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第27話 『努力と才能』

 時は平穏に過ぎてゆき、テストの時期がやってきた。テスト勉強をしっかりと積み重ねてきた山崎は、自信満々に登校している。


 4回目の部活、つまり体育祭の1週間後の土曜日の帰り道で、姫路に聴かされた“テスト”という言葉が気になって、勉強を始めた。しかし、今まで勉強してこなかったせいで、思ったより復習に時間がかかってしまう。いっそのこと、前回のテスト分の復習も全てやってしまおう、ということで取りかかったテスト勉強だったが、案外熱が入ってしまった。部長の一生懸命勉強する姿を見た姫路は、せっかくだからテストに打ちこもうと言い出し、部の活動を一時的に休止するよう山崎に提案した。山崎はそれに対して少し考えた。そして出た答えは『部活の時間は勉強の時間にしよう』とのことだった。土曜日に学校に来て、一緒にテスト勉強をしようという案だった。が、部員のみんなは勉強するなら家が良いと言いだして、結局休止する羽目になった。


 そして、7月の中旬のとある月曜日。しっかりと勉強を重ねた山崎は、自信に満ちていたのだった。教室に入ると、熱心に勉強している生徒がたくさんいる。しかし、山崎は前回のテストとは違い、勉強を頑張った。もう何も怖くは無い。ここまで自信にあふれている生徒は中々いないだろう。教室を見渡すと、やはり勉強していない生徒がいた。その生徒に山崎は声を掛ける。


「おはよう神宮。勉強しないのか?」


「前のテストの時もそう訊いたな。私はしないぞ」


「だよな」


「お前こそ、今回こそ勉強しなくていいのか?」


「俺は、既に完璧な勉強をしてきたんだ。何なら、金曜日に廊下の掲示板で俺の名前を見ることになるかもな!」


 完全に調子に乗っている。しかし、山崎は約1カ月間、勉強の熱が上がりっぱなしだった。勉強に対する意欲が、何処からか湧いていたのだった。そんな山崎を見た神宮は、一言山崎に伝えた。


「若干キモいぞ、お前」


 山崎はそんなことも気にせず、自分の席に戻った。しかし、自分の席に着いてから落ち込んだ。


「キモいって……そんな……」


 今まで努力してきた苦労を知らずに、“あの天才”は罵倒したのだった。すると、もう一人勉強していない生徒がいることに気付いた。後ろを振り返ると、余裕そうにしている生徒が一人。


「渡辺、お前も勉強しないのか? 他の人は勉強してるぞ」


 渡辺紗希も、しっかりこのクラスに馴染んでいた。ただ、不思議な性格は今でも変わっていなかったようだ。


「私、勉強した方がいい?」


「いや、自由だよ」


 山崎は一瞬、この人も天才タイプなのかなと思った。しかし、そうそう神宮のような人間がいるはずがない。きっとこの人は俺と同じで、家でしっかりと勉強してきたのだろう。山崎は頭の中でそう考えた。そうこうしているうちに、担任が教室に入ってくる。


「今日から3日間テストがある。気を抜かないように頑張ってくれー」


 担任からの有難い(?)お言葉を貰い、テストに臨んだ。


 山崎はテストで、今まで勉強してきたことをフルに活用した。暗記する物は頑張って覚え、数学の公式は使い方をマスターしていた。テストが順調に終わっていき、最終日の最終科目も終わりを迎えた。チャイムと同時に試験官が「やめ」と言う。その時の山崎は達成感を感じていた。今まで勉強してきて、初めてと言っていいほどテストに集中できたと実感した。


 そして、テスト休みである木曜日を挟み、金曜日を迎えた。山崎は緊張しながら校舎へ入る。そして、また廊下に人だかりができているのを確認した。固唾を呑みながらその人だかりへと近づいて行った。


 廊下の掲示板には『第二回学習診断テスト順位発表』と書いてある紙が貼ってある。山崎はまず、20位から目を通す。するとまたもや知っている名前に遭遇した。


 20位:姫路諒平 540点


「流石、平均以上を保ち続ける男だな」


 そう呟き、上位に目を向ける。


 18位:小島研治 557点


 小島は前回の順位よりも、少し下がっていた。それでも生徒400人のうちの18位だ。普通に感心した。更に順位を上に向けていく。するとすぐ近くに知った名前を見た。


 15位:松川碧 582点


 なんと、松川の順位はかなり下がっていた。正直に山崎は驚いた。前回3位と言うことでかなり注目していた松川だったが、今回の15と言う数字を見て、動揺を隠せなかった。後で少し話を聴いてみよう。そう考え、次々と順位を見ていった。近い所に知っている名前の生徒はいなかったが、きっと山崎自身が一番見慣れているであろう名前の人が、ランクインしていたのだ。


