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魔族の國   作者: 家猫
魔界開国編
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12/16

12.最期の別れ

 数日後——選挙の熱気でざわついていた魔界とは打って変わり、穏やかな朝日が魔王城を静かに照らしていた。



——魔王城七階・集中治療室


「……昨日から、魔力量はどうなっている?」


 クロムの声は低く、どこか疲れを帯びていた。侍女はわずかに息を整え、報告を始めた。


「体内から放出されている魔力総量は、0.4mpを下回っております。昨日からさらに低下し……魔力循環も不規則です。心臓の拍動も弱々しく、昼夜を問わず三人体制で回復魔術を重ねがけして、ようやく生命を繋いでいる状態です」


「延命魔術も、ここまでか……」


 クロムは静かに目を閉じ、しばらくしてバルザスを見つめた。その視線には、すでに覚悟の色が浮かんでいた。


「……分かった。すまないが、魔王を呼んできてくれないか」


「かしこまりました。すぐに」


 侍女は深く一礼し、静かに部屋を後にした。


 しばらくして、扉が開き、ガルマイドが入ってきた。


「……クロム卿、お呼びですか?」


 クロムは背を向けたまま、窓の外を見つめていた。部屋には三人だけ。回復魔術の駆動音だけが、低く規則正しく響き続けている。


 やがて、クロムがその沈黙を破った。


「……ガルマイド君。就任早々、心苦しいところではあるが——魔王である君に、決めてほしいことがある」


 ガルマイドは、クロムの横顔を見て悟った。


 それでも、その意味を受け入れたくなくて、わざと鈍い声で問い返した。


「……何を、でしょうか」


「……」


 数秒の沈黙が、二人の間に落ちる。その数秒が、ひどく長く感じられた。


「……今、バルザスは延命魔術を最大限に展開し、かろうじて命を繋ぎ止めている。だが、それでも虫の息であることに変わりはない」


 クロムはゆっくりと振り返り、ガルマイドをまっすぐに見た。


「君に来てもらったのは、この魔術の運転を……止めるか否か、決めてもらうためだ」


 つまりは——これ以上の延命をやめ、自然な死を迎えることを、認めるということだ。


「……もし、運転を止めないと言ったら…?」


「…ガルマイド君」


 クロムはガルマイドに穏やかな声で諭すように伝える。


「バルザスを……もう休ませてあげないだろうか?」


 クロムはそう言うと、それ以上の言葉は発さなかった。


 ガルマイドは、しばらく黙っていた。やがて、小さく息を吐き、項垂れた。


「……分かりました」


 その声は、静かだった。


「……魔術の運転を、停止してください」


 クロムは静かに頷くと、アンダルシアたちに伝えると言い残し、部屋を出ていった。


 残されたガルマイドは、ゆっくりとバルザスの傍らへ歩み寄った。


「……バルザス様。見て頂けましたか」


 彼は、静かに微笑んだ。


「約束通り、私は……バルザス様の後継者として、魔王になりましたよ。正直、まだこの椅子には慣れません。課題も、山のようにあります」


「ですが——私は、決して諦めません。これからも、どうか見届けてください。私の……いえ、私たちの国造りを」


 深く一礼し、ガルマイドは静かに部屋を退出した。


 その晩。


 ガルマイドの命により、延命魔術は停止された。


 永らく魔界を治め、魔族の象徴であり続けた魔王バルザスは、多くの部下に看取られながら、静かに息を引き取った。

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