第28話 『40日余りの始まり』
夏休み前のテストも終わり、遂に夏休みがやってくる。高校生の夏休みと言えば、友達とワイワイ遊んで過ごしたり小旅行に出かけたり。長い休みを利用して色々な事が出来るのだ。そんな中、山崎の頭の中は夏休みの予定立てでいっぱいになっていた。夏休み直前の日の朝、教室で浮かれて座っている山崎に姫路が話しかけた。
「山崎、あんまり休みのことばっかり考えるなよ? 宿題だってたくさんでてるんだからさ……」
しょんぼりした顔の姫路に、山崎はこう答えた。
「折角の夏休みなんだから、楽しい思い出にしたいじゃん? 宿題の事一番に考えてたら思い出づくりの妨げじゃないか!」
「いや、それでも宿題は重要だぞ」
山崎はそんな会話の中、ふと前の席に目を向ける。考え事をしているのか夏休みの予定でも考えてるのかわからなかったが、その女子に話しかけた。
「松川は夏休みどうするんだ?」
声は確かに掛けたはずだった。しかし返事が返ってこなかったのだ。もう一度呼びかけてみる。
「おーい松川?」
「あ、はい!」
「夏休みの事でも考えてたの?」
「え? ああ、夏休みの予定をちょっと立てててねー」
「どんな予定入れるつもりだったんだ?」
「んーっと……宿題いつまでに終わらせようかなーとか」
なんと、松川も宿題の事を考えていたようだ。普通の高校生は真っ先に宿題を考えるのだろうか。隣で姫路も頷いていたが、松川は更に何か考え事をしていた。すると、西宮がこの会話グループに参加してきた。
「夏休み、うちに来て一緒に宿題しませんか? 長い休みがあると家に引き籠りがちになってしまうので……友達の顔を見ないと宿題すらやらなくなりそうなんです」
西宮は意外とだらけ体質があるようだ。その提案に山崎が乗った。
「よし、じゃあ早速明日から西宮の家で宿題やろう! みんなでやれば、変に予定立てなくても宿題を片付ける事が出来る! 更にみんないるから楽しいはずだ!」
山崎が変に気合を入れたが、西宮も一緒に喜んでいた。西宮の家は広いし学校と近いので、集まるにはもってこいの場所だった。更に山崎が提案した。
「じゃあ、今日の夜に学園カメレオンのメンバー全員にメールで伝えるよ。みんな誘って良いかな?」
「もちろんです! よろしくお願いしますね」
と、西宮は山崎の提案に同意した。山崎はこの時、ふと思い出した事がある。
「そういえば、円町のメールアドレスまだ聴いてなかったな」
グループから抜け出し、円町の所へ向かう。円町はいつも教室にいる時は静かに座っている。ちょこんと座っている円町に山崎が話しかけた。
「円町。明日西宮の家に皆で集まって宿題やるんだけどさ、メールアドレス教えてくれないか? 連絡する時に使うからさ」
そう言ったのだが、円町に首を傾げられてしまった。
「めーるあどれす?」
「携帯のメアドだよ。やり方わからないなら携帯貸してくれればやるよ」
「携帯って……携帯電話の事ですか?」
一瞬、山崎の脳裏に嫌な予感が過った。それは携帯電話を持っていないという、現代の人間からは考えられないことだった。そして、その予感は的中する。
「あの……私携帯電話持ってないんです」
「な、なんだってえええええ!」
つい大きなリアクションを取ってしまった。円町の隣の席の小島が会話を聴いていたようだ。今の会話について、パソコンで何か作業をしながら話しかけてくる。
「山崎、円町が携帯電話を持っていたらまず俺が山崎に伝えるだろ。今までだってそうしてきたはずだ」
「そ、そういえばそうだったな……」
「今まで連絡しなかったのは、携帯電話自体存在してなかったからだ」
「なるほどな……」
山崎が肩落としていると、円町が山崎の服を引っ張り注意を逸らした。
「あの、私携帯電話買った方がいいんでしょうか?」
