表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/43

第29話 『どんぐり』

 学校の前に着くと、既に二人立っているのが見えた。近づき、声を掛ける山崎。


「おはよー松川、神宮」


「おっはよー!」


「ああ、おはよう」


 神宮はいつも素気ない感じの挨拶をする。松川はいつも通り元気が良いようだ。二回目の私服姿に少し緊張した。夏であるために、薄着であるのが気になる。松川は全体的にヒラヒラとしている服だった。スカートは膝を隠す程度の長さで、少しだけ暑そうに見えた。対照的に、神宮は帽子を被り七分袖の服と七分丈のジーパン、短いスニーカーと言ったような服装だ。またもや少年のような、それでもどこか女性らしさを残したような。そんな神宮の姿を見ていたら、神宮が山崎に声を掛けた。


「そんなに見るんじゃない」


「あ、はい……」


 山崎は少し落ち込む。それと同時に小島がやってきた。小島が伊達眼鏡だと言う事は前回の西宮家訪問の時に知っている。今回も小島は眼鏡を掛けていなかった。しかし学校で見る小島とは、やはり印象が違うので少しだけ新鮮だった。山崎が挨拶をする。


「おはよう」


「ああ」



 小島の返事も素気なかった。山崎は冷たい反応にもう慣れた気がしていた。神宮と小島は大抵素気ない。しかし神宮の素気なさは、どことなく小島とは違う物だと感じていた。神宮の素気なさは所謂“演技”のようなものだと、山崎は考えていた。前にも言っていたが、神宮は友達が欲しくて部活に入った。きっと友達との接し方がまだ掴めていないのだろう。変な妄想に入ってしまった山崎に、誰かが話しかける。


「よう、山崎、それにみんな」


「おお姫路。おはよう」


 姫路がやってきた。姫路の服装も、普通の男子代表のような格好だった。山崎には服装のセンスがわからないので、これが最良のおしゃれなのかどうかも、よく理解できない。私服チェックをしていると、更に一人来た。


「おーっすみんな!」


「おはよう、つつじ」


 躑躅森の服装は、前回とあまり変わっていなかった。タンクトップに短パン。運動でもするかのような格好には、特に驚きもしなかった。一番驚いたのは、この後に来た円町の服装だった。円町の格好はまるで小学生のようだった。シャツにスカート、大人っぽさは微塵も感じられないような服装に、山崎以外のみんなが驚いていた。しかし、これについて円町は弁明する。


「しょ、小学校卒業してから全然成長しなかったのが悪いんです!」


 小学生の頃の服装と一切変わっていなかったらしい。そんな服装を見た松川が、円町に話しかける。


「京子、今度一緒にショッピングにでも行こうよ」


「ええっ! いいんですか!?」


「もっと、高校生っぽい格好選んであげるよ」


「わーい!」


 喜んでいる姿も小学生っぽかった、と言う事は心の中に留めておいた。すると前にも見たリムジンが、学校の前に止まる。降りてきたのは、やはりお嬢様感を漂わせている西宮だった。


「みなさん、おはようございます」


 その言葉に、松川と山崎と円町が反応する。


「おはよー!」「おはよう」「お、おはようございます!」


「みなさん揃っているようなので、早速乗ってください」


「はーい! おじゃましまーす」


 松川が一番に乗り込んだ。それに続き、みんなもリムジンに乗り込む。8人乗っても、十分の広さを誇るリムジンには、またもや驚く。円町は初めてのリムジンに目を輝かせていた。


 五分ほど経って、西宮家に入る。玄関前にリムジンを止め、みんなが降りる。円町は初めて見る西宮家に驚きを隠せず、口を開けて周りをキョロキョロ見渡していた。西宮が、みんなに声を掛けた。


「では、お入りください」


 大きな扉を開け、中に入る。次いでみんなも入る。家の中に入ると、中はひんやりと冷たい空気が漂っていた。なんと玄関まで冷房があるようだ。それには二回目に家にあがる人間も驚く。


「ほー涼しいなー!」


 躑躅森が涼しさに感動した。一番涼しそうな格好をしている躑躅森だったが、既に汗が少し滲んでいた。新陳代謝の違いなのだろうか、山崎は額を若干濡らす程度の汗しか掻いていない。しかし、円町は汗一つ掻いてすらいなかった。これも体力の調節ができるからなのだろうか。色々と考察しながら、客間にお邪魔する。