 7位:山崎慎一 630点


「ひゃっふうううう!! 7位だー!!」


 その場で叫んでしまった。周りの人は、山崎を注目した。ヒソヒソと「あれが山崎とか言う奴か」という声が聞こえたが、気にせずに順位を眺めていった。


 3位:神宮未佳 672点


 今回も神宮の成績は良かった。前回は2位だったが、今回は一つ順位が下がってしまった。だが、神宮本人は成績に関してあまり興味が無いだろう。山崎もあまり驚かなかった。そして、今回の順位発表で一番驚いたのが、次の順位を見た時だった。


 1位:円町京子 700点

 1位:渡辺紗希 700点


「ええええええええええええ!!!!」


 なんと、両者とも知っている人物であり、両方とも同じ点数だったのだ。片方は前回もそうで、納得がいった。しかし、もう片方の名前に関しては全くと言っていいほど予想もしていなかったもので、驚きが隠せなかった。声に出したのも程々に、すぐに教室へと向かった。まずは自分の席の後ろに座っていた生徒に話しかけた。


「お前、月曜日全然勉強してなかったろ!? なんであんなに成績がいいんだ!?」


 渡辺はきょとんとしていた。ほぼ無表情で、山崎の方を見つめる。首をかしげた渡辺は、口を開けてこう言った。


「何の話?」


 自分の成績に対して、興味が無かった人間がもう一人いた。この女もきっと、勉強せずにここまで這いあがれる人間なのだろうなと、山崎は自己解決したのだった。ため息を吐き、自分の席に座った。そしてもう一人、話を聴かなければならない生徒がいるのに気が付いた。今度は自分の席の前に座っている生徒に話をかける。


「松川。今回成績落ちてなかったか? 何かあったのか……?」


 この言葉を掛けるのは、上位の人間からでは無いと口にしてから気付いた。しかし、松川は笑顔でこう言った。


「何もないよ。今回は勉強不足だっただけかな。そんなことより山崎君の方がすごいよ! 前は赤点ギリギリだったのに、今回は7位……だったかな? 頑張って勉強したんだね」


「おうよ! 今回はガリガリ勉強したからな! これくらいの順位は当然」


 勝ち誇った顔を松川に向けてしまったが、これも表情を作ってから気付く。順位が落ちてしまった者に対して向ける顔ではないなと。しかし松川はまた笑顔で返事をする。


「よく頑張ったで賞をさしあげましょー」


 ギャグなのか何なのか、よくわからない言葉に少し戸惑ったが、いつもの松川の雰囲気に山崎は安心した。順位が下がって落ち込んでいたらどうしようかと考えたが、その心配はいらなかったようだ。そんなくだらない会話をしていると、担任が入ってきてSTを始める。


「今回もうちのクラスから成績上位者が多数出た。先生としては非常に嬉しい限りで、大満足です。特に1位が二人、しかも両方全て満点と言うのは、潮凪史上初の事かもしれない。本当に喜ばしいことだ」


 褒め称え過ぎだと思ったが、その成績上位者の一人に選ばれた山崎は、満足していた。初めて成績に関して良い思い出が出来たと、自分の中ではお腹が満たされていた。そうして、STが終わり、テストが返却されていった。


 山崎が翌々思い返すと、自分のテストの平均点が90点だったことに気づく。合計630点というのがどれほどすごいのか、改めて思い直した結果、またもや満足感が山崎を襲ってきた。勉強を頑張って良かった、そう感じていた。そして、放課後に円町に話しかけに行こうと思った。700点取った時の気持ちを、前回聴き逃していたからだ。しかし、円町はすぐに帰宅していた。きっとまたエネルギー切れになっているのだろう。少し残念に思いながらも、姫路と一緒に帰った。


 姫路が帰り道、山崎に話を振った。


「7位おめでとう、山崎。今回すげえ頑張ってたもんな!」


「ありがとう! 今回のテストでわかったことが一つ……いや、二つあるな」


「わかったこと? なんだそりゃ」


「人は努力次第で何とでもなる事がある。それと、人は努力で何ともならない事がある」


「……深いな」


 山崎のどや顔で言ったセリフに、姫路は少し突っかかってみた。


「具体的には、どういった事が努力で出来て、努力で上回れないんだ?」


「成績は、努力で伸びる! しかし、天才には追い抜かせない壁がある」


「なるほどな……まあ、何はともあれ良かったな。次のテストの時も頑張るのか?」


 姫路は何げなく言ったつもりだったが、山崎は少し深く考えた。そして、10秒ほど熟考した結果の回答が、これだった。


「次のテストは、普通の成績でもいいや。7位取るのは今回だけで十分だな」


「どうして? 次も頑張ろうって思わなかったのか?」


「次も頑張ったら、部活の時間が減っちまうからな」


 なんと、山崎は部活熱心な男だったのだ。姫路はそれに半分ほど共感した。


「山崎らしいな」


 こうして、第2回学習診断テストは幕を下ろした。

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