正直、今すぐ買ってきて貰った方が都合がいいと思った。しかし金だって無限にあるわけではない。言葉を悩んでいると、小島が割り込んできた。
「SCウォッチをアップデートしよう」
「アップデート?」
「そうだ。SCウォッチ同士でメッセージが飛ばせるようにバージョンアップする」
流石は発明王と言ったところだ。なんとSCウォッチにチャット機能を付けるらしい。そこで小島が部長である山崎に頼みごとをした。
「だから、全員分のSCウォッチを回収してくれ。今日中に全部のSCウォッチのバージョンアップをしてくるよ」
「マジかよ! 流石小島だな」
「このくらい出来て当然だ」
小島に感謝しつつ、山崎はSCウォッチを外して小島に渡した。その会話を聴いていた円町もSCウォッチを外す。山崎は、他のメンツのSCウォッチを回収しに行った。円町は小島にこっそりと言った。
「ありがとね、小島君」
「おうよ。携帯電話は高いからな」
山崎は全員分のSCウォッチを小島に託した。すると担任が入ってきたので、急いで席に戻った。担任が口を開いて、明日から始まる夏休みについての注意事項を話した。休みだからと言って、学生である事を忘れないようにとのことだった。
その後全校集会があり、今日は半日で学校が終わった。山崎の中で、今日から夏休みが始まると言う実感が湧いた。いつも通り姫路と下校し、別れ際に言われた言葉がある。
「明日からの夏休み、楽しみだな」
あれだけ宿題の事を言っていた姫路だったが、夏休みが楽しみだったらしい。もちろん、山崎も同意した。
「もちろんだ! 楽しい夏休みにしような!」
「あったりめーよ! じゃあなー」
「じゃあねー」
そんな会話の中、やはり夏休みが楽しみになってきた山崎だった。夏休み一日目は早速予定が入ってるし、良い夏の思い出になるぞとウキウキしていた。
その日の夜、夕食と風呂を済ました後、自分の部屋に戻った山崎はベッドの上で携帯を開いた。西宮にメールをしたのだ。
本文:明日なんだけど、いつ頃行けばいいかな?
すぐに返事が来た。
本文:前回と同じように、10時でお願いします。
場所も同じく、学校前集合にしましょう
その返事を貰うと、メールの相手を切り替えた。今度は部活のメンバー全員に宛てたメールだ。
本文:明日、西宮の家で宿題をしようと思います。
学校前に10時集合です。参加できない人はメールください
その後来たメールは、わかったと了承のメールだけだった。全員参加で宿題をする。そこでまたもや気づく事があった。
「あ、円町にどうやって伝えたらいいんだ……」
前回、円町はいなかった。そして携帯電話も無い。どうしたらいいのか悩んでいると、小島からメールが来た。
本文:円町には学校でバージョンを上げておいたSCウォッチを渡してある。
同じように連絡しておくから、心配しなくていい。
「小島……! お前はなんて“できる人間”なんだ……!」
普通に感心した。小島はこの事態を予測して、円町の分だけSCウォッチを返していたのだ。山崎はすぐに感謝のメールを送る。
本文:ありがとう><
返事はこうだった。
本文:ああ
文字からでも読みとれた。この二文字は冷たい返事だったのだろう。ありがとうの後の記号が問題だったのだろうか。思いつめても仕方がないと思い、山崎はそのまま眠りについた。
気付いた時には既に朝だった。時計は6時を指しており、山崎はいつも通りの朝を迎えた。夏休みに入った一日目の朝は気持ちの良い物だった。空は一点の曇りもなく、太陽もギラギラと照らしている。しかし、夏の蝉は耳に纏わりつくほど五月蠅いものだった。準備を済ませ、家に出る。照りつける太陽を浴びながら駅へ向かった。山崎の高校一年生の夏休みが始まった。




