」」


 二人同時に山崎に向かって言葉を投げかけた。山崎の家から潮凪は少し遠いので、利用することはほとんどない。しかも地元にも似たようなショッピングモールはあるので、わざわざこちらに来てまで買い物をする理由も無いのだった。


「そりゃ仕方ないよ。家遠いんだし」


 そう言うと、それに便乗してきた人がいた。


「私も今回が初めてです!」


 円町も潮凪ショッピングモールへは行った事が無かったらしい。しかしそれは薄々わかっていた。おしゃれな店もたくさんあるショッピングモールに一度入った事があれば、このような服装はしないだろう。そう言う点から推測はできていたのだ。


「京子はこれからおしゃれになると思うよ~。あそこは一度入ったら出るまでにいくら使う事になるのか……」


 松川は少しだけ溜息をついていた。きっと過去にいくらか使ってしまったのだろう。しばらく歩くととても大きな施設が見えてきた。潮凪学園とは比較にならない程の大きさのショッピングモールだ。うちの学校も広いとは思っていたが、このショッピングモールは学園の3倍……いやそれ以上の広さを誇っているだろう。


「うっわー。でっけーな」


 思わず声を漏らす山崎。それを見て松川が少し微笑み、


「じゃあ、早速中入ろっか!」


 と言った。大型ショッピングモールに友達と来たのは、多分初めてだった。入った途端に感じる、夏の暑さを忘れさせるような冷気は堪らないものだった。早速モール内のマップを電子掲示板で確認した。大きなタッチパネルになっており、店内のマップが3Dで表示されている。それぞれの店舗の情報はもちろん、現在位置もお手洗いもよく分かりやすい仕組みの電子掲示板に山崎は関心していた。松川が一番に指差したのはやはり服屋だった。


「ここに行こうか!」


 現在位置の丁度上にその店はあった。すぐに近くのエスカレーターに乗り込み、その店を目指した。店の外装はまさしく最近の女子高生が好きそうな感じの、明るい色を基調としたものだった。店の中に入るのは少し躊躇したが、姫路は堂々と入っていった。

 

 しばらく服を選んで、試着してみようという流れになった。松川が選んだファッションセンスを、山崎と姫路が審査するという役目になっていた。試着室の前で待つ事約一分。カーテンを開けた先の円町は、随分と大人びていた。短パンにTシャツという服装から、夏らしさを感じさせる白が多めのワンピース姿の円町に正直驚いた。何も言葉を言わない男子に対し、松川が背中を叩く。


「何か言わないとわからないでしょ!」


 姫路が先に感想を言った。


「すごく似合ってると思う。夏らしさと大人らしさ、両方出ていて素敵になったと俺は思うな」


 山崎が思っていた事を全て言われてしまった。しかし姫路は大した奴だ。さらっと素敵だなんて言葉が出るとは、姫路には少し驚いた。松川が山崎の顔を覗き込んで、質問をしてくる。


「山崎君は何か感想無いの?」


「思った事全部、姫路が言っちゃったよ」


 素直にそう言った。松川は円町の方を向いて、提案する。


「じゃあそれにする?」


「はい!」


 即決だった。女子の買い物というものは初めて見たのだが、ここまで早く決まるものなのだろうか。いささか疑問に思ったが、それは心の中に留めておいた。


「じゃあ他の服も選ぼうか」


 そう言い、松川は更に違う服を探しに行った。円町の試着披露会も何度も開かれ、大抵のものは買う事になった。しかしお金の方は大丈夫なのだろうか。少し心配した山崎が円町に訊いた。


「円町、お金は大丈夫なのか? そんなに買ったら足りなくなったりするかもしれないぞ」


「大丈夫です! 中学校の時に倹約していた時代がありまして、その頃に溜まったお金がたくさんあるので今日は大丈夫です!」


 倹約していた時代という言葉に少し引っかかったが、そっかと山崎は納得した。しかし姫路はちゃんと突っ込んだ。


「倹約していた時代ってなんだよ」


 円町に笑いかけながらそれについて訊いた。そして円町が笑顔で答えた。


「中学のころから忍者に憧れて、忍者になるためには質素な生活も体験しなきゃいないんじゃないかと思い立って、倹約していたんでござる!」


 急に語尾が『ござる』に変わった事が気になった。しかし円町は口を抑え、更には顔を赤くして小声で訂正を挟んだ。


「すみません……家での口調が……つい……」


「家ではござるって言ってるのかよ!?」


 姫路のツッコミは山崎が思っていた事と同じだった。松川が持ってきた服を最後にし、服選びは終わったのだった。


「ふー。これで大分オシャレになったかな」


 松川が一仕事終えたような顔ぶりで、額の汗を掻く振りをした。円町が、両手にふさがった袋を山崎に差し出してきた。すると、松川がこう言った。


「今日二人を呼んだのは、荷物持ちだからね?」


 山崎と姫路は唖然とした。

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