7.魔王選定会議
ガルマイドたちが魔王城へ集結してから三日後、遂に魔界の歴史が変わる日が訪れた。
舞台として選ばれたのは、魔王城と目と鼻の先に位置する宮殿——通称「万魔殿」である。
かつて魔王バルザスの別邸として建てられ、魔界の重要な決断を下す場としても使われてきたこの場所で、今、魔界の未来を決める会議が開かれる。その意味は決して小さくなかった。
——万魔殿三階・大会議室
予定開始時刻の正午まで、あとわずかという頃、大会議室に多くの魔族が入り始めた。
巨大な円卓を囲むようにそれぞれが席につき、定刻まで談笑を交わしながら、その時を待っていた。
やがて日が上り切り、正午を迎える。
万魔殿に備えられた大鐘の音が、宮中に低く響いた。
それと同時に、大会議室の扉が開く。
この会議に出席する最後の一人であり、主催者でもあるガルマイドが入室してきた。
着席した面々を軽く見渡した後、ガルマイドが口を開く。
「皆、多忙の中、この場に集まってくれたことに感謝を申し上げたい」
軽く一礼し、続けて今回の会議の概要を簡潔に伝えた。
「さて、周知の通り、先月からバルザス様の容体は悪化の一途を辿っている。このままでは魔界を統治する者がいなくなり、いずれ我々は種族としての破滅を迎えることになるだろう。そこで今回、早急ではあるが、魔王バルザス様に代わり、魔族——ひいては魔界における新たな統治者を決めたいと思う。私の意見に異議があれば、挙手を願いたい」
誰も手を挙げない。静かな沈黙が広がるだけだった。
「……異議なし、ということで。では早速本題に入ろう」
「新たな統治者を、決めたいと思うのだが……」
その瞬間、場の空気が一変した。張り詰めた緊張が、円卓の周囲に広がる。
ガルマイドはそれを瞬時に読み取り、言葉を継いだ。
「…バルザス様が永きにわたって魔界を統治してこられたが故に現在、次の魔王を決める明確な制度は存在しない。たとえこの場にいる誰かが『次期魔王になる』と叫んだところで、必ず誰かしらの不満が残り、決着がつくことはないだろう。そこで提案だが、これよりここ万魔殿にて魔王選挙を行いたいと思う」
選挙——その言葉に、案の定、魔族たちの反応は様々だった。ざわめきが広がる中、一人、静かに話を聞いていたクロムが口を開いた。
「ガルマイド君。魔王選挙とは、つまりどういうことなのかな?」
クロムの問いかけで、場の空気が再び落ち着きを取り戻していく。
静まったタイミングを見計らい、ガルマイドは詳細を述べた。
「概要は至ってシンプルです。我こそは次期魔王にふさわしいと思う者は、この場で立候補してもらいたい。そして立候補者は後日、自身の掲げる公約を魔界全土に向けて公開し、次期魔王としての考えを示してほしい。票数を比べ、最も多くの魔族に支持された人物を次期魔王とする。ということです」
ガルマイドはさらに付け加える。
「選挙を行う意義としては、魔界に住まう全ての魔族たちにこれからの魔界を扇動するリーダーとして誰が最も相応しいのかを公平に決めてもらう為です」
ガルマイドの提案を聞いて、魔族たちは互いに様々な意見を出し合っていた。
そんな中、
「少し、よろしいでしょうか?」
声が上がった方へ、ガルマイドが目を向ける。
「ヴァルテリア卿、どうぞ」
ヴァルテリア・フレイア。魔界東部に位置するローゼン地方の領主であり、初代炎の魔女として今尚、魔界に多大な影響を及ぼす大魔族として知られている。
「貴方が仰った魔王選挙ですが、その制度に些か疑問を感じます」
「先ほど『公平に決めてもらうため』と仰いましたが……その公平さとは、一体誰に対するものなのでしょうか?
たとえ、力のある者が理想を掲げても、力のない者が数の暴力で押し通す。それが『選挙』というものであり、民主主義の本質というもの。 魔界において、強者の一票が弱者の一票と同じ重みを持つなど、到底認められる道理がありません」
ガルマイドはすかさず答える。
「私が次期魔王を選出する方法として、選挙というやり方を選んだ理由としては、今の魔界に蔓延る問題について、多くの魔族に関心を持ってもらいたいからなのである。この魔王選挙を皮切りに一人一人の政治意識を高められればと思う」
この答えにヴァルテリアは沈黙した。
それでも他の魔族からの非難の声が上がる。
「ヴァルテリア卿の言う通りだ! 次期魔王の選出は、民意で選ばれるものではない! 誇り高き魔族同士で競い合い、力で示すべきものだ!」
ガルマイドは呆れたように言葉を吐き捨てた。
「この期に及んで、まだ私がこの会議を開いた意義を理解していないのか」
その叫びで、一同は静まり返る。
「我々は過去、二度にわたり隣国との戦争を繰り広げてきた。そこで何を学んだ? 敗北こそしなかったものの、一体何千、何万という魔族がその戦いで命を落としたと思っているのだ!
この際はっきり言おう。力を振るうだけの統治では、魔族はいずれ滅亡へと向かうだろう。これからは手を取り合い、争いのない統治を目指すべきなのです」
ヴァルテリアが、皮肉めいた言葉を投げる。
「……素晴らしい演説ですわね。まるで、すでに魔王が誕生したみたいですわ」
ガルマイドは挑発を受け流し、静かに返した。
「私より魔王に相応しいと思うのならば、是非立候補してみては?」
こうして新たな魔王を決める会議は、民主主義を掲げるガルマイド派と権威主義を掲げるヴァルテリア派とに別れて議論が白熱していった。
議論の末、二日後に再び万魔殿にて、ガルマイドとヴァルテリアのどちらが魔王に相応しいかを決める——公約演説を行うことが、決定したのだった。




