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第33話 『行動力、技術力』

 その日はプールで遊びつくし、西宮の家を後にした。学校の前まで皆を送り、解散する前に西宮が皆に伝えたことだ。


「実は私、明日から二週間ほど家族みんなで海外旅行するつもりなんです。だから昨日と今日、最後まで皆の顔が見たくて家に呼んだのです」


「そっか、それで俺たちお邪魔してたわけか……楽しんでこいよ、海外」


 山崎が反応した。皆も同じ反応で、海外へ行くことに関しては何も驚いていなかった。


「何処行くの? フランス? イタリア? オーストラリア?」


 松川はきっと、瞬時に思いつく限りの地名を言ったのだろう。しかし西宮の行き先はそれらとは違っていた。


「ロシアですよ」


 山崎はロシアと聴くと少し思い出す事があった。西宮の母は確かロシア人だったはずだ。もみじの髪が金色なのは母の遺伝だと言う事も同時に思い出していたのだ。


「ロシアかー……気を付けて行ってきてね!」


 二週間西宮と会えなるのは寂しいと思ったが、翌々思い返せば今は夏休みだ。夏休みの間、友達と会えないと言うのは別に変わったことではない。山崎達も松川に続いてしばしの別れのあいさつを言った。


「日本に戻ってきたらまた連絡くれよな」


「楽しい旅行にしてね」


「お土産はどっちでもいいぞ」


 西宮はリムジンに乗り込み、車内から笑顔で皆に手を振っていた。流れで皆も解散し、山崎と姫路は電車の中で会話をする。


「海外かー」


 姫路が先に話題を振った。


「俺も一度だけハワイに行ったことあるけど、幼いころだったから記憶に残ってないんだよな」


 姫路はハワイに行った事があるらしい。しかし山崎は海外に行ったことが無い。というのも、山崎の父の仕事が忙しいため家族で旅行をしたことが少ないのだ。しかし、一番海外に近しい人が間近にいたことを思い出した。


「俺は海外行ったことないんだけど、姉ちゃんがよく海外に行くよ」


 姫路がとても驚いた顔をしていた。理由は分からないが、とにかく顔が驚いていたのだ。姫路が次に口にしたのは、その驚きの理由についての事だった。


「お前、お姉さんいたのか!?」


 山崎は思い出した。そういえば高校生活が始まってから、一度も姉の話をしたことが無かった。姫路が驚いていた理由は姉の有無だったらしい。


「いるけど、そんなに驚く事か?」


「今まで一人っ子だと思ってたからさ……つい」


「まあ、あんまり家にいないし。この前帰ってきたのはテスト前だったかな」


「結構最近だな」


 最近という言葉に疑問を覚えたが、あえてツッコミはしなかった。そこで姫路が海外の話と姉の話を絡めて、会話を続けた。


「お姉さん、よく海外に行くって言ったけどさ。例えばどんな所行ってるんだ?」


 しかし、山崎はパッと思いつく場所が無かった。山崎は姉の事に関して、あまり興味を持っていなかったからだ。


「うーん……最近は何処行ったって言ってたかな……?」


 少し考えると、ある事を思い出した。姉が現地の友達と仲良く撮った写真を思い出したのだ。


「ああ、あれはイースター島だったかな。モアイ像映ってたし」


「イースター島!? そんな所行ったのか!?」


「姉ちゃん今23歳なんだけど、一人旅が好きらしいんだよ。高校の時から日本中旅して、卒業してから海外に行くようになったんだよ。で、有名どころはもう行きつくしたーって言ってて、もっと変な場所に旅行するようになっちゃったんだよね」


 山崎は一人旅が好きで、たくさん海外に飛んでいる姉の事を思い浮かべた。確かに第三者から見た山崎の姉は、物凄く変わった人だ。しかし今まで一緒に生活してきた兄弟なので、あまり気にしてはいなかった。姫路の反応を見る限り、相当変わった人だと思われているはずだ。


