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魔族の國   作者: 家猫
魔界開国編
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8/16

8.それぞれの矜持

——ローゼン地方・華炎館二階・応接室


 万魔殿での会議を終えたヴァルテリアは、ローゼン地方へ戻り、ガルマイドの思想に激しく反発する魔族たちを応接室へ招き入れた。


「全く、不愉快極まりない!ガルマイドめ、奴は魔界の異端者になったようだな!」


「皆で力を合わせ、手を取り合うだと? 馬鹿馬鹿しいにも程がある! それはバルザス様の、いや、魔界の歴史そのものを否定する暴論だ!」


「アンダルシアの連中までが、ガルマイドの考えを尊重するなどと言い出すとは……四天王も堕ちたものよな!」


 不満を吐き散らす声が応接室に響き渡る中、ヴァルテリアはただ静かに彼らを見つめていた。


「ヴァルテリア卿! このままではガルマイドに魔界を乗っ取られてしまいますぞ!」


「今こそ卿の力をお示しください! 腑抜けた四天王どもに、地獄の業火を浴びせてやるのです!」


 ヴァルテリアは何も答えなかった。ただ、パチンと扇子を鳴らした。


 それだけで、部屋の空気が一変する。妙な威圧感が満ち、魔族たちは息を殺し、身を固くした。


「……私の魔術を、そのようなことに使うだなんて。些か不愉快ですね」


 静かな口調の奥に、確かに怒りが潜んでいた。その気配に魔族たちは戦慄し、すぐに頭を下げて非礼を詫びる。


「も、申し訳ございません! 決してそのようなつもりでは……」


 謝罪の言葉を、ヴァルテリアは静かに遮った。


「……私の考えは、あの会議で申した通りです。力ある魔族が権威を示すからこそ、魔王という存在が社会的地位をもたらし、やがて魔族同士の秩序が生まれる。むやみやたらと権力を分散したところで、綺麗に統治できるほど魔界は甘くない。そのことを、彼に知ってもらわねばなりません」


 言い終えると、彼女はメイドが運んできたティーカップに手を伸ばし、ゆっくりと口をつけた。


 柑橘の香りがふわりと広がる。好んでよく飲むその紅茶の、スッキリとした風味は、彼女自身の矜持そのものを映しているかのようだった。



——王都・ガルマイド邸三階・執務室


「ひとまず、話が纏まって良かったな」


 ソファにぐったりと身を沈めるガルマイドに、アンダルシアが労いの言葉をかける。


「ですが、これでヴァルテリア卿とは徹底的に対立してしまいましたね」


 プラムバナードがそう言ったところで、お茶を淹れて戻ってきたキースレインが会話に加わった。


「まぁ、想定の範囲内じゃない? ほんと、昔から貴方って彼女と相性悪いわよね」


「……ほっといてくれ」


 キースレインが軽く揶揄うように言うと、ガルマイ

ドは顔をクッションに埋めたまま、ぼそりと答えた。


 しばらく沈黙が落ちた後、プラムバナードが今回の会議を冷静に振り返る。


「先ほどの会議から見るに、ガルマイド派が八名、ヴァルテリア派が五名、中立派が四名といったところでしょうか。実際、ヴァルテリア卿たちの拒絶反応は、かなり強いものを感じました」


 アンダルシアとキースレインも、それぞれ口を開く。


「……まぁ、ヴァルテリア卿の言い分も分からなくはないがな。俺たちの主張は、たとえ正論であっても、正統では無い」


「ヴァルテリア卿自身の実力も確かですし、一定の支持者はいるでしょう。一筋縄ではいかないでしょうね」


 アンダルシアはふと、プラムバナードに視線を向けた。


「クロム卿はどう動くと思う?」


「……会議での大きな動きは見られませんでしたね。中立派の筆頭として、沈黙を守っているようです」


 その言葉に、ガルマイドがゆっくりと身を起こし、お茶を一口飲んだ。


「……クロム卿には、この一件、極力関与せずに見届けていただくよう、私から頼んだんだ」


「どうしてだ?」


「クロム卿はバルザス様の古くからの友人でもある。是非ともクロム卿にはバルザス様の代わりとなり、新たな魔王と共に魔界が生まれ変わる瞬間を見届けてもらいたいのだ」


「ガルマイド……」


「……必ず魔王になってみせる。必ずな。それが私なりの、責任をとるというものだと信じている」


 そう言い残し、ガルマイドは執務室を出ていった。


「……責任をとる、とはどういうことでしょうか」


 キースレインが、不思議そうに呟く。


 アンダルシアは視線をテーブルに落とした。キースレインがガルマイドに渡していたお茶が、そこに残っている。


 上は透き通った色をしているのに、底には茶葉が沈殿し、色濃く沈んでいる。


 彼は一瞬、そのお茶を見つめた。そして手を伸ばし、すべて飲み干してから、静かに執務室を後にした。

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