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魔族の國   作者: 家猫
魔界開国編
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11/17

11.新魔王、誕生

——万魔殿三階・大会議室


 演説を終え、二人は大会議室の席で投票結果を待っていた。


 言葉は交わされず、ただ沈黙だけが部屋を満たしている。窓の外では魔界の夜風が静かに吹き抜け、重厚なカーテンをわずかに揺らした。


 やがて、扉が開く音が静寂を破った。クロム卿が姿を現し、二人に穏やかな声をかける。


「二人とも、お疲れさま。先ほど集計が完了した。これから結果を発表する。私について来たまえ」


 ガルマイドは深く息を吸いながらゆっくりと席を立ち、クロムの後に続く。ヴァルテリアも扇子を静かに閉じ、その後に続いた。



——万魔殿五階・大広間


 扉が開くと、大広間にはすでに両派の魔族幹部たちが揃っていた。ガルマイド派もヴァルテリア派も、緊張と期待の入り混じった視線を二人に向ける。労いの言葉が交錯する中、クロムが一歩前に出て場を制した。


「これより、投票結果を発表する」


 場内の空気が一変する。すべての視線がクロムに集まった。


 クロムが手を掲げると、空間に淡い光の魔術式が展開された。中央に巨大なグラフが浮かび上がり、ガルマイドとヴァルテリアの名が並ぶ。


 グラフの棒が勢いよく伸び始めた。幹部たちは息を潜め、その先端を追うように見つめる。


 やがて、動きがぴたりと止まった。


 ガルマイド —— 七〇万二千百三十票

 ヴァルテリア —— 三十七万八千七十一票


 およそ六割五分の魔族が、ガルマイドを選んだ。


「馬鹿な……!」


 最初に声を上げたのは、ヴァルテリア派の幹部だった。


「これは…何かの間違いだ!こんな結果を、バルザス様は受け入れられる筈がない!」


「そうだ!きっとガルマイド側が手を回したに違いない!」


 根拠のない怒号が大広間に響き渡る。


「こんな結果は認めん! 投票は無効だ! 卑劣なガルマイドはクロム卿と……」


 その瞬間、叫んでいた魔族の体が黒い炎に包まれた。炎は一瞬で燃え盛り、彼の姿は跡形もなく灰となって消えた。


 静寂が戻る。


「…クロム卿」


 ヴァルテリアが静かに口を開いた。確認するように、しかしすでに理解した者の声だった。


「この結果が……魔界の…魔族たちの声なのですね」


「ああ。間違いない」


「……そう、ですか」


 ヴァルテリアはほんの一瞬、肩を落とした。だがすぐに視線を上げ、真正面からガルマイドを見つめた。


「…貴方の演説、全く響かなかったと言えば、嘘になるわ。……正直なところ、私は新たな時代を迎えることを、どこかで恐れていたのかもしれない。それは、きっとこの魔界に住まう者たちも同じこと。長い歴史を背負ってきた私たち魔族は、物事が大きく変わろうとする時、想像以上に脆く、方向を見失うことがある。

 魔王とは、常に私たちを照らし続ける存在でなければならない。今一度、聞かせて頂戴。……貴方に、その覚悟があるの?」


 ガルマイドはヴァルテリアが持つ緋色の眼を見て、迷わず答えた。


「はい」


 短く、しかし揺るぎない声だった。


 暫くの沈黙の後、ヴァルテリアの唇に、初めて穏やかな笑みが浮かんだ。


「……それなら、安心して任せられますわね」


 彼女は深く頭を下げた。


「これから、どうか私たち魔族を導いてください。——魔王陛下」


 こうして選挙は終わりを告げた。


 新たな魔王としてガルマイドが就任し、長らく続いていた後継者問題は、静かに、しかし確かに解決されたのだった。

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