「お前のお姉さんも変わった人だな」


 本当に思っていた。しかし、少し気になった事があるので食いついてみた。


「“も”?」


「お前も、お姉さんもってことだよ」


「あー、え?」


 納得しようとしたが、結局納得できなかった。山崎には『自分が変わった人』という自覚は無い。しかしそれを分かっていたのか、姫路が追加して言葉を紡いだ。


「家族のしていることにすら興味が無いのは、変わってると思うぞ?」


「……そうだな」


 山崎は自分の降りる駅が近づいていることに気付いたが、それと同時に何かを思い出していた。それはやはり姉の事だった。


「そういえば、今も姉ちゃん旅行してるよ」


「そうなのか? 何処へ行ったのか、覚えてるか?」


 姫路は山崎の記憶力を試すように訊いた。山崎が思い出したのは、その行き先が偶然にも直前に聴いていた地名だと言う事だった。


「今、ロシアにいるよ」


 一瞬だけ姫路の時間が止まった。


「西宮と行き先一緒だな……」


「そういえばそうだな」


 姫路はため息をついていた。それはさっき西宮との会話で何故思い出さなかったのかと言う事に対しての呆れを表す物だ。山崎は電車を降りる時に、姫路に別れのあいさつを言う。


「じゃあな姫路」


「おうおう」


 家に帰り、いつものように自分のベッドに携帯を投げるように置いた。しかしメールが入っていることに気づいたので、すぐに拾い上げて確認した。珍しい事に、相手は松川からだった。


 本文:急で悪いんだけど、京子とのショッピングに付き合ってくれない?

    男子の目でオシャレとか見てもらいたいし(>ω<)ノ


 山崎はこの時、少しだけ喜んだ。いつも会っているのだが、部活で集まる訳でも部活のメンバーで集まる訳でもなく、男子として遊びに行くことを誘ってくれていることに、感動したのだった。山崎はすぐにメールの返事をする。


 本文:分かった。どこで集合したらいい?


 ウキウキしながら、山崎はメールの返事を待った。3分もしないうちにメールが返ってきて、すぐに目を通した。


 本文:じゃあ潮凪駅に10時集合ね!(^▽^)


 山崎は心の中で何度も『潮凪駅10時』と唱えた。そうすることによって、しっかりと記憶に刻みつけたのだ。


 本文:わかった~


 返事をして、明日の準備をした。潮凪ショッピングモールに行く予定だと思うが、潮凪ショッピングモールは相当広い。きっとまた一日時間を使ってしまうのだろうと思ったが、夏休みということで時間に関しては気にならなかった。しかも女子二人と一緒に過ごす時間なのだから、嫌な訳が無い。山崎は早速、明日の準備をした。


 ふと寝る前にSCウォッチの事を思い出した。そういえばSCウォッチの機能が追加されていたのを確認していなかったからだ。SCウォッチを見ると夜の11時を指していたが、今確認したい所はそこではない。画面横のボタンを押すと、画面が切り替わる。かくれんぼモードの下にチャットモードという選択肢が加わっていた。


「これが新機能か」


 チャットモードをタッチすると、一件だけメッセージが届いていた事に気が付く。開いてみると、円町からのメッセージだった。


 円町→山崎:ショッピングたのしみです! ありがとう


 メッセージは18時くらいに届いていたものだった。返事をし忘れたのは悪かったと思ったが、この機能を活用した事が無かったので返事ができなかったのだと理由づけていた。返信ボタンを押した時に、画面が切り替わる。


 下からとある文字列が出てきた。

 ……カナ あ い う え……

 スライドすると文字が五十音順に並ぶ。そしてカナボタンを押すと、カタカナに切り替わるという仕組みになっていた。この機能は正直使いづらいと思ったが、腕に付ける腕時計サイズの端末なので、仕方がない。メッセージを一生懸命打ち終わり、返信した。


 山崎→円町:こっちこそありがとうな


 返信し終わった時、何かが画面に表示された。

 『次回から携帯のメールでメッセージを交換しますか』

 物凄い機能が付いていたらしい。すぐに『はい』を選択すると、赤外線通信マークが表示された。自分の携帯の赤外線通信も始め、SCウォッチと通信する。すると自分の携帯の画面にアプリの表示がされた。SCウォッチメッセージアプリと書かれたそれを開くと、SCウォッチの中で見た画面とほぼ同じ物が表示された。文字入力がしやすくなった以外はあまり変わっておらず、ひらがなとカタカナ以外は表示されないなどの制限が付いていたのだ。


 山崎は小島の技術力を真剣にすごいと思いながら、明日のショッピングを楽しみにしつつ、眠りについたのだった。

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