第35話 『そうだ、映画見よう』
買い物を終えると、次に松川はこう言った。
「せっかく来たんだし、色々見て回ろっか?」
潮凪ショッピングモールは広い。当然、服や靴を売っているだけではない。今いる二階には衣料品がほとんどだが、一階は大きなスーパーとなっており、三階にはフードコートが並んでいる。四階はゲームセンターや映画館と娯楽スペースとなっており、五階には駐車場とペットショップと、中々充実したショッピングモールとなっているのだった。松川が言った、“色々”とはこれらの事なのだろう。
「わかった。じゃあ何処行こうか?」
「まずはマップを見て行きたい場所を確認しよっか。一旦下に降りて、もう一度あの掲示板見にいこうよ」
そう言い、一行はまたも電子掲示板を見に行くことになった。一階の電子掲示板の前に着き、みんなはそれを見上げる。多くの人がこれを利用するはずだが、今日は何故かあまり利用者はいなかった。なので山崎達が占領しても問題はなかったのだ。松川が今いる一階のページから他の階のページに切り替えた。
「友達とゲームセンターとか映画館とか、あんまり行ったことなかったから行ってみたいんだけど、みんなどうかな?」
指差して言ったのは四階のページだった。ゲームコーナーと映画館があり、遊ぶところとしてはもってこいの場所だった。山崎は財布の中身を思い出して、余裕がある事を確認してからこう答えた。
「俺はいいよ。お金はちゃんと持ってきたし、こういうことできるのも夏休みのうちだけだと思うしな」
山崎は姫路と円町の方を見た。どちらも山崎の意見に賛成したように頷いていた。松川が皆の様子を確認した後、声と手を上げる。
「よーし! じゃあ今日は遊ぶぞー!」
たまにはこういうのも悪くないな、と山崎は考えながら移動した。エスカレーターに何度も乗り、四階へと向かう。着いた所で松川から皆に対して質問をした。
「まず何から遊ぶ!? エアホッケーやってもいいし、シューティングゲームやってもいいし、レースゲームだってやってもいいんだよー!」
テンションが上がっていたのか、早口で喋っていた。あれこれ案を出したが、山崎が手っ取り早く解決できる事を言った。
「じゃあ、やりたいこと全部やろう!」
「やったー!」
松川のテンションがきっと最高潮になっていたのだろう。両手を上げて喜びを表していた。姫路はやれやれと言った表情を浮かべていたが、円町は松川と同じくウキウキしていたのだろう。顔がニヤついていた。
四人でエアホッケーをしたり、ゾンビが出てくるのを銃で撃ったり、車で爆走したり、UFOキャッチャーでぬいぐるみを落としたり、ワニを叩いたり。色々な事をして時間を潰していった。
遊び終えた後、姫路がみんなに提案をした。
「そろそろ昼ご飯時だと思うんだが、三階のフードコートでなんか食べようぜ。流石にお腹が空いてきたよ」
「よし、じゃあ移動しよっか」
山崎が賛成しみんなが動こうとした時、松川が突っかかってきた。
「ちょっと待って!」
一体何事かと思ったら、ゲームセンターとは違う方向を指差していた。指差している方には映画館があった。
「映画、後で見ない? ご飯食べる前に席取っておきたくて……」
松川は完全に潮凪ショッピングモールを楽しもうとしていた。今日は特に予定も無いので、映画を見ても別に構わないと思った山崎は答えを出した。
「わかった。じゃあ映画のチケット取ったら飯食べようか」
「ありがとー!」
映画館前で今やっている映画の確認をする。今やっている映画は恋愛物と戦争物とアニメの物、それに加えてホラーの物がたくさんあった。正直の所、山崎はホラーが苦手だった。小さい頃に見たホラー映画がトラウマになっているせいか、ホラーに対してはあまり触れてほしくはなかったのだった。皆がどれにしようか迷っていると、松川が提案した映画があった。
「この、『鎌男3』ってやつどうかな? 今夏だし、こういうホラー物ってピッタリだと思うんだよねー」