 ソファーは八人座れるように、テーブルの周りを四方向に囲んでいた。皆で宿題が出来るように、と父が用意してくれたと西宮は言っていた。皆は早速ソファーに掛け、持ってきた宿題の片づけに取りかかった。


 数学を真っ先にやっているのは、躑躅森と小島。英語に取り掛かっているのは松川と西宮と姫路だった。円町と山崎は国語の宿題を進める。しかしこの中に一人だけ、宿題を開いていない生徒がいた。その生徒に、山崎は声を掛ける。


「神宮は宿題やらないのか?」


「え、えーっと……」


「……まさか忘れたとか?」


「忘れ物なぞしていないぞ!」


 神宮の言っている事が理解できなかった。宿題をやるためにこの家に集合したはずなのに、宿題をやろうとしない神宮。それについて深く訊いてみることにした。


「じゃあ、どうして宿題やらないんだ?」


「そ、それは……」


 口をもごもごした後、やっと口を開いたと思ったら、山崎が予想していない答えが返ってきた。


「宿題は夏休みが入る前に、全部終わらせてしまったんだ……」


 その言葉に、山崎を含め全員が驚く。驚愕した心が冷めると、山崎が質問した。


「宿題全部終わってるのに、今日は何するつもりだったんだ?」


「みんなで集まるのに、私だけ来なかったら変だろ!」


「まあそうだけどさ……無理に来なくても良かったんだよ?」


「暇な夏休みを、どうやって過ごせって言うんだよ! 友達の家でみんな集まるって聞いたら、そりゃ行くしかないでしょ」


 神宮の意見には一理あった。確かに長い夏休みの初日、暇な夏休みの初日から友達がみんな集まると聞いたら、山崎もそれに参加するだろう。しかし宿題を片付けると言う目的の下、ここに集まっているわけだ。山崎が神宮に一言付け加えた。


「みんなが宿題してる間、神宮は何したらいいんだよ」


「そ、それは……」


 歯を食いしばりながら、必死に答えを探している神宮に西宮が声を掛けた。


「じゃあ、もみじのゲームの相手とかどうでしょう? あの子も宿題を全て終わらせて、夏休みをゲームに費やすって言ってましたし」


 西宮の意見に、神宮はすぐに反応した。


「わかった! じゃあ妹さん呼んでもらって、ここでゲームしよう」


 一瞬、全員が『ここで』と言う言葉に疑問を持った。しかし、西宮はすぐに立ち上がり、妹の所へ向かった。西宮が妹を呼びに行ってる間に、神宮が呟いた。


「妹さんがいてくれてよかったー」


 姫路が、それにツッコミを入れる。


「西宮に妹がいなかったら、本当に何するつもりだったんだ?」


「う、うるさい」


 西宮が部屋に戻ってくると、金髪で背丈の低い女の子が一緒に部屋に入ってきた。そこで、松川が何かを思い出したかのように声を上げた。


「京子ともみじちゃんって、どっちの方が背高いの?」


 円町がその言葉を聴いた途端、動いていたはずのペンを止めたのはすぐにわかった。円町の背は低い。同様に西宮の妹の身長も、高くはなかった。松川がもみじに手招きをし、円町の腕を引っ張り上げて立たせた。両者の背中を合わせるように、松川が二人の肩を持ちながら近づけていった。すると、身長は円町の方が少し高かったようだ。


「京子の方が若干高いね……」


 そう呟くと、円町は言葉を漏らす。


「ま、まあ高校生だからね!」


 その言葉を聴いた松川は、足元を見た。円町は少しだけ背伸びをしていた。不正行為を働いていたのを、松川が一瞬で暴いた。


「京子、背伸びやめて」


「ふぁい……」


 無駄な抵抗を抑えつけ、再度身長を測り直す。すると、新事実が判明した。


「京子の方がちょっと小さいな」


 松川がそう呟いた後、円町は静かにソファーに戻った。ペンを持ち、再び宿題に取り掛かる円町の眼には、若干の涙が映っていたように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