山崎の触れてほしくなかった所をピッタリと狙われた。鎌男シリーズはB級ホラーではあるが、そこそこ怖いと評判の物だった。しかも映画の宣伝ポスターには『シリーズ史上最大の恐怖』と書いてあるから、余計にビビってしまった。山崎が考えを巡らせた後、断ろうと思い口を開こうとした矢先姫路が発言してしまった。
「面白そうじゃん。じゃあチケット買いにいこうか」
「ひ、ひめ……」
山崎が姫路に対して説得を仕掛けようとしたら、他にももう一人。
「こ、怖いですけど私も賛成です!」
円町も賛成してしまった。山崎以外全員がホラー映画を見たいという事になってしまった。つまり流れ的にはホラーを見ることになる。山崎は夏の暑さから来たわけではない、別の汗が額を濡らしていた。
渋々全員の意見に乗せられ映画の席を取った。上映は一時間近く後で、十分昼飯を食べる時間があった。山崎が腹をくくるまで一時間。
一行は三階へ移動し、フードコートへ移動した。ドーナッツが売られている隣にはハンバーガーショップ。更には中華料理屋やアイスクリーム屋などが並んでいる、実にカオスなフードコートとなっていた。席はたくさんあるが、人はあまりいないようだった。夏休みとはいえ、平日の昼間にこんなに人がいないのは少々珍しいだろう。疑問を覚えつつも、ひとまずテーブルを確保した。
「人あんまりいないねー。珍しいね」
松川も同じことを思っていた。周りを見渡す限り、十人くらいだろうか。これだけ広いフードコートの昼時に、席は百人以上座れるであろうこの場所にあまり人は集まっていなかった。すると真中の方に見覚えのある人影が見えた。
「ちょっと待っててくれ」
山崎はそう言い、皆を置いてその人影の方へと歩いていった。一人だけで席に座っていたのは紛れもなくクラスメイトだった。山崎が声を掛けた。
「おっす渡辺」
どういう風に声を掛けたらいいのか分からなかったので、こういう言い方になってしまった。しかし渡辺を見るのは終業式以来だったので、なんだか久しい気がした。渡辺は動揺していたのか、あたふたしていた。渡辺が口を開く前に待たせていた皆が近づいてきた。
「あれ? 紗希じゃん! こんな所で会うなんて珍しいねー」
松川も渡辺がこんな所にいたことを驚いていた。渡辺が四人を見てからこう言った。
「みんなどうしたの?」
「京子の服を買いに来たついでに、遊びにきたの。そういう紗希こそ、一人で何してたの?」
「用事は無いけど遊びに来た」
意外な返答だった。ショッピングモールに用事もなしに来る人を初めて見たからだ。山崎は口を開けて驚いたが、渡辺の言葉は間違いなくはっきりとしていた。松川が渡辺に対して質問をした。
「今からお昼ご飯にするの?」
「うん」
「じゃあ一緒に食べようよ! 私たちも、今からお昼ご飯にするところだったの」
「わかったわ」
席を移動した。五人が座れる少し広い席へ移動し、山崎は座った。
「みんな、注文してきていいよ。俺はここで待ってるから、先に注文してきていいよ」
そう言うと姫路も座った。
「じゃあ俺も待ってるから、女子達が帰ってきたら俺たちも注文しにいこう」
姫路は気遣いのできる奴だった。友達として嬉しいと思ったし、何より感心した。女子が皆でお店を見に行った。そこで姫路と少しだけ話をした。
「なあ山崎。実は映画、ビビってるんじゃないか?」
「なっ……!」
全くその通りだったので、言葉が一瞬だけ詰まる。
「そ、そんなことないぞ。俺だって男だ。あんなB級映画怖くなんかないさ! うん、うん……」
必死にごまかそうとしたが、姫路にはバレバレだった。
「そうか、やっぱビビってたんだな。チケット買う時のお前の顔、すっげえ強張ってたしな」
「こ、怖くなんか……」
「わかったわかった。そう言う事にしておいてやるから。頑張って怖いの我慢しろよ? 女の子の前でビビるとかっこ悪いからな」
「う、うるせいやい!」
確かに姫路の言ったとおりだった。女子の前でホラー映画にビビっていたら、流石に格好がつかない。山崎は自分でもわかってはいたが、正直難しい話だった。頑張ろう。心の中で何度も唱えていた山崎であった